風邪
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「⋯⋯ヤバい⋯」
タイピングの手を止めて思わず呟いたのは
目の前が霞んできたからで⋯
両目を擦り、傍に置いてあった缶コーヒーをグイッと飲み干した
本庁のオフィスに篭もり
現在徹夜2日目突入中である
仮眠をとる時間も惜しく
再びタイピングを始めると隣の風見さんから声をかけられた
「⋯八月一日、お前大丈夫か⋯?」
「え、何が?」
「凄い顔になってるぞ⋯」
「まぁ化粧なんてとっくの昔に落ちてるから凄い顔でしょうね」
「いや⋯そうじゃなくて⋯」
「そういえば風見さん!!ちょうど良い所に!!
この書類降谷さんのデスクに置いといて下さい!!」
「自分で置けばいいだろ⋯」
風見さんのその呆れたような声にパソコンから顔を離して隣の顔を睨んだ
「ちょっとこの惨状見て分かりませんか?
この書類の山今日までに仕上げなきゃいけないんですよ!?
一分一秒も惜しいんです!!」
「分かった分かった⋯」
風見さんはため息をつくとパソコンの隣にあった書類を取ろうとしたが
「⋯やっとできたのか」
その書類は別の手に取られてしまった
「「ふ、降谷さん!!」」
慌ててその手の先を見れば
そこには見事にスーツを着こなしている我らが上司⋯
降谷零さんがいた
「お、お疲れ様です⋯」
「降谷さん本庁に来るの珍しいですね⋯」
「少し時間ができたからな⋯少しでも書類を片付けておこうと思って⋯」
降谷さんはそう言いながらも私の書類をパラパラと読んでいく
ものの数秒で全てを読み終わると⋯
「⋯やり直しだ」
「ひぇっ⋯」
ギロっと眼光が鋭くなった降谷さんそう言われて
思わず肩がすくむ
「誤字脱字が多いし第一この書類⋯は⋯」
「⋯⋯?」
また長いお説教が始まるとビクビクしながら聞いていたら
言葉を止めた降谷さん
不思議に思ってその顔を見上げると
その綺麗な青い瞳と目があった
「⋯⋯八月一日、」
「は、はい!!」
「お前また徹夜してるな⋯何日目だ」
「ま、まだ2日目ですけど⋯」
「⋯⋯」
私がそう言うと降谷さんは少し黙った後
スッと右手を私の首に添えると
左手で私の顔を固定した
「ぇ⋯」
その意味不明な行動に戸惑っていると
グイッと顔を近づけられ
⋯コツン
互いのおでこが触れ合った
「⋯やはり体温が高いな⋯」
「⋯⋯」
有り得ない程近くにある上司⋯
元い好きな人の顔が近くにあり
金魚の如く口をパクパクさせ顔が一気に熱くなる
「⋯ちょっと来い」
降谷さんはそう言って顔を離すと、私の手を取って歩き出した
もちろん抵抗出来るわけなくておぼつかない足取りで半ば引っ張られていく
ふとオフィスを出る直前風見さんの方を見れば
呆然とした顔でこちらを見ていた
「ふ⋯降谷さん⋯?」
仮眠室に着き、バタンと扉が閉められる
「⋯寝ろ」
ベッドに座らされてそう言われたけど
今日までに仕上げなくちゃいけない書類を思い出し
その顔を見上げた
「いや⋯あの、でも今日までに仕上げないといけない書類が⋯」
「いいから寝ろ、上司命令だ」
「は⋯はぃ⋯」
鋭い眼光でそう言われれば抵抗出来るわけなく⋯
渋々ベッドに横になる
「⋯⋯」
「⋯⋯」
「⋯あ⋯あの⋯降谷さん?」
「何だ?」
「その⋯見られてたら⋯寝にくいんですけど⋯」
「⋯ちゃんと寝るまで見張ってないと何するか分からないからな」
「いや、手元に何もないのでしようがないですよっ」
「それもそうか⋯
じゃあ時間になったら起こしにくるからそれまで寝てろ
⋯いいな?」
「わ、分かりましたよ⋯」
降谷さんはフッと笑い私の頭を1度撫でた後
仮眠室を出て行った
「⋯⋯頭⋯撫でてくれた⋯
今ならあの書類の山1時間で終わりそうな気がするわ⋯」
そう呟いて布団を被ると予想以上に疲れていたみたいで
直ぐに私の意識は飛んでいった
「ん⋯⋯」
次に目が覚めたのは見知らぬベッドの上で⋯
「⋯ん?⋯⋯え?」
バッと起き上がり現状把握をしようと周りを見渡す
今居る場所はあの簡易的な仮眠室じゃなくて⋯
どこかの部屋の寝室だった⋯
「こ⋯ここ⋯どこ⋯」
私、仮眠室で寝てたはずじゃ⋯
ますます頭が混乱してきて
とりあえず他の部屋も見てみようと起き上がろうとした瞬間
「っ⋯」
くらりと目眩がしてベットに手をつく
「⋯⋯っ⋯はぁ⋯」
これはヤバイな⋯
何でこんな所に居るのか分からないけど
もし拉致にあってたりしてたら⋯こんな状態じゃまともに戦えない⋯
「⋯キツ⋯」
強い身体の倦怠感と熱っぽさに荒い息をついた
その時
「⋯起きたか」
「ぇっ⋯」
バッと声がした方を見れば
そこには⋯私服の降谷さんがいた
「ふ、降谷さん!?ななな、何でここに!?」
うわあああっ
し、私服の降谷さんっ⋯レア、レアだ⋯
目に焼き付けておこう⋯
いや、そうじゃなくて⋯
「ってかここどこですか!?」
降谷さんはこちらに近づいてくると私の隣に腰掛けてとんでもない事を言い出した
「ここは俺の家だ」
「⋯⋯は?」
ん?幻聴?
「フルヤサンのイエ?」
「⋯何でカタコトなんだよ⋯」
「ち、ちょっと現状把握ができなくて⋯
第一私仮眠室で寝てたはずじゃ⋯」
「俺がここまで連れてきたんだ」
「ふぁ!?ななな、何で!?」
「お前熱があるだろ
しかも散々徹夜はするなと言ってるのにまた徹夜して⋯
八月一日は放っておくとそのまままた仕事を続けそうだからな⋯
俺が預かってきた」
「⋯ちょっと理解ができないんですけど⋯」
「上司命令で休めって言ってるんだ」
「いやっ⋯私まだ書類終わらせてないですしっ⋯」
「それなら俺が全部終わらせておいた」
「⋯⋯へ?」
今⋯この人何と⋯?
「八月一日が2、3日休める程度には終わらせたから
心配しなくて休んでいい」
降谷さんはそう言って私の頭に手を置くと優しく頭を撫でてきた
その手の温かさに、カッと目頭が熱くなる
「⋯っ⋯ふ⋯ふるやざんっ⋯」
「!?な、何で泣くんだっ」
「だ⋯だって私っ⋯降谷さんの力になりたいのにっ⋯
こうやって迷惑かけてっ⋯
しかもっ私の仕事までしてもらうなんてっ⋯
な、情けなくてっ⋯うっ⋯すびませんっ⋯」
自分の不甲斐なさに熱も相まってか
上手く感情がコントロールできずにボロボロと涙を零す
駄目だ、駄目だ、
泣いたらもっと降谷さんに迷惑かけるのにっ⋯
「⋯はぁ⋯全く⋯」
呆れたようにそう呟いた降谷さんの声にビクリと肩を揺らす
「っ⋯ごめ⋯なさっ⋯」
あぁ⋯きっと、呆れられた⋯
ズキリと胸が痛み、更に零れてきた涙を拭おうとして両手で目元を擦ろうとしたら
その手を、優しく掴まれた
「やめろ、目が赤くなるだろ」
「ぅっ⋯でもっ⋯」
「⋯八月一日、よく聞け」
降谷さんの真剣な瞳に
涙を流しながらもその瞳を見つめる
「は⋯はい⋯」
「俺は迷惑だなんて思った事はないし
八月一日の気遣いにはいつも感謝してる」
「⋯へ?私、感謝される覚えなんて⋯」
「いつも俺のデスクを片付けてくれてるだろ?
しかもいつ俺が本庁にきてもいいように⋯毎日、」
「な、何でそれをっ⋯」
「とある情報網からな⋯」
ぜ⋯絶対風見さんだなっ⋯
「八月一日がきちんと整理してくれているおかげで
スムーズに仕事ができるんだ」
「そ⋯そんな、事⋯」
「だから今回はそのご褒美だと思って休め⋯いいな?」
降谷さんはまたコツリと互いのおでこを合わせると
フッと笑いながらそう言った
「ふる⋯や⋯さん⋯」
降谷さんの優しさとか、気遣いとか
全てが嬉しくてホロりと涙が零れる
そのまま降谷さんを見つめていると
「⋯⋯」
ふと、降谷さんが目線を逸らした
「⋯参ったな⋯」
「⋯?」
「ここまで言うつもりは無かったが⋯」
「降谷さん⋯?」
不思議に思って名前を呼べば、降谷さんは一度目を伏せた後
真剣な瞳で私を見つめてきた
「⋯八月一日、」
「は⋯はい⋯」
その瞳に⋯
ドキリと心臓が鳴る
「言っておくが俺は⋯部下全員にここまで優しくする訳じゃないからな」
「それ⋯は⋯」
「⋯桜だけだ」
「っ⋯!?」
降谷さんはそう言うと⋯
私のおでこに軽いリップ音を立てて口付けた
「なっ⋯ぃ⋯い、ま⋯」
「体調が良くなったらこの意味⋯教えてやるよ」
間違いなく上昇した体温に目眩がして
また布団にダイブした
『風邪』
降谷さん、
それって、期待してもいいんですか⋯?