ホグワーツの怪談 全員
廊下の往来は決して少ないとは言えなかった。
食堂からゆっくりと出て行く者、他寮との交流を楽しむ者、それぞれがあちこちで消灯前のひとときを楽しんでいた。
その時、廊下の隅でピーターの悲鳴が聞こえた。
生徒たちは振り返り、何人かは悲鳴の上がった辺りへ近付いた。
ピーターが足を巨大な蜘蛛に掴まれて倒れている。
近くでは杖を掲げたマルシベールが大笑いしていた。
生徒たちはいつも通りの光景に肩をすくめ、興味がなさそうに通り過ぎた。
「ピーター…」
リーマスは階段の手摺りから身を乗り出し、声が聞こえた方を窺っていた。
ピーターがあっけなく倒されるのは、誰もが予測していたことだったので、リーマスはローブの襟を正し、2階の廊下を慎重に歩いた。
どこかにエイブリーがいるはずだった。
リーマスはポケットに手を入れ、杖を握り締めた。
2階の往来はほとんどなく、柱の影に逢瀬を楽しむ下級生が一組いるだけだった。
手を取り合って、囁き合う二人を目の端で捕らえながらやり過ごし、歩き続ける。
リーマスはエイブリーが苦手だった。
満月が近付き、体調が悪くなると医務室でポンフリーの世話になるのが常だったが、いつもそこでエイブリーを見かけた。
マルシベールがしょっちゅう喧嘩や悪戯で負傷するせいで、その担ぎ役が彼だった。
かなりの長身に黒髪を乱さず後ろに撫でつけ、ポンフリーに叱られるマルシベールに付き添う。
無表情でいて、時折切れ長の目でこちらを見られると、まるで自分が人狼であることを知られているような焦りを感じた。
リーマスは他の階より明るく照らされた廊下を歩いた。
そして目の前で自分を待ち受ける背の高いエイブリーに対峙した。