The Lovers エブマル
エイブリーは目を細めた。
自分を愛するために人を愛する人。お互いにそうである人。
エイブリーにとって、マルシベールはどちらでもなく、唐突に誰かから贈られた存在のようだった。
戸惑うほどの喜び、そして何故くれたのだろうか…面白いこともあるものだ…と微笑むほどの愛しさ。
だからこそ、気付けば心の多くを占めていた。
「…馬鹿かお前は…振り回されているのは俺の方だ…」
エイブリーはため息混じりに言うと、体をずらし、目線を机に送った。
机の上には、マルシベールが毎日気にしていた手紙が山積みになっていた。
マルシベールは顔を上げ、初めて見た手紙の山を見つめた。
エイブリーが手紙を溜め込んだことはない。
どんなに多くの手紙をもらっても、ラブレターはマルシベールに焼かれ、家族からの手紙等は、次の日には全て返事を書き終えていた。
「…返事…書いてないのかよ…」
「おかげで仕事がはかどらない」
マルシベールはうつむいた。
嬉しそうに頬が緩むのを必死で抑えている。
「おかしな顔をするな…そんなに嬉しいか」
「嬉しいさ…どんなことだって嬉しいんだ。オレのせいであんたが困るのも、オレのせいで何かが狂うのも…全部嬉しいんだ」
「…迷惑な話しだ」
エイブリーは椅子に座り、羽ペンを取り出した。
マルシベールは黙ってその背中を見つめた。
羽ペンがインク壺に入る寸前で止まる。
そして静かにぱたりと置かれた。
机を照らすやわらかな明かりの中、エイブリーの左手が上がった。
机に肘をついたまま、左手を上げ、手のひらをマルシベールに向けている。
マルシベールの顔に笑みが溢れた。
早足で近付き、手を伸ばし、大きな手のひらに自分の手を重ねる。
指を絡め、包み込まれ、そのまま力強く引き寄せられる。
マルシベールは苦しいほど抱き締められながら、エイブリーの背中にしがみつき、幸せそうに微笑むと、その胸に顔を埋めた。
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