The Lovers エブマル
マルシベールが目を覚ましたのは、その日のうちの夜だった。
ポンフリーが運んできた夕食を慌しく平らげ、ベッドから飛び降りた。
「今夜はゆっくり休みなさい」
ポンフリーは盆を持ちながらため息をついた。
「帰る!!早く帰らないとみんなにからかわれる!やられて医務室から出てこないなんてカッコ悪すぎる!」
「わざわざ喧嘩をする方が格好悪いですよ!」
ぴしゃりと言われ、マルシベールは黙り込んだ。
「…すみません…いつも…」
ポンフリーは肩をすくめて微笑むと、ドアを開けた。
マルシベールは勢いよく駆け出したが、ドアの前で急に振り返り、ポンフリーにお辞儀をした。
談話室に戻ったマルシベールは、ひやかしの嵐に見舞われた。
「おい!マルシベール!やられたんだってな!」
「廊下の隅で寝てたってホントか?」
ここぞとばかりに野次を飛ばすもの、雰囲気に乗じて馬鹿にする者が笑う。
マルシベールも笑った。
ひとしきり笑い、杖を出すと、自分を冷やかす顔めがけて毛虫と糞爆弾を投げつけた。
嘲笑が悲鳴に変わった。
「勝ったこともない、負けたこともないお前らにとやかく言われたくねーよ!!」
マルシベールは大声で言うと、ウエーブのかかった金髪を揺らしながら談話室を横切った。
しかし、部屋の前で足が止まった。
ドアの向こうには自分のベッドと同室のセブルスのベッド、そしてエイブリーのベッドがある。
ドアを開ける勇気はなかった。また、談話室へ引き返す気力もなかった。
思わずため息が漏れる。
その時、自分の隣に立つ人間がいた。