終わらない歌 鹿猫
セブルスはジェームズの目を見つめた。その真剣な目を。
そして悟った。
ー…ここは僕の家庭なんだ…他人は入ることができない。このカゴの中で、それぞれのカゴの中で…だから、ジェームズはドアを開けることしかできない。いや、ドアを開けてくれた。僕は…ー
セブルスはジェームズに向かって頷いた。そしてアイリーンの顔に向き直って言った。
「母さん、僕は行きます。残りの夏休みをジェームズ・ポッターの元で過ごします。その許しを下さい」
セブルスが家で選んだ初めての選択だった。
アイリーンの顔に驚きが広がり、そして口元に笑みを浮かべてセブルスを見た。その目に強い光が宿っている。
「いいわ。セブ、行ってらっしゃい」
アイリーンは頷いた。
その時、トビアスの唸り声が聞こえた。
「行きなさいセブルス、このろくでなしが起きたら、また出られなくなるわ」
アイリーンは急いで言った。
セブルスは心配そうにアイリーンを見た。
「ごめんなさい…」
「大丈夫よ。何年この人と付き合ってると思うの?」
アイリーンは悪戯っぽく微笑んだ。
トビアスが目を開けて起き上がりかけた。
セブルスは父を飛び越え、ドアの外へ出ると、ジェームズの手を握った。
「母さん、荷物を頼みます。あとでふくろう便を出しますから」
トビアスの背中越しにいるアイリーンに向かって言った。
「どうせならこの人の嫌いなガマガエルにしてちょうだい!」
アイリーンが小さく手を振った。
ジェームズはアイリーンと視線を交わし、一礼してドアを閉めた。
セブルスはそのドアに足の形がくっきり付いているのを見た。
「ドアを蹴破ったのか?ジェームズ?」
歩きながら、呆れてジェームズの顔を見上げた。
ジェームズはくすくす笑っている。セブルスもつられて笑いそうになった。
その瞬間、通りからトビアスの怒声が響いた。
門を出て、こちらに向かって走ってくる。今度は傘を振り回していた。
「君のお父さんって元気だね」
ジェームズはのん気に言うと、セブルスの手を引いた。
「走ろう!!」