大きな愛で包み込んで
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中2の時、初めてじゅさと同じクラスになった。フレンドリーで優しくて、いつも笑顔で話しかけてくれる彼を好きになるのに時間はかからなかった。運良く向こうも自分を好いてくれていたみたいで付き合い始めて、そのまま順調にお付き合いが続いたまま高校へ入学。
しかし、高校に入って関東大会が終わったあたりからじゅさは部活に真面目に出て、自主練も熱心に行うようになった。
本人曰く
「今までサボってきた分取り返さんと!寂しい思いさせてまうかもやけど、俺のこと応援してくれる?」
らしい。一緒にいられる時間が減ったのは確かに寂しいけれど、じゅさが真剣にテニスしているかっこいい姿を見れるのは嬉しいので勿論応援していた。
でも最近素直に応援できなくなっている自分がいる。それはテニス部のマネージャーであるあの子が理由だった。彼女は中学の時からマネージャーをしていて、じゅさが練習をサボるとすぐに探しに来て私も何度も鉢合わせたことがある。元気で明るくてどちらかと言うとじゅさと同じタイプの彼女は私とは正反対。じゅさといる時に顔を合わせることが多いからこそわかる、彼女はじゅさのことが好きだ。そして、部活をサボっている時いつもじゅさが私といるのを見ている彼女は私のことをよく思っていないだろうとも分かった。もしかしたら私が部活を休むのを唆しているとさえ思っているかもしれない。でもじゅさは私のことをいつも1番に大事にしてくれていたし、休日や放課後は部活に行かないで私と居てくれることも多かったから不安に感じたことはなかった。練習は彼がやりたい時にやればいいし、彼女にどんな勘違いをされていても問題無いと思っていた。でも今テニスに真剣に向き合っている彼は、私といる時間より彼女といる時間の方が圧倒的な多いわけで…
放課後「毛利!部活行くよ!」と呼びにきて腕を引っ張ってじゅさを連れていく彼女と「もうサボったりせんって」と苦笑いするじゅさの後ろ姿をみると胸の奥にドロドロとした黒い感情が湧き出てくる。こんな醜い嫉妬なんてしたくないのに、心は言うことを聞いてくれない。それでも彼はお昼はいつも私と食べてくれていたし、
「今度の新人戦は絶対優勝しやる!それが終わったらオフも出来るはずやから、久々にどこか遊びにいこかや」
と言って私との時間を大切にしてくれていた。まだ好いてもらえていることに安心して、嫉妬することは度々あれど表には出さずに穏やかに過ごせていたと思う。
しかし、宣言通り新人戦で優勝した彼の元に1番に走っていき抱きついた彼女をみて、私は我慢の限界だった。じゅさは別に抱き締め返したわけでもないし、寧ろ戸惑っていたと思う。もしかしたらすぐに引き剥がしたかもしれない。それでも彼の元に駆け寄って抱きついた彼女が、呆然と立ち尽くす私を見て勝ち誇った顔をしているのが耐えられなかったのだ。彼女は私なのに、テニスに向き合う彼を支えてたのは間違いなくあの子で、、結局じゅさに「おめでとう」の一言も言えずに家に帰ってきてしまった。
ベッドに寝転がるとさっきの光景を思い出してしまい、堰を切ったように涙が溢れ出す。もうだめなのかもしれない。嫉妬ばかりして、彼の優勝も素直に喜べずにおめでとうさえ言えないなんて、彼女として失格だ。私が来ていたことは知っているはずだし、何も言わずに帰ったなんて愛想を尽かされても仕方がない。無理にでも我慢して気持ちを押し殺して笑顔でおめでとうって言えればよかったのに。今頃あの子と笑い合っているのだろうか。一般的に見て可愛い部類に入る子だと思うし、明るい彼女の方が色々と話も合うかもしれない。悪い方にばかり考えてしまい後悔がどっと押し寄せてくる。毛布にくるまって泣いていると、メールの着信音が聞こえた。起き上がって携帯を見ると"毛利寿三郎"の文字。急いで内容を確認すると「話があるんやけど、今どこにおる?」と。あぁ、別れ話だ。そう思ったら頭が真っ白になって、止まったはずの涙がまたぼろぼろと出てくる。それでも無視するわけにはいかなくて、「今家だから今度でもいい?」と返した。とてもじゃないけど今の顔を見せるわけにはいかない。彼なら無理強いはしてこないだろうと画面を閉じようとするとまたすぐに着信音が鳴った。すると思っていた返事とは違い、「それなら今から家に行くから、ちょっと待っといて」と言った内容だった。今までこんなに強引なことはなかったのに、どうしたのだろうか。でもこれは本気で来る気だろう。どうしよう、こんな泣き腫らした顔見られたくないのに、、悩んでいる間にも着々と時間は迫ってくる。取り敢えず少しでも目の赤みをマシにするために保冷剤を当て、彼がくるのを待った。20分ほどすると彼からまたメールが来て「近くの公園にいるんやけど出てこれる?」と書いてあった。「わかった」と返事をして、鉛のように重い足をなんとか動かし公園に向かった。
公園に着くと、じゅさは俯いてベンチに座っていた。とてもじゃないが、さっき大会で優勝を勝ち取った選手には見えない。彼のこんなに元気のない姿を見るのは初めてで、どうしたらいいのかわからない。優しい彼のことだからどうやって振れば私が傷つかないでいられるか考えているのだろう。もしかしたらマネージャーのあの子に告白でもされたのかもしれない。あの子と付き合いたいから別れてなんて彼は絶対に言えないだろうから…
私が平気なふりをしないと、と意を決して話しかける。
「じゅさ」
「!!」
声は震えていなかっただろうか。うまく笑えているだろうか。震える手を握りしめて彼の前に立つ。
「優勝おめでとう。何も言わずに帰ってごめんね。みんなに囲まれてるから水を差しちゃいけないと思って」
じゅさが顔を上げる。ねぇ、どうして君がそんなに泣きそうな顔をしてるの?なんで、私よりも辛そうにしているの?喉まで出かけた言葉を飲み込んで尋ねる。
「それで、話って何かな?」
聞きたくない。けど、彼のことが大好きだから。最後くらいはいい女でいられるように、笑顔でいたい。だから、また泣いてしまう前に聞かなきゃ。そう思い歯を食いしばって泣くのを耐え、彼が話し始めるのを待っていると、帰ってきた言葉は思わぬものだった。
「別れたない。」
「え?」
「はなと別れるなんて絶対無理や。お願いやから、俺を捨てんとって…」
いま、なんて言った?頭が追いつかない。別れ話ではなかったの?どういうこと?別れたくないって、捨てないでなんてそんなの私の台詞なのに。
混乱している私をみて何を思ったのか、じゅさはさらに畳み掛ける。
「あの時避けれなくてすまん。優勝出来て嬉しくて、はなとの約束果たせたことに安心して舞いあがっとったらあいつが向かってきてるのに気付かんかった」
じゅさの言う"あの時"が、あの子に抱きつかれた時だと言うのはすぐに分かった。私との約束?約束なんてしていただろうか
「約束って?」
「忘れたん!?新人戦で優勝しやる、って言ったやん!」
「あれって約束だったの…?」
「約束とすら思われてへんかった…はなに宣言したからには絶対守らないあかんって敢えて自分にプレッシャーかけとったんに…」
まさか食事中でのあの一言を、そんな思いで言っていたなんて思ってもみなかった。驚いて目を見開く私を他所にじゅさは続ける。
「試合終わってはなのところに行こ思うとったら急にマネに抱き付かれて、やめてや言うてすぐに引き剥がしてはなの方向いたら走って行ってまうし、急いで追いかけようとしたら表彰あるからって止められるし…」
よかった、やっぱりすぐに引き剥がしていたんだと安心したのも束の間、なんだか少し話が噛み合っていない気がする。もしかしてじゅさは、あの子に抱きしめられているところをみた私が怒ってあの場を立ち去ったと思っているのだろうか。確かに怒りが湧かなかったわけではないが、それは勝ち誇った顔でこちらを見ていたあの子や、不甲斐ない自分に対してのものであって決してじゅさへの怒りではない。
「私、別に怒ってないよ」
「ほんまに…?じゃあ、まだ俺の彼女でいてくれるん?」
不安そうにこちらを見つめる彼を見て、本当に別れ話じゃないんだとやっと安心できてまた涙が溢れてきた。さっきまでも涙が枯れるくらい泣いていたのに、今日は泣きすぎてる。明日目大丈夫かな、なんて考えていると目の前のじゅさが顔を青くして慌て出した。
「なんで泣いてるん!?やっぱり別れたいと思ってるんやろか…でも俺嫌や。絶対に別れたない」
お願い、と繰り返し私の手を握りしめる彼に向かって首を横に振る。
「違うの…っ!安心して…!じゅさからメール貰った時、あぁ私振られるんだって思って……」
「俺がはなの事振るわけあらへんやん!こんなに好きやのに!」
「……っでも、私勝手に嫉妬して、じゅさがあんなに頑張って勝ち取った優勝なのにおめでとうの一言も言わずに帰っちゃって……っ!」
じゅさの顔をちゃんと見たいのに、自己嫌悪から涙が次から次へと溢れて視界はいつまでも滲んだままだ。
「…嫉妬してくれとったん?愛想尽かしたとかやなくて?」
「愛想尽かすなんてそんな…!あの子に抱きつかれるじゅさを見たくなくて、逃げたんっ!?」
言い終わる前に強い力で腕を引かれ、気付いたらじゅさの腕の中にいた。
「じゅさ…?」
「あかん、、、はなが悲しんどるのに、喜んだらあかんってわかっとるのにめっちゃ嬉しい。いつも俺ばっかり嫉妬して、はなは嫉妬とかせん思とったから」
確かに、じゅさは元々人との距離が近いから女の子との距離が多少近くても気にしないようにしていた。最初の頃はモヤモヤすることもあったが、気にするだけ無駄だと思ったのだ。あの子にだけ嫉妬していたのは、あの子がじゅさのことを好きだと知っていたからであって他の子と比べて特別距離が近いわけでもなかった。
「私本当はすっごく嫉妬深いよ。本当は、いつも放課後にあの子がじゅさの腕引っ張って部活に連れて行くのも嫌だった。」
そう言うと、じゅさは私を抱きしめる腕にぎゅっと力を入れた。
「〜〜っ!!かわええ〜っ!」
ぎゅうぎゅうと押し潰されそうになり胸を叩いて抵抗すると少し力が緩まった。その隙にパッと顔を上げると、じゅさは今まで見た事ないくらいに頰をゆるめて幸せそうに笑っていた。
「なんでそんなニヤニヤしてるの」
照れ隠しに少し怒気を込めた声で言ってみたのにじゅさは表情を隠そうともしない。
「不安にさせてかんにんな。そやけど俺が好きなのははなだけやで。これからはもうマネに触られへんようにする。マネだけやなくて他の女の子も」
相変わらずニヤニヤしているのに声は真剣で、冗談なのかも分からない。
「それは流石にやりすぎじゃない…?」
動揺を隠すようにそういえば、じゅさは急に真剣な表情へと変わった。
「そんなんあらへん。はなを不安にさせん為ならそれくらい余裕や。俺ははなのこと1番大事で、はな以外からはなんて思われたって構わんで」
そう言う彼に胸が高鳴る。そうだった。彼はいつも私のことを1番に優先してくれて、大切にしてくれていた。かっこいいところを見せたいからと大会にはいつも呼んでくれたし、デートの時はいつだって私の行きたいところを優先してくれる。不安に思うことなんて何もなかったんだ。嬉しくて今度は私から抱きつくと、一瞬ビクッとしたじゅさだったが直ぐに背中に腕を回して抱き締め返してくれた。温かい大きな体に包まれて幸福感が込み上げてくる。
「じゅさ、ありがとう」
少し体を離して顔を見上げ笑顔で言うと、彼もにっこりと笑った。
「これで仲直りやね。」
どちらからともなく顔を近づける。重なった唇は熱かった。もう一度目を合わせて2人で笑い合うと、彼があっ!と何かを思い出したような声をあげる。
「新人戦が終わったら遊びに行こうって言うたやん?来週の日曜日オフになってん。約束通り、デート行こかや」
「行きたい!!」
「決まりやな。行きたいとこ考えといてや」
久々のじゅさとのデート、楽しみすぎて今からそわそわしてしまう。そんな私をみて彼は目を細めて笑っていた。
これからは、嫌なことがあったら耐えられなくなる前に素直に彼に言おうと心に決めた。彼ならどんなことも、その大きな体と同じくらい大きな愛で包み込んでくれるだろうから。
しかし、高校に入って関東大会が終わったあたりからじゅさは部活に真面目に出て、自主練も熱心に行うようになった。
本人曰く
「今までサボってきた分取り返さんと!寂しい思いさせてまうかもやけど、俺のこと応援してくれる?」
らしい。一緒にいられる時間が減ったのは確かに寂しいけれど、じゅさが真剣にテニスしているかっこいい姿を見れるのは嬉しいので勿論応援していた。
でも最近素直に応援できなくなっている自分がいる。それはテニス部のマネージャーであるあの子が理由だった。彼女は中学の時からマネージャーをしていて、じゅさが練習をサボるとすぐに探しに来て私も何度も鉢合わせたことがある。元気で明るくてどちらかと言うとじゅさと同じタイプの彼女は私とは正反対。じゅさといる時に顔を合わせることが多いからこそわかる、彼女はじゅさのことが好きだ。そして、部活をサボっている時いつもじゅさが私といるのを見ている彼女は私のことをよく思っていないだろうとも分かった。もしかしたら私が部活を休むのを唆しているとさえ思っているかもしれない。でもじゅさは私のことをいつも1番に大事にしてくれていたし、休日や放課後は部活に行かないで私と居てくれることも多かったから不安に感じたことはなかった。練習は彼がやりたい時にやればいいし、彼女にどんな勘違いをされていても問題無いと思っていた。でも今テニスに真剣に向き合っている彼は、私といる時間より彼女といる時間の方が圧倒的な多いわけで…
放課後「毛利!部活行くよ!」と呼びにきて腕を引っ張ってじゅさを連れていく彼女と「もうサボったりせんって」と苦笑いするじゅさの後ろ姿をみると胸の奥にドロドロとした黒い感情が湧き出てくる。こんな醜い嫉妬なんてしたくないのに、心は言うことを聞いてくれない。それでも彼はお昼はいつも私と食べてくれていたし、
「今度の新人戦は絶対優勝しやる!それが終わったらオフも出来るはずやから、久々にどこか遊びにいこかや」
と言って私との時間を大切にしてくれていた。まだ好いてもらえていることに安心して、嫉妬することは度々あれど表には出さずに穏やかに過ごせていたと思う。
しかし、宣言通り新人戦で優勝した彼の元に1番に走っていき抱きついた彼女をみて、私は我慢の限界だった。じゅさは別に抱き締め返したわけでもないし、寧ろ戸惑っていたと思う。もしかしたらすぐに引き剥がしたかもしれない。それでも彼の元に駆け寄って抱きついた彼女が、呆然と立ち尽くす私を見て勝ち誇った顔をしているのが耐えられなかったのだ。彼女は私なのに、テニスに向き合う彼を支えてたのは間違いなくあの子で、、結局じゅさに「おめでとう」の一言も言えずに家に帰ってきてしまった。
ベッドに寝転がるとさっきの光景を思い出してしまい、堰を切ったように涙が溢れ出す。もうだめなのかもしれない。嫉妬ばかりして、彼の優勝も素直に喜べずにおめでとうさえ言えないなんて、彼女として失格だ。私が来ていたことは知っているはずだし、何も言わずに帰ったなんて愛想を尽かされても仕方がない。無理にでも我慢して気持ちを押し殺して笑顔でおめでとうって言えればよかったのに。今頃あの子と笑い合っているのだろうか。一般的に見て可愛い部類に入る子だと思うし、明るい彼女の方が色々と話も合うかもしれない。悪い方にばかり考えてしまい後悔がどっと押し寄せてくる。毛布にくるまって泣いていると、メールの着信音が聞こえた。起き上がって携帯を見ると"毛利寿三郎"の文字。急いで内容を確認すると「話があるんやけど、今どこにおる?」と。あぁ、別れ話だ。そう思ったら頭が真っ白になって、止まったはずの涙がまたぼろぼろと出てくる。それでも無視するわけにはいかなくて、「今家だから今度でもいい?」と返した。とてもじゃないけど今の顔を見せるわけにはいかない。彼なら無理強いはしてこないだろうと画面を閉じようとするとまたすぐに着信音が鳴った。すると思っていた返事とは違い、「それなら今から家に行くから、ちょっと待っといて」と言った内容だった。今までこんなに強引なことはなかったのに、どうしたのだろうか。でもこれは本気で来る気だろう。どうしよう、こんな泣き腫らした顔見られたくないのに、、悩んでいる間にも着々と時間は迫ってくる。取り敢えず少しでも目の赤みをマシにするために保冷剤を当て、彼がくるのを待った。20分ほどすると彼からまたメールが来て「近くの公園にいるんやけど出てこれる?」と書いてあった。「わかった」と返事をして、鉛のように重い足をなんとか動かし公園に向かった。
公園に着くと、じゅさは俯いてベンチに座っていた。とてもじゃないが、さっき大会で優勝を勝ち取った選手には見えない。彼のこんなに元気のない姿を見るのは初めてで、どうしたらいいのかわからない。優しい彼のことだからどうやって振れば私が傷つかないでいられるか考えているのだろう。もしかしたらマネージャーのあの子に告白でもされたのかもしれない。あの子と付き合いたいから別れてなんて彼は絶対に言えないだろうから…
私が平気なふりをしないと、と意を決して話しかける。
「じゅさ」
「!!」
声は震えていなかっただろうか。うまく笑えているだろうか。震える手を握りしめて彼の前に立つ。
「優勝おめでとう。何も言わずに帰ってごめんね。みんなに囲まれてるから水を差しちゃいけないと思って」
じゅさが顔を上げる。ねぇ、どうして君がそんなに泣きそうな顔をしてるの?なんで、私よりも辛そうにしているの?喉まで出かけた言葉を飲み込んで尋ねる。
「それで、話って何かな?」
聞きたくない。けど、彼のことが大好きだから。最後くらいはいい女でいられるように、笑顔でいたい。だから、また泣いてしまう前に聞かなきゃ。そう思い歯を食いしばって泣くのを耐え、彼が話し始めるのを待っていると、帰ってきた言葉は思わぬものだった。
「別れたない。」
「え?」
「はなと別れるなんて絶対無理や。お願いやから、俺を捨てんとって…」
いま、なんて言った?頭が追いつかない。別れ話ではなかったの?どういうこと?別れたくないって、捨てないでなんてそんなの私の台詞なのに。
混乱している私をみて何を思ったのか、じゅさはさらに畳み掛ける。
「あの時避けれなくてすまん。優勝出来て嬉しくて、はなとの約束果たせたことに安心して舞いあがっとったらあいつが向かってきてるのに気付かんかった」
じゅさの言う"あの時"が、あの子に抱きつかれた時だと言うのはすぐに分かった。私との約束?約束なんてしていただろうか
「約束って?」
「忘れたん!?新人戦で優勝しやる、って言ったやん!」
「あれって約束だったの…?」
「約束とすら思われてへんかった…はなに宣言したからには絶対守らないあかんって敢えて自分にプレッシャーかけとったんに…」
まさか食事中でのあの一言を、そんな思いで言っていたなんて思ってもみなかった。驚いて目を見開く私を他所にじゅさは続ける。
「試合終わってはなのところに行こ思うとったら急にマネに抱き付かれて、やめてや言うてすぐに引き剥がしてはなの方向いたら走って行ってまうし、急いで追いかけようとしたら表彰あるからって止められるし…」
よかった、やっぱりすぐに引き剥がしていたんだと安心したのも束の間、なんだか少し話が噛み合っていない気がする。もしかしてじゅさは、あの子に抱きしめられているところをみた私が怒ってあの場を立ち去ったと思っているのだろうか。確かに怒りが湧かなかったわけではないが、それは勝ち誇った顔でこちらを見ていたあの子や、不甲斐ない自分に対してのものであって決してじゅさへの怒りではない。
「私、別に怒ってないよ」
「ほんまに…?じゃあ、まだ俺の彼女でいてくれるん?」
不安そうにこちらを見つめる彼を見て、本当に別れ話じゃないんだとやっと安心できてまた涙が溢れてきた。さっきまでも涙が枯れるくらい泣いていたのに、今日は泣きすぎてる。明日目大丈夫かな、なんて考えていると目の前のじゅさが顔を青くして慌て出した。
「なんで泣いてるん!?やっぱり別れたいと思ってるんやろか…でも俺嫌や。絶対に別れたない」
お願い、と繰り返し私の手を握りしめる彼に向かって首を横に振る。
「違うの…っ!安心して…!じゅさからメール貰った時、あぁ私振られるんだって思って……」
「俺がはなの事振るわけあらへんやん!こんなに好きやのに!」
「……っでも、私勝手に嫉妬して、じゅさがあんなに頑張って勝ち取った優勝なのにおめでとうの一言も言わずに帰っちゃって……っ!」
じゅさの顔をちゃんと見たいのに、自己嫌悪から涙が次から次へと溢れて視界はいつまでも滲んだままだ。
「…嫉妬してくれとったん?愛想尽かしたとかやなくて?」
「愛想尽かすなんてそんな…!あの子に抱きつかれるじゅさを見たくなくて、逃げたんっ!?」
言い終わる前に強い力で腕を引かれ、気付いたらじゅさの腕の中にいた。
「じゅさ…?」
「あかん、、、はなが悲しんどるのに、喜んだらあかんってわかっとるのにめっちゃ嬉しい。いつも俺ばっかり嫉妬して、はなは嫉妬とかせん思とったから」
確かに、じゅさは元々人との距離が近いから女の子との距離が多少近くても気にしないようにしていた。最初の頃はモヤモヤすることもあったが、気にするだけ無駄だと思ったのだ。あの子にだけ嫉妬していたのは、あの子がじゅさのことを好きだと知っていたからであって他の子と比べて特別距離が近いわけでもなかった。
「私本当はすっごく嫉妬深いよ。本当は、いつも放課後にあの子がじゅさの腕引っ張って部活に連れて行くのも嫌だった。」
そう言うと、じゅさは私を抱きしめる腕にぎゅっと力を入れた。
「〜〜っ!!かわええ〜っ!」
ぎゅうぎゅうと押し潰されそうになり胸を叩いて抵抗すると少し力が緩まった。その隙にパッと顔を上げると、じゅさは今まで見た事ないくらいに頰をゆるめて幸せそうに笑っていた。
「なんでそんなニヤニヤしてるの」
照れ隠しに少し怒気を込めた声で言ってみたのにじゅさは表情を隠そうともしない。
「不安にさせてかんにんな。そやけど俺が好きなのははなだけやで。これからはもうマネに触られへんようにする。マネだけやなくて他の女の子も」
相変わらずニヤニヤしているのに声は真剣で、冗談なのかも分からない。
「それは流石にやりすぎじゃない…?」
動揺を隠すようにそういえば、じゅさは急に真剣な表情へと変わった。
「そんなんあらへん。はなを不安にさせん為ならそれくらい余裕や。俺ははなのこと1番大事で、はな以外からはなんて思われたって構わんで」
そう言う彼に胸が高鳴る。そうだった。彼はいつも私のことを1番に優先してくれて、大切にしてくれていた。かっこいいところを見せたいからと大会にはいつも呼んでくれたし、デートの時はいつだって私の行きたいところを優先してくれる。不安に思うことなんて何もなかったんだ。嬉しくて今度は私から抱きつくと、一瞬ビクッとしたじゅさだったが直ぐに背中に腕を回して抱き締め返してくれた。温かい大きな体に包まれて幸福感が込み上げてくる。
「じゅさ、ありがとう」
少し体を離して顔を見上げ笑顔で言うと、彼もにっこりと笑った。
「これで仲直りやね。」
どちらからともなく顔を近づける。重なった唇は熱かった。もう一度目を合わせて2人で笑い合うと、彼があっ!と何かを思い出したような声をあげる。
「新人戦が終わったら遊びに行こうって言うたやん?来週の日曜日オフになってん。約束通り、デート行こかや」
「行きたい!!」
「決まりやな。行きたいとこ考えといてや」
久々のじゅさとのデート、楽しみすぎて今からそわそわしてしまう。そんな私をみて彼は目を細めて笑っていた。
これからは、嫌なことがあったら耐えられなくなる前に素直に彼に言おうと心に決めた。彼ならどんなことも、その大きな体と同じくらい大きな愛で包み込んでくれるだろうから。
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