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罪と罰と幸せと 鹿猫


額…喉、肋骨、手の平、心臓にはまた違う長い呪文を。下腹部、そこにはとくに複雑な呪文と杖で魔法陣のような印を何度も描く。

「出るかな…」

ジェームズは下腹部に手の平を当て、顔を近づけながら心臓の辺りを凝視した。しばらくすると、白く薄い胸から小さな光の玉のようなものが出てきた。
ジェームズは小声で歓声を上げた。興奮しつつもそっと光の粒を手の平に乗せる。それは脈打っていた。

「セブ…これは君のもう一つの心臓だ…」

ジェームズは疲れきった擦れ声で囁くと、大切そうに下腹部へ沈めた。
セブルスの体が跳ね、一瞬その顔に苦痛が浮かぶ。

「大丈夫…成功だ…時間はかかるかもしれないけど…」

ジェームズは安堵の溜息をつくと、セブルスの隣に倒れた。






ハリーはスネイプの腕の中で鼓動を聞いていた。
その一瞬はまるで、時間のない場所へ足を着けたように長く感じた。
あたたかく規則正しい心臓の音。

ー知ってる…僕はこの音を知っている…いや…これは、僕の心臓と同じ音だ!

ハリーは目を見開いてスネイプの顔を見上げた。生温かいものが自分の頬を流れているのを感じた。それはとめどなく瞳から零れ落ちる。

「スネイプ…先生…」
「セブルス」

空間を裂いたのはダンブルドアだった。
その声にはっとし、スネイプは我に返った。急いでハリーの身体を引き離す。
自分を見つめている緑の瞳から目を逸らし、二三歩後ずさりすると、よろけるような足取りで背を向け医務室から出て行った。

ハリーは閉じられた扉をずっと見つめていた。そしてダンブルドアの顔を見た。
「先生…ダンブルドア先生…」

言葉にならなかった。
涙だけが真実に気付き、頬を伝った。

「まだ知る時ではない…」

ダンブルドアは静かに言った。
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