拍手御礼集



観察日記



何日かに一度、ジェームズは寝起きが悪くなる。
単なる性質だろうか?
毎日先に起きてしまうのは僕だ。理由はわからないが先に起きてしまう。
けれどもそのおかげで、生意気なヤツのまぬけ面を観察することができる。

今朝はその観察日だ。

ジェームズはシーツを蓑虫のように体に巻き付けて、顔を半分埋めている。

時々、もぞもぞと動いては顔を潜らせたり出したりする。そして大きくため息を吐く。動いて潜るせいで息苦しくなるのだろう。しまいには肩を出して、胸元にシーツを抱き締める形で丸くなった。

素肌の肩の向こう、背中の部分にうっすらと赤いラインが幾筋も付いている。
それは僕が付けた爪の跡だった。
昨夜のことを思い出し、僕は乱暴にシーツをたくし上げ、ジェームズの肩を隠した。

「んっ…」

目を閉じたまま、眉間に皺を寄せる。お気に召さなかったらしい。またもぞもぞと動き、シーツを抱き締めた。

「ん―――…」

何かよく分からない声を出し、静かになる。
目覚めようと必死になっているようだ。

「んっ!ん―――…」

意味が分からない。
僕は笑いを堪えながら、その様子を観察した。

ジェームズは攻防の末、睡魔に敗北したらしい。
寝息をたて始めた。

横向きになったまま、右腕がだらしなく伸びている。

正直、綺麗な手だと思った。
ジェームズは躯において全ての均整がとれている。たった一つを除いては。

眼鏡顔だ。

眼鏡がないとこいつの顔は完成しない。
かわいそうに目の形の良さは申し分ないし、睫毛も長いのに、眼鏡がないとしまりがない。
僕の目が慣れてしまったせいだろうか。…いや、夜はこいつは眼鏡をかけない。

僕は腕を組んで、寝顔をしげしげと見つめた。

またもぞもぞと動いた。
僅かに目蓋が上がり、透明感のある淡い茶色の瞳が見えた。ぼんやりとしたまま、何も見ていないようだった。ただ自分の右手に目線を留めている。
口元が不満げにへの字になる。
僕はそっと、自分の手を重ねてみた。

きゅっ、とジェームズの手が僕の手を握り、口元が綻んだ。そしてそのまま目を閉じてしまった。


……動けなくなった。

僕は後悔しつつ、部屋の隅にあった椅子と本を杖で呼び寄せた。
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