あなたとサラダ 鹿猫、犬狼
朝の冷えた空気が漂う。
セブルスはジェームズの腕の中で目が覚めた。
窓から朝の光が差し込んでいる。
雨は止んで、やわらかな静けさとジェームズの匂いにセブルスはその胸に顔を埋めてまどろんだあと、ジェームズを起こさぬようそっとベッドから滑り降り、ローブだけを羽織って浴室へ行った。
「あれ、もう起きたの?」
ジェームズはベッドの中でセブルスの姿をぼんやり眺めた。
セブルスは首を隠すようにハイネックの黒いセーターを着ている。
「起こしたか?」
セブルスが小声で言った。
「ううん」
ジェームズはそう言うと、シーツの中から腕を伸ばした。
セブルスはその腕に応え、朝のキスを交わした。
「今日は明日の買い出しに行こうよ!」
トーストをかじりながら、ジェームズが言った。
「そうだな…あの二人は今日は牧場に行ってるしな」
セブルスは紅茶を飲みながら答えた。
街は休日と小春日和ということもあって、浮き足立つ人々で賑わっている。
ローブを着て歩く魔法使いもいれば、軽装で歩く魔法使いもいる。
広い通りに面したショーウィンドウには最新のローブや箒、一足早いクリスマスツリーには星のような雪が降っている。
二人は市場へ行く前に街を歩いていた。
「ジェームズ、手を離せ人が見ている」
セブルスはうつむいて絡められた指を見つめた。
「気にしすぎだよセブルス」
ジェームズはグレーのダッフルコートのポケットに絡めた手をいれ、言われた通り離すと、セブルスの黒いローブの内側に腕を差し入れ腰を抱いて歩き出した。
「これならOK?」
ジェームズがセブルスの耳元で囁いた。
セブルスは顔を赤くした。何度肌を重ねても、隣にいても、赤面する性質は変わらないらしく、ムッとしながらも頬を染める表情をジェームズは愛しそうに見つめた。
しばらく歩くと反対側の通りに長蛇の列が見えた。
「ジェームズ、何だあれは?」
セブルスが列を見た。
「ん~?」
ジェームズは速度を緩めて列の始まりを目で追った。
「ああ、あれはバウムクーヘンだ。法執行部のアメリアさんが言ってたな。今話題なんだってさ。ほら、見える?あの断面」
ジェームズが看板を指差した。
看板にはバウムクーヘンの断面図と店の名前が書いてあった。
丸い虹。断面は虹そっくりの七色だった。
セブルスは珍しく興味深そうに眺めていた。