マスカレード 全員
鳥頭の天使たちが生徒であることを感じさせない理由が分かったような気がした。
生徒が木の実を食み、フロアを一周し、羽ばたく。そして誰か分からなくなった辺りで舞い降り、人間のままの生徒のもとに近付いている。
それは健気な儀式のようだった。
旋回する天使たちを見上げているセブルスにエイブリーが話しかけた。
「セブルス…人間は面白いな…。愛されている者ほどそのことに気付かない。その想いに気付かない。気付かないフリをしているのか、そうすることによって逃げているのか…。逃げることは自由だ。だが、愛されることは素晴らしいことだ。愛することも。…ほら、来たぞ」
一羽の天使がセブルスの前に降り立った。
セブルスは一瞬身を引いた。
鳥頭の天使は片膝をつき、頭を垂れた。
ためらいがちにセブルスの手を握る。
その手は、どの天使も同じ形大きさのため、やはり誰か分からなかったが、その温かさに驚いた。
警戒心が解けてゆく。
天使は口付けできない代わりに、セブルスの白い手に羽毛で包まれた頬をすり寄せた。
「踊って来い…」
エイブリーが口元に笑みを浮かべた。
セブルスは無言のまま手を引かれ、フロアに出るとその鳥頭を見上げた。
鳥頭の天使はくちばしをカタカタと開けたが、何を言っているのか分からなかった。つぶらな目もくちばしも表情が読み取れない。
天使はくちばしを開けるのをやめると、両手を上げてセブルスの髪をそっと掻きあげた。そして手の平で頬を包み、首を触り、肩に触った。
「お前も物好きだな…僕と踊りたいなんて…」
セブルスは嘲笑し、鳥頭を見上げたが、わずかに動いた白い頭を見て、うつむいた。
表情がないはずなのに、相手が傷ついたのが分かった。
天使はセブルスの腰に手を回した。
手を取り、ゆっくりステップを踏む。
セブルスは自分をリードする大きな体と、その肩越しに見える白い翼を観察し、視線を落とし、裸足の足を眺めた。
不意に体を回され、よろけた瞬間、抱き上げられた。
「わっ!ちょっと待て!」
セブルスが目を見開く。
予感どおり、床が遠ざかった。