あなたとサラダ 鹿猫、犬狼
「研究以外は子供相手だからな、疲れる。ところで今日もお前の夫はジェームズと一緒か?」
リーマスは楽しそうに瓶詰のチョコチップを眺めながら答えた。
「うん。一緒に帰ってくるって朝言ってた。闇祓いっていっても名ばかりでさ、毎日退屈してるみたいだよ。これ三つと、こっちも三つ、それから…」
リーマスが店のマダムに愛想良く言った。
ジェームズとシリウスは同じ職に就いていた。
世界が暗黒になると予言されてから立ち上げられた魔法省の部署だったが、今だに暗い動きは見えず、やる仕事といえば逃げたドラゴンの追跡や、水中人と両生人の諍いの中立といった簡単なものばかりだった。
「ジェームズもよくぼやいている。リーマス、買い過ぎじゃないのか?」
セブルスは呆れたようにリーマスの大きな紙袋を見た。
「そうかな?」
リーマスは首を傾げた。
ふと思いついたように、セブルスがきびすを返して元来た道を歩き出した。リーマスがあわてて着いて行く。
「買い忘れ?」
「そうではない…」
セブルスは野菜売りのところでトマトを四つ買うと、二つをリーマスの大きな紙袋に入れた。
「さすがに貴様らの未来が不安になってな…リーマス、野菜ぐらい食え」
リーマスが笑った。
「ありがと♪」
レンガの敷き詰められた通りは、見事なイチョウ並木だった。
黄色く色付いた葉はまだちらほらと落ちるだけで、秋の夕日に照らされて眩しいほどである。
魔法界には世界各国様々なものがある。綺麗というだけで、マロニエからイチョウ、春には桜まで用意された。
セブルスは扉の前でリーマスと別れ、隣のドアにリーマスが入っていくのを見ながらドアを開けた。
ローブを脱ぎ、上着を脱いでシャツになるとキッチンに立ち、夕食の準備をする。
鍋を火にかけ、野菜を刻む。杖を一振りすればできる作業をセブルスは手作業で進めた。
ジェームズは魔法で調理をする家庭で育ったせいか、マグル式の調理法と、そして何よりセブルスの手料理を喜んだ。
セブルスは実験での作業に役立つからと理由をつけて、ジェームズの喜ぶ方を選んでいる。
トマトのスープ、シーザーサラダ、鳥肉の香草焼き。
セブルスは一通り下拵えをすませると、満足そうに鍋を見つめた。
隣のドアが開く音がした。シリウスが帰ってきたらしい。ジェームズも帰ってくる。