チョコレート中毒 狼
廃墟と化したその家にリーマスは3年いた。
1981年10月31日
ジェームズ・ポッター
リリー・ポッター
死亡
シリウス・ブラック
アズカバン投獄
「ひどい有様だ」
男の声に、窓辺にもたれて立っていたリーマスは口元に笑みを浮かべた。
「いい加減に私と一緒に来なさい」
破れたカーテンの隙間がナイフのように光っている。
遮光された部屋で、リーマスの肌は青白かった。
窓を背にし、出窓に肘を掛け、俯いている。
「部屋を片付けなきゃいけないんです」
虚ろな声が聞こえた。
部屋は片付いていた。
キャビネットのガラスや、食器がいくつか割れていたが、食べ残しやグラスといった汚れ物は見当たらなかった。
男は埃っぽい部屋の床を見た後、テーブルに視線を向けた。
グラスが二つ、皿が二枚、揃えられていた。
男は深い溜息をついて言った。
「もし君が信じられないのなら、一緒にアズカバンへ行き、あの男を認識させても良いが?」
リーマスは顔を上げ、曖昧に微笑んだ。
「セブルスは大丈夫ですか?」
「ああ…私のところにいる。大丈夫だ、君も私のところへ来なさい」
「…なんで生きていられるんだろう…」
リーマスはポツリと呟いた。
「セブルスに会えば分かる」
男は感情を抑えた声で早口で言った。
リーマスは体中の重さを吐き出すような、長く大きな溜息をついた。
「僕はここにいます…ずっと…。ダンブルドア、僕はあの人さえいれば何もいらなかった。今も…今もです。全てに繁栄と衰退がある。僕はたった一人になってもいいんです。僕の元からみんなが一人ずつ離れていってもいいんです。僕はそれでもみんなが好きで、愛していられる。彼のことも。僕は愛していられるんです」
リーマスの静かな声をダンブルドアは聞いていた。
妄信的な、一方的な愛という言葉を。
ダンブルドアの青く澄んだ目が、リーマスの半ば狂信的な瞳と交わった。
「次はセブルスとここを訪れる」
リーマスは目を細めた。
「だったらお願いがあります。僕に毒とチョコレートを持ってきてください」
ダンブルドアが訝しそうにその顔を窺った。
「死ぬわけじゃありません。満月の夜に飲みたいんです。人狼になってもこの家を壊さずにいられるように…人狼になれば毒なんて効かないでしょう?おとなしくしていられる…それからチョコレートはたっぷり…」
全身を甘く沈めるチョコレートを。
幸福の代わりに。
喉を焼くような甘い甘いチョコレートを。
end.
1/1ページ