春の庭 鳥→針

粉々に割れたレンガを踏みしめる。
レンガの隙間からセージ、マーガレット、カモミール、ルピナスがたくましく伸び、花で埋め尽くそうとしている。

つま先の少し尖った靴でそれらを踏まぬよう、男は慎重に誰もいない荒れ果てた庭を歩いた。
崩れた薔薇のアーチを細く長い脚でまたぎ、屋敷を見上げる。
窓はそこら中割れ、天井は抜け、室内にも草が生えているようだった。
陽の光を浴びて割れた窓が青い空を映している。
春の暖かな風が吹き抜け、金色と見紛う鷲色の長髪が光に輝き風に揺れた。
すらりと伸びた背の高い男は、辺りを見回すと、玄関のドアに杖を向け、鍵を開け中へ滑り込んだ。

ひんやりした空気とカビの匂いがする。
外の眩しさのせいで室内が暗緑に見え、男は青い瞳を何度か瞬かせ、廊下を歩いた。

部屋を一つ一つ丁寧に調べてゆく。杖を使い呪文で引き出しを開けると、長く繊細な指で書類をめくる。そしてまた杖で引き出しを閉めると次の引き出しを開ける。
男はしばらくその動作を繰り返していたが、全ての引き出しを開け終わると静かにため息を漏らした。
ふらりと立ち上がる。
外から小鳥のさえずりだけが聞こえ、その静けさに場違いな安堵感を覚える。


いつ命を狙われるか分からない。死喰い人に出くわせば、集団で襲ってくるだろう。もちろん勝てる自信はある。

ダンブルドアは陰気な室内の空気を自虐的に吸い込み、視線を落した。

足元で割れたガラスが自分の姿を映している。

長身の鷲色の髪をした若い男。

ダンブルドアがホグワーツを離れ、一人行動し仕事をするときの姿だった。

その気になればいつでもこの姿になれた。
しかし、その姿は過去のあらゆることを思い出させた。
狙われ、その都度騒ぎを起こすことを回避するためにしている姿だが、ふいに自分の姿を見るたびに思い起こされる過去のフラッシュバックを自らすすんで目に焼き付ける時もあった。
その時、彼は痛みを思い出すことができた。

痛みや苦しみは時と共に劣化する。日々の忙しさという残酷な優しさをもって、ベールに包まれてゆく。

それが嫌だった。

繰り返し思い出しては、改めて傷を開いた。それがせめてもの贖いのつもりだった。
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