トリックスター 鹿猫
夕食を囲むスリザリンのテーブルは、いつもとは全く違う雰囲気になっていた。
ひそひそと話し込む者、取り憑かれたように惚ける者、見て見ぬふりをする者…。しかし、惚け顔の方が圧倒的な数を占めていた。
セブルス・スネイプが笑っている。それも優しげに。
生徒の何人かは、その姿に向かってすでに手を組み合わせ拝み始めていた。
セブルスを真ん中に食事をしているマルシベールが、エイブリーに話しかけた。セブルスはグリフィンドールのテーブルを眺め、ジェームズと見つめ合っている。
「ねえ、エイブリー…セブルスどうしちゃったんだろ…?」
目付きさえ良ければ愛くるしい大きな青い瞳を訝しそうに歪めて、エイブリーを見上げた。
「大方、獅子寮の問題児がセブルスに何か呪いでもかけたんだろう」
エイブリーの切れ長の目が一瞬ジェームズを見やり、すぐにマルシベールに視線を戻した。
「問題児じゃないぞ、エイブリー、僕の恋人だ」
セブルスが顔を上げて抗議した。
「ああ、分かった分かった」
エイブリーは軽く受け流し、フォークを口に運んだ。後ろに撫で付けられた黒髪は少しも乱れる事なく、落ち着き払った態度はどこか貴族的な雰囲気を漂わせている。
「エイブリー!」
マルシベールがエイブリーを見上げた。
「呪いをかけられているなら、こっちも呪い返ししてやる!」
「座れマルシベール」
エイブリーが静かに言った。
「マルシベール、僕は呪いなんてかけられていないぞ、僕が間違って魔法薬の試作品を飲んでしまったんだ」
セブルスは申し訳なさそうに微笑んだ。
「ああああ」
マルシベールが頭を掻きむしった。
「マルシベール、お前はそのリアクションの大げささと目つきさえ直せば、天使そのものなんだから、もう少しおとなしくしたらどうだ?」
セブルスがマルシベールを見下ろした。
「ありえない!!」
マルシベールは頭を抱えた。ウェーブのかかった金髪がグシャグシャになっている。
セブルスは小柄なマルシベールの肩を優しく叩き、エイブリーの方へ顔を向けた。