トリックスター 鹿猫
小さな炎が小鍋を温める。
セブルスは最後の魔法薬を垂らした。そのまま撹拌し、冷めるのを待つ。
順序さえ違わなければ、閉心薬になっているはずである。
「もうできたの?」
ジェームズがベッドに腰掛けながら話し掛けた。
「ああ…完成だ」
「飲んでみなよ」
ジェームズは足を組み、膝の上に肘を乗せて頬杖をつく形で目を輝かせた。
セブルスは椅子に座り、液体をゴブレットに移すと、完成した薬をゆっくりと飲み干した。
「おいしい…?」
ジェームズが様子を伺うようにそっと聞く。
返事はなく、セブルスは俯いている。
「セブルス…?」
「フ…フフフフ…ジェームズ!よく考えたら、僕が閉心薬を飲んでも意味ないと思わないか!僕は普段から閉心術に長けているのに!」
セブルスは楽しそうに笑いながら、髪を掻き上げた。
「しかもこれ!閉心薬じゃないみたいだ!逆か?逆みたいだなジェームズ」
ジェームズは唖然とセブルスを見つめた。
「(あれ…?間違っちゃったかな?)う、うん、そうみたいだね…あの、大丈夫…?セブルス…?」
「ジェームズ!」
「はい!」
セブルスはひとしきり笑った後、ため息をつき、ジェームズに歩み寄った。
そのまま、どこか身構えているジェームズに腕を回す。
「お前のこの体温…好きだ…」
ジェームズの耳元で甘く囁き、唇を寄せる。
「ジェームズ…」
セブルスは熱っぽい眼差しでジェームズの顔を覗き込んだ。
「セブ…大丈夫?」
ジェームズは欲望と闘いながら、ためらいがちにセブルスの腰を抱いた。
「もちろんだジェームズ…」
微笑みながら、漆黒の瞳がジェームズの瞳を捕らえた。
セブルスが目を閉じ、唇を合わせてくる。白い指先がジェームズの頬を撫で、眼鏡を外す。
「ジェームズ…好きだ…」
すがるような表情で見つめられ、ジェームズの頭から理性という二文字が消し飛んだ。