マスカレード 全員
ダンスフロアはかつてないほど異様な光景に包まれていた。
あちこちで真っ白なローブに裸足、背中には大きな翼を生やし、鳥の頭をした大柄な天使が、生徒と踊っている。
どちらも生徒なのだが、鳥頭の天使は、奇妙なほどそれが生徒であることを感じさせなかった。それどころか、みな同じ大きな体躯、白い翼、表情の分からない鳥の頭である。
ドレスや制服のままの生徒たちは、自分をダンスに誘った者が誰なのかを踊りつつ懸命に見抜こうとしていたが、口の利けない天使は名乗ることもできず、また、自ら名乗る者もいなかった。
セブルスは制服のまま、天使の姿を熱心に観察していた。エイブリーも隣でフロアを眺めている。
マルシベールが走ってきた。
「踊んないの?超面白いぜ!天使になると飛べるんだ!」
手の平にいくつも木の実のような薬を持っている。
「一人で飛んで来い」
エイブリーがマルシベールを見下ろした。
「ちぇ~つまんねえの~。絶対面白いって!!」
「ああ、後で試す」
「セブルスは!?」
「そうだな…めったに見られない薬の効用だ…ぜひ試したい…」
フロアから歓声が上がった。
何羽もの天使が舞い上がっていた。
マルシベールはその光景に堪らず、木の実を食むと走り出し、翼を広げた。
「よくやるな…箒でも飛べるのに…」
セブルスが呟いた。
「メインはダンスなのにな…」
エイブリーはグラスを傾けながら、天使に変身したマルシベールの姿を正確に目で追った。
「誰か分からないなんて悪趣味だ」
「そうでもないさ、あの姿になれば寮も、性別も、歳も、全ての制約を解かれ、真直ぐに意中の者の元へ行ける。平等と機会を与えることが好きなダンブルドアの考えそうなことだ」
エイブリーの言葉にセブルスはダンスフロアを改めて眺めた。