罪と罰と幸せと 鹿猫
ハリーはベッドに横たわり、ダンブルドアの顔を見つめていた。
“愛じゃよ愛”慈悲深い眼差しが諭したその言葉は、まだハリーの身に染みるには早すぎるらしく、受け取るだけという顔をしている。
クィレルがヴォルデモートだったことの驚きと、あんなに憎まれ、そして嫌っていたスネイプが実はずっと自分を助けてくれていたという事実の方がハリーには衝撃だった。
微笑みながら自分を見守っているダンブルドアの顔を見上げながら、ハリーはスネイプの姿を思い出していた。
目が合うと逸らされ、いつも嫌味なことを言われる。いつも睨まれていた。いつも…。いつも…?ハリーははっとした。
ーそれっていつも僕を見ていたってこと…?そういえば、スネイプの笑った顔を見たことないな…
ハリーは急に複雑な気持ちになった。
「ダンブルドア先生…」
ハリーが呟いたとき、ダンブルドアの背後の扉が開いた。
「ハリー!」
スネイプが息を切らして立っていた。
ハリーは思わず身を硬くした。スネイプの顔は蒼白で、今にも怒られるのではないかと思えた。
「セブルス」
ダンブルドアが優しく声を掛けた。
「扉は閉めなさい」
スネイプは取り乱していたが、しっかり扉を閉めるとハリーの目を見つめ近寄った。
…怒っている。ハリーはその顔を見上げてそう思った。思わず体を起こす。
「あの…すいませ…」
言い終わらないうちにハリーはスネイプの腕の中にいた。
抱き締められていることに気付くまで時間がかかった。
「…あの…先生…?」
驚き戸惑いながらも、その胸のあたたかさに感じたことのないものが呼応する。
ー懐かしさ…?抱き締められるのは初めてなのに?
「…よかった…」
スネイプの震える声にはっとした。
ー泣いている…?
スネイプはわずかに体を震わせながら、泣いていた。抱き締める腕に力が入る。ハリーはためらいがちにその背中に手を回した。
息が苦しいほど抱き締められることが、こんなに気持ちの良いものだとは思わなかった。