あなたとサラダ 鹿猫、犬狼
「並ぶ?」
ジェームズがさり気なく言った。
「いや」
セブルスは内心ひかれつつも、素っ気なく答えた。
二人は大きな書店の前に立った。
「セブ行っておいでよ」
「お前は?」
「僕は十分、鹿になるのに一生分の本を読んだみたいだ」
ジェームズは笑って肩をすくめた。
「どうせなら鹿になっても言葉を発することができるようになるといいんだがな、覚えているか?お前が猟師に狙われて犬にも追われた時の…」
「覚えてるよ。君が来なかったら今頃壁掛けだった」
ジェームズが首を手で触った。
セブルスはくすりと笑った。
「おかげでお前の背にまたがったまま、仲良く湖に落ちたな」
ジェームズが笑った。セブルスもくすくす笑っている。
「三十分で出てくる」
セブルスが言った。
「じゃあ僕は箒でも見てくるよ」
ジェームズは手を振って向かいの通りへ歩いて行った。
セブルスは専門書棚のさらに奥へと歩いて行った。
奥のカウンターに気難しそうな角ぶち眼鏡の女性が書類を睨んでいる。
「こんにちわ、ライブラ女史」
セブルスは小さな声で呼び掛けた。
「あら!スネイプ先生」
ライブラは顔を上げ、いつもの顔を見ると機嫌がよくなった。
「ポッターです、ライブラ女史」
セブルスはそっと言った。
ライブラはにっこり笑った。
ジェームズがいる場所、学校、世間体。セブルスはこうした場所では決して自分をポッターとは呼ばせず、スネイプだと主張したが、本当は名乗りたいその名を長い付き合いであるライブラの前では使っていた。
「届いているわよ」
ライブラは分厚い本を棚から出した。
「いえ、それは週明けにします。今日は人と一緒にいるので…また探してほしい本があるんです。非トリカブト系の脱狼薬についての」
セブルスは静かに言った。
「難しいわね」
ライブラは難題を楽しむようにしかし、真剣な顔で言った。
「今進められている一番有効な研究がトリカブト系の薬なのよ」
「あれは脱狼薬なんてものではありません。毒です。いわば殺狼薬です。もっと人体に無害な物質があるはずです」
セブルスは真剣に言った。
「探しておくわ」
ライブラが眼鏡を上げながら答えた。
セブルスは一礼すると扉へ向かった。