トリックスター 鹿猫
「…克己心だ…シリウス…あれはボガートだ…落ち着け…顔を上げるな…」
「ブラック」
「はい!」
シリウスが飛び上がった。
「お前も食べるか?」
「喜んで!」
身を乗り出したシリウスの足を、リーマスが踏み付けた。
セブルスが微笑んでバニラをシリウスの口元に持っていく。
「こぼすなよ」
シリウスがテーブルに両手を着いて、セブルスの差し出したスプーンをくわえた。
リーマスはシリウスの尻を横目で睨んだ。尻尾があれば振っているに違いない。
「ほら、こぼしている」
セブルスがシリウスの唇を指で拭った。
シリウスがテーブルに突っ伏した。
「セブルス、また後でね」
ジェームズがセブルスに耳打ちした。
「ああ、すぐに行く」
セブルスがジェームズの頬に口付け、立ち上がった。
「行くよシリウス!」
リーマスも腰を浮かせ、シリウスを促した。
シリウスはテーブルに伏せたまま動かない。
「シリウス…?」
「悪いリーマス…立てない…」
リーマスはその意味を理解した。
「シ~リ~ウ~ス!!!」
リーマスは思い切りその頭をひっぱたいた。
「僕は面倒見ないからね!」
もう一度頭を叩くと、リーマスは歩き去った。
「…リーマス…面倒みないって…お前意外と…俺そういうとこ好きかも」
シリウスが呟いた。
セブルスはスリザリン寮へ戻ると、課題を広げることもなく、いそいそとローブの襟を直し、ベッドの皺を伸ばし、枕を腕に抱えた。
その様子をマルシベールが睨み付けている。エイブリーはいつも通り新聞を読んでいた。
「じゃあな、エイブリー、マルシベール」
セブルスは微笑んだ。
エイブリーが素っ気なく返事をし、マルシベールはベッドに寝転がった。
「マルシベール、珍しいなお前が止めないなんて」
エイブリーは新聞から目を上げずにマルシベールに話しかけた。
「あんたを怒らすとまた課題を教えてもらえなくなる」
「そりゃそうだ」
「それに、この時間ならルシウス先輩に見つかってすぐに戻されるに決まってる」
「…それはどうかな?」
エイブリーがマルシベールを見下ろし、口端に笑みを浮かべた。