幸福讃歌 鹿猫
紅茶にミルクと砂糖を入れる。
「ポッター…これを解け…」
セブルスが不満そうに言う。
「食べさせてあげるよ」
ティーカップをセブルスの口元に持っていく。
セブルスは紅茶を見つめ、僕を見上げた。
「口移しがいい?」
眉間に皺が寄った。そして睫毛を伏せた。
額より薄く、白い瞼とその中で揺れるような黒い瞳が壮絶に綺麗で、伏せられた長い睫毛を見ながら、やっぱり口移しにすればよかったと後悔した。
「甘いな…」
顔を上げて唇を噛む。
僕はそっと触れるだけのキスをした。
セブルスは僕の口付けを静かに受け止めた。
無言のまま、カップをソーサーに置き、スコーンを小さくちぎる。
セブルスが僕の手元をじっと見つめている。
さすがに僕も緊張した。
わずかに色付いた唇が開き、白い歯が覗く。僕は内心、理性と闘いながらその口にスコーンを入れた。
「…んっ!?」
セブルスが目を見開いた。
え?
「…ゲホッ!ゴホッ!!…ポッター!!」
僕は慌てて彼の拘束を解くと、その手に紅茶を持たせた。
何?何で?
「…貴様…砂糖と塩を間違えたな…」
えええええ!!??
僕はスコーンをかじった。
「!!??」
塩?岩塩?
たしかあいつら(屋敷しもべ妖精)は塩は隠し味ですって言ったのに!!
くそう!あいつら全員ブラック家に売り飛ばしてやる!!
「…ごめっ…セブルス…ごめん…」
僕は紅茶をガブ飲みして彼の肩に手を回した。
「……っ……」
セブルスの肩は震えていた。
嘘…。
泣いてる…。
「…え…ごめん…セブルス…悪気はなかったんだ…ホントだよ…?」
「…い」
黒髪の間から涙が頬を伝っている。
そしてその口から信じられない言葉が出てきた。
「…美味いな…」
「……え?…」
僕は生まれて初めて自分の耳を疑った。
美味しいワケないじゃないか。だって…。