罪と罰と幸せと 鹿猫
地下に続く階段をハリーは駆け下りた。
扉の前で上がった息を整え、何度も深呼吸する。
スネイプが出生の秘密について口を割るとは到底思えなかったが、ハリーの手は扉を叩いていた。
「誰だ?」
「ハリー・ポッターです」
返事はなかった。ハリーは扉を開けて中に入った。
「誰が入ってよろしいと言ったかね?ハリー・ポッター」
抑揚のない声が響いた。
「お話があります」
ハリーは手を強く握り締めた。
スネイプは山積みの羊皮紙を前に、背中を椅子に預け眉間に皺を寄せて一巻きずつ見ては鼻を鳴らし、羽ペンを動かしている。
「いつまで突っ立っている?さっさと用件を言って退室しろ」
スネイプは目を上げずに言い放った。
ハリーは押しつぶされそうな緊張を何とかしようと、大きく息を吸い込んだ。
「先生…僕の母は誰ですか?」
「ご乱心かね?英雄殿?校長にでも聞くがよい」
スネイプは無表情のまま羽ペンにインクを付け、羊皮紙を一巻取り出した。
「あなたに聞きたいんです」
ハリーは引き下がらなかった。
スネイプは無視した。
「僕の母はリリーではありません」
羽ペンの音だけが聞こえた。
「僕はジェームズ・ポッターとセブルス・スネイプの子供です」
羊皮紙を丸める音と、再び他の羊皮紙を取り出す音が聞こえた。ハリーはスネイプの顔を伺ったが、スネイプは表情一つ動かさずレポートに目を通している。
「先生」
「私に子供はいない。貴様はジェームズ・ポッターとリリー・エバンズの子供だ。分かったら今すぐ出て行け」
ハリーは動かなかった。
パシンと羽ペンを置く音と、椅子を動かす音が響き、スネイプが立ち上がり扉へ向かって歩いた。
「気が済んだら出て行け」
スネイプは目も合わせず扉に手を掛けた。
ハリーはその手首をすばやく掴み、壁に押し付けた。スネイプが一瞬目を見開いたが、すぐに冷笑に変わった。
「生徒の分際で教師に挑むとは…グリフィンドール10点減点だ」
ギリギリと掴まれた手首を壁から離そうとする。
ハリーは渾身の力を込めてスネイプの手首を掴み続けた。
今を逃したら永遠に聞き出せなくなる。どんな呪文をかけられるかも分からない。頭脳では決して敵わない。だったら感情をぶつけてカマをかけるしかない。ハリーはそう直感した。