あなたとサラダ 鹿猫、犬狼
市場はダイアゴン横丁とはまた違った賑わいを見せている。
うず高く積まれた赤や緑の野菜、シャンデリアさながらにぶらさがる腸詰め肉、所狭しと並べられた魚に香辛料。
リーマスは一人、目を輝かせて人々の間を歩き、野菜売りの前で真っ赤なパプリカを手にしているセブルスを見つけた。
「セブルス~!」
リーマスが手を振る
「今帰り?」
セブルスは相変わらず素っ気ないが、表情は穏やかだった。そしてパプリカを店主に見せ小銭を渡すと、二人は並んで歩き出した。
リーマスはウキウキと足を止めて眺めたり、山になったジェリービーンズの前でつまみ食いをしている。
「リーマス」
落ち着きのない姿をセブルスがたしなめた。リーマスは嬉しそうにセブルスの元に戻った。
「君にファーストネームで呼ばれるのって嬉しいな」
「間違ってもブラックなどと呼びたくはないからな」
セブルスはそう言うとチーズの前で足を止めた。
リーマスはセブルスの顔を覗き込んで言った。
「ポッターさん♪」
セブルスが顔を赤くした。
「やかましい。まさか魔法界がこんなに無秩序だったとは知らなかった…」
「僕たちは男の子だもんね」
リーマスが笑った。
セブルスはため息をつきながらチーズを指差し、買う分量を店主に伝えた。丸いチーズを抱えて店主がカウンターの横に移動する。
「指輪してないんだ?」
リーマスが話しかけた。
「研究の邪魔だ」
素っ気なく答える。
リーマスはひょいとセブルスの詰め襟シャツの襟を指にひっかけ、首筋を覗いた。銀色の細い鎖が見える。
「でも身に付けてるんだね」
セブルスは顔を赤くしたままローブの襟をきつく締め直した。
「リーマス、詮索が過ぎるぞ、専業主夫はそんなに退屈なのか」
セブルスがリーマスを睨んだ。
リーマスが笑う。
「暇じゃないさ~。シリウスは家事は一切しないからね。手伝ってもらうと仕事が倍になるんだ」と楽しそうに言う。
「ジェームズはどう?」
セブルスは紙に包まれたチーズを受け取ってリーマスを見た。
「お前のところとは逆だな。あれこれ手を出したがる」
「一緒にいたいんだよ」
「うっとおしくてかなわん」
「学校はどう?」
リーマスは早足なセブルスの腕を捕まえ、色とりどりのチョコレートを物色しだした。
セブルスは卒業後、魔法薬学の助手として学校に出入りしていた。
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