白い恋人たち 鹿猫
「…か?」
セブルスがぽつりと言った。
「え?」
ジェームズは振り返った。
「貴様は馬鹿か?」
セブルスははっきりとそう言った。それは先ほどの口付けを言っているのではないようだった。
ー馬鹿か?
それは「馬鹿じゃないだろう?」と言いたいセブルスの遠回しな表現だった。セブルスをずっと見てきたジェームズにはそれがすぐに分かった。
ポリポリと鼻を掻き「ありがと…」とつぶやいてセブルスを見た。その白い横顔は僅かに頬を染めていた。
ジェームズは嬉しくなり、一昨日からの鬱屈を忘れ、セブルスに勢いよく近づくと座ったままの細い身体を抱き締めた。
「大好きだよ…セブルス」
ジェームズは屈むようにセブルスを包み込んで耳元で囁いた。
「ばっ…馬鹿者…離せ」
セブルスがくぐもった声で抗議する。
ジェームズは動揺しているセブルスを楽しそうに離すと、温かな両手で頬を包み唇を重ねた。
幾度か角度を変えて口付ける。頬に添えていた右手をそっと後頭部に回すと引き寄せるように上を向かせる。セブルスの唇がわずかに開き、その隙に舌を滑り込ませた。セブルスが小さく身体を震わせる。漏れた声はジェームズを煽り立てた。
唇を離すと吐息が白く舞い上がった。
セブルスは濡れたジェームズの唇から目を逸らし、ぶっきらぼうに「食堂へ戻れ」と言った。
ジェームズは僅かに血色が差したセブルスの唇を指でなぞりながら「そうだね、これ以上いたら僕の方がおかしくなっちゃう」くすりと笑いながら背筋を伸ばした。
「あ、そだ、これ」
ジェームズは自分の首からマフラーを外すと、すばやくセブルスの首に巻きつけた。
セブルスが巻かれた赤と黄色のマフラーを見下ろし口を開きかけると、すかさずジェームズが言った。
「貸しといてあげる」
セブルスはマフラーを外しながら、「僕は自分のが…」と言いかけてジェームズがちゃっかり自分のマフラーをしていることに気が付いた。
「じゃあね、セブ。後でそのマフラーを返しに来てね♪」
ジェームズはいたずらっ気たっぷりにウインクをして、軽い足取りで校舎へ走って行った。
温室に残されたセブルスはマフラーを片手に突っ立ったまま、呆然と「馬鹿だ…」とつぶやいた。
しかし、緑と白のスリザリンのマフラーをジェームズがしていて、自分が何も付けていないと、まるで旗を奪われて負けたように思われるのではないかとセブルスは考えた。
負けず嫌いなのだ。
セブルスは無造作にジェームズのマフラーを首に巻くと、足早に温室を後にした。