The Lovers エブマル
「あの手紙は父から送られてくる仕事のようなものだ」
「…仕事…?」
まるで金縛りから解放されたように、セブルスは大きく息を吸った。
「そうだ」
エイブリーは再び森を見た。
「もうじき恐ろしい時代がやってくる。お互いがその姿や、雰囲気や、声色をなくし、限られた世界で頼りないものにすがりながら触れ合う世界…。何を信じてよいのか分からない。知らぬ間に、気付かぬ間に忍び寄る悪意が満ち、世界を侵食する。そんな暗黒の世界がやってくるんだ…」
「………」
言葉を待つセブルスに、エイブリーは遠くを見つめたまま目を細めた。
「俺が毎日やりとりしている手紙は、その時が来たときの為だ。父から指示された人物を探り、交友関係、行動を観察し、報告する」
「お前の父は…」
「魔法省神秘部の人間だ…」
初めて知らされた話に、セブルスは黙り込んだ。
もうじきやってくる暗黒の世界…その時のために動いているエイブリー…そして神秘部の父…。
「なぜそんな話を僕に…?」
僅かな間があいた。
「セブルス…君は運命というものを信じているか…?」
セブルスの眉間に訝しそうな皺が寄った。
ジェームズは何かにつけて運命という言葉を口にしていた。
“君と僕はまさに運命だ~!!”
あのにやけた顔を思い出し、さらに眉間に皺を寄せた。
「…いや」
セブルスの吐き棄てるような言葉に、エイブリーは口元に笑みを浮かべた。
「運命という言葉はそれを表す精一杯の言葉に過ぎない。目に見えない大きな力、抗えない力だ。たとえば、人はその力によって、必ず何者かに成るように動かされている。生まれたときから…」
「お前は自分が何になるのか知っているのか…?」
エイブリーは答えなかった。
セブルスはエイブリーの横顔を見上げた後、同じように森の方に視線を送った。