白い恋人たち 鹿猫
ジェームズはそっと忍び込むように温室のガラス扉を開けた。一瞬、冷気のようなものがジェームズの衣服を包んだ。
温室とはいっても、雪がちらつく今日などは逆に冷え込んでいる。冬の温室は花もなく、特にこの温室は薬草ばかりとあって、教授でもない限り、誰も近づくことはない。
ジェームズは僅かに白い息を吐きながらベンチへ近づいた。
やはりいた。ジェームズがただ一人愛する人。セブルス・スネイプ。
くすんだ薬草に溶け込むような漆黒の髪、黒いローブ、顔は透き通るような白さで、顔色が良いとは言えない。寒いのは苦手なはずなのに、なぜか好んで寒い場所にいる。
ジェームズはセブルスの整った横顔に見惚れながら、ゆっくり近づいた。
セブルスはちらりとも顔を上げずに古い本を読んでいる。
右手には杖。警戒心の強いセブルスに少しだけ溜息を洩らしながらも、以前では出会う度に呪いをかけ合っていたのだから、大した進歩だと思わず口元がほころぶ。
そっとセブルスの隣に座る。しばらく続く沈黙。いつもなら「セブ~!」と言って抱きついては読書の邪魔をするのに、ジェームズはおとなしく座っている。さすがにセブルスは訝しく思い、文字を追う目が止まった。
ジェームズはそれには気付かずに、薬草を見つめながらぽつりぽつりと話し出した。
「箒から落ちたんだ。初めて。」
ジェームズは一昨日のクィディッチで箒から落ちていた。全くの不注意だった。それは本人のみならず、周囲の生徒たちファンたちにも衝撃的だった。
試合はすぐに助け起こされたメンバーのおかげで挽回し、勝利を収めたが、決勝への不安は嫌でもつきまとった。
ジェームズは滅入っていた。一日中、友に会えば励まされ、気遣われ、それにいちいち明るく応えていた。セブルスに会いたい。クィディッチなど見向きもせずいつも図書室にいるようなセブルスに。それでいて、いつも窓からこちらを心配そうに見つめている白い顔。
セブルスはジェームズに対して、誰に対しても世辞は言わない。シリウスはあんなつまらないヤツのどこがいいんだと言うけれど、ジェームズにとってはセブルスの隣が一番心地よかった。
「次の試合さ、自信ないんだよね…。」
弱気なところを見せられるただ一人の恋人。ジェームズは独り言のように誰にも言えない心を吐露した。
セブルスは相変わらず本に目を落としている。ジェームズはこの距離感がありがたいと思った。
ひとしきり話し、セブルスの黒髪に口付け、扉に向かって歩き出した。
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