The Lovers エブマル
「何してるの?」
「ルーピン!?」
しゃがみこんだセブルスの背後にリーマスが立っていた。
あまりのタイミングのよさに、勢いよく立ち上がる。
リーマスは驚いて一歩下がった。
「だってここ医務室の真ん前じゃないか…」
「……そうか…」
「それより、その二人どうしたの?」
リーマスはセブルスの背後で倒れている二人を覗き込んだ。
セブルスは、マルシベールが呪いにかけられたこと、シリウスが会話の途中で倒れたことを説明した。
リーマスの目がだんだん冷たくなってゆく。
「…じゃあ中へ運ぼう」
リーマスはマルシベールを抱きかかえた。
「…ルーピン…ブラックは?」
「ああ…放っておけばいいよ」
素っ気ない言葉に首を傾げながら、セブルスはシリウスの後頭部をちらりと見た後、ドアを閉めた。
誰かが肩を叩いている。
「……ん…」
シリウスは目を開けた。
「だらしないな」
切れ長の目がシリウスを見ている。
表情のない顔は、シリウスとはまた違った整い方をしていた。
「…エイブリーか…」
シリウスはエイブリーに助け起こされ、乱れた髪を掻き上げた。
「お前どこ行ってたんだよ!あのサル運んだの俺なんだぜ!」
「…面倒をかけた…感謝する」
エイブリーの言葉に、シリウスは思わず口を開けた。まさかエイブリーからそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
「…いや別に」
頭の後ろがむず痒くなって、ボリボリと掻く。
そんな様子をエイブリーは無言で見つめていた。
「…何故こんなところで倒れていた?」
「…う…いや…別に…まあ…」
シリウスが焦る。
エイブリーの表情は相変わらず読み取れない。けれども、なぜか居心地のよさをシリウスは感じていた。
拒絶という冷たさではなく、警戒心を忘れてしまうような静かな空気が漂っている。
「いつも一緒にいると思ってたけど、今日は別々なんだな…」
シリウスは医務室の扉を見つめながら、話しかけた。
「いつも一緒に居た」
短い答えが返ってきた。
「いた…って過去形かよ…何かあったのか…?」
「痴話喧嘩だ」
「……………」
あっさりと言われ、シリウスは何も言えなくなった。
「……ああ、そう」
ようやく力なく答えた。
相変わらず無表情なエイブリーと、どこか照れたシリウスが立ち尽くす奇妙な光景に、通りすがりの生徒たちは不思議そうに振り返っていた。