幸せの黒い犬 犬狼
「…今、何て言った…?」
シリウスは低い声で目の前の恋人を凝視した。
「別れたい…」
リーマスが足元に積もった落ち葉を見つめながら、繰り返し言った。その表情は読み取れなかった。
「意味が分からない」
シリウスは込み上げてくる感情を必死で押し殺しながら努めて冷静に言った。
「僕は独りが好きなんだ」
リーマスは口元に笑みを作ろうとした。
「じゃあ何で泣いてるんだ?」
シリウスが溜息混じりに言った。少しずつ声が荒々しくなっている。
リーマスは泣いていた。シリウスはリーマスに近づこうとした。リーマスが身を引くように後ずさりしシリウスを見た。
「シリウス…僕は…」
リーマスは嗚咽を必死で抑えながら、最後の言葉を言うために大きく息を吸った。
「知ってる」
シリウスが先に言い放った。
リーマスが弾かれたようにシリウスを見た。そして、覚悟を決めたように目を閉じた。
「…今まで、隠していてごめんなさい。…騙していて、ごめんなさい…。こわかった…。君たちが…離れていくのが…。シリウスが…」
リーマスは声が震えてそれ以上続かなかった。
シリウスの我慢が切れた。
「俺たちも馬鹿にされたもんだな」
シリウスは吐き捨てるように言った。
リーマスがシリウスを見た。シリウスは本気で怒っていた。
「俺たちがそんな馬鹿だと思っていたのか!!たったそれだけで俺たちが恐れをなしてお前から離れるとでも思ったのか!?俺がお前を嫌うとでも!?」
シリウスは大股でリーマスに歩み寄った。
リーマスが思わず目を瞑る。
シリウスはリーマスを思い切り掻き抱いていた。
リーマスは信じられず目を見開いた。
「リーマス」
シリウスがリーマスの震える身体をなだめる様にさすりながら、話した。
「俺たちは、けっこう前から気付いていた。でも、誰も恐れなかった。それでリーマス・ルーピンの何が変わる?俺たちはリーマス・ルーピンという人間を愛したんだ」
シリウスは一息おいて、リーマスの耳元に囁いた。
「リーマス、愛してる」
リーマスは涙声のまま首を振った。
「危険…なのに…もしかしたら君たちを…」
シリウスは心の中でジェームズに謝った。
「リーマス。そのために俺たちは準備をしてきた。お前が変身しても、一緒にいられるようにと…」
リーマスは訳が分からずシリウスの顔を見上げた。
「準備…?」
「そうだ…」
シリウスはリーマスの両肩を掴み、そこに留まらせると少し離れた場所に移動した。
「リーマス」
シリウスは晴れやかな顔に、いつもの悪童らしい瞳を輝かせた。
「俺たちは共犯だ」
ニヤリと笑うとその姿がゆるりと変わった。