The Lovers エブマル
特別な甘い言葉もなく、口付けを落とされる。
マルシベールにはもう慣れた事だった。
一つも甘い言葉などないのに、触れられるたび体温が上がる。
たまらなくなってシャツを掴んだ。
エイブリーは行為の最中でさえ、ネクタイとローブ以外の衣服を脱ぐことはない。
自分だけが裸という羞恥に、何度も抗い、エイブリーの服を脱がせようとしたが敵わなかった。
長いキスの後、吐息を漏らし、切れ長の目を見つめる。
ふと、エイブリーの体が離れた。
「………?」
マルシベールは薄明かりの中で体を起こした。
「…何…?」
端正な無表情を見上げる。
エイブリーはマルシベールに軽くキスをすると、自分のシャツのボタンを外した。
露わになるエイブリーの首や胸板に顔が火照る。
「あああの、エイブリー…」
「なんでお前が照れるんだ?」
外されてゆくボタンにマルシベールは息を呑んだ。
「だって…初めてじゃん…」
エイブリーは口元に笑みを浮かべた。
「最初で最後だ、服を脱ぐのは」
甘い囁きにマルシベールははにかんだ。そして、ためらいがちに両腕を伸ばし、はだけたシャツをくぐり、そっとエイブリーの素肌に触れた。
「フツーだ…」
「うろこでも生えていると思ったのか」
「い、いや、そんなんじゃない…けど…」
マルシベールは、素肌を見つめたまま、ゆっくりと確かめるように、その体をなぞった。
指先から、手のひらから温かさが伝わる。
輪郭をなぞり、首をなぞり、憑かれたように肩からシャツを滑り落としてみる。
エイブリーは無言でその動作を許した。
熱を帯びた沈黙が空気を染め、流れ、動いた。
end.
りゅう様に捧げます
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