Rainbow 鹿猫


「その通りだ…」

素直に降参した。

「オレだったら…」

マルシベールが重ねた手の甲にあごを乗せながら、宙を見つめた。

「恋人を一日貸し切りで好きにできる権利!!エイブリー!!オレはそれが欲しい!」

「諦めろ」

エイブリーが一蹴した。

「お前はそれが言いたくて僕に話を振ったのか…」

セブルスが呆れてマルシベールを見た。

「でも、あのバカならそれが一番いいはずだぜ!オレには分かる!つれない恋人を持つオレが言うんだ。間違いない!」

マルシベールがウィンクした。



ー恋人を一日貸し切りで…好きにできること…。

セブルスはブツブツと呟きながら、鍋を掻き混ぜた。

「…無理だ…!」

ぐるりと匙を乱暴に回す。

その時間の魔法薬学の授業は最悪な結果になった。


「まだ悩んでんの?」

マルシベールが昼食に向かう途中で、セブルスの背中を勢いよく叩いた。

「箒の柄に塗るワックスや、新しい羽ペンじゃ駄目か…?」

セブルスがついに観念した声を出した。

隣から盛大な溜め息が聞こえた。

「マルシベール、僕にはそれぐらいしか…」

言いかけてセブルスは驚きのあまり、反射的に後退しようとしてバランスを崩した。

「まあ、君からならなんでも嬉しいけど?」

ジェームズがセブルスの手を引き、ダンスをするように腰を支えた。


「ポッター!」

「おはようセブルス。もうこんにちわかな?」

顔を近付けられ、セブルスは赤面した。

自分を抱き寄せる器用な手を振りほどき、早足で歩き始める。

「セ~ブ!今日はなんの日だ?」

ジェームズが頭の後ろで手を組みながら、楽し気に背後にぴったりくっついた。

セブルスは眉間の皺を増やしながら答えた。

「貴様が罰則を受ける日だ」

「へ?何で?」

手をほどき、ぽかんとセブルスを見下ろす。

「あの馬鹿げた横断幕だ」

「気付いてくれたんだ!」

セブルスは溜め息をついた。

「貴様には奥ゆかしさというものがないのか?」

「奥床…?何?」

「もういい…」

ふいに肩に手を置かれ、セブルスは足を緩めた。
右上に顔を向けると、ジェームズが自分を見つめていた。
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