33.5.初恋
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私は⋯幼い頃から自分の髪が大嫌いだった
「さつきちゃんだけかみのけの色がちがーう!」
「へんなのーっ」
「かみのけそめたらだめなんだよ?」
「さつきちゃんだけずるーいっ」
「こ、これはねっ⋯あのっ⋯
おばあちゃんががいこくの人でねっ⋯」
「もういいやあっちであそぼっ」
「うんっ」
幼稚園でも小学校でも⋯
いつも髪の毛の事で私だけ仲間外れにされたり馬鹿にされたりして
更にそれを親に相談すると
「ママがさつきちゃんとははなしちゃだめだって言ってた!」
「うちもさつきちゃんはおじょうさまだから友だちになっちゃだめって」
「私たちとはちがうんだよ」
「ね、」
その事が大きな話となり
結果的に周りから嫌煙され
私はいつも、ひとりぼっちだった
だけど中学校の入学式の日
周りは自分から話しかけたり友達をつくっているのに
そんな勇気も気力もなく誰にも話しかけずに席に座って小説を読んでると
「うわぁ⋯貴方の髪すっごく綺麗だね!」
「えっ⋯」
不意に声をかけられて顔を上げると
そこには瞳をキラキラと輝かせた女の子が私を見つめていた
「えっ⋯と⋯」
「あっ!いきなりごめんねっ!?
髪の毛が綺麗でつい声かけちゃった」
「そ⋯それは⋯別に⋯えと⋯」
まともに同年代の子と話したことが無く
何て答えればいいか分からずに戸惑っていると
その女の子は隣の席の椅子をガタッと引くとそこに座った
「私神宮寺梅子!隣の席なんだ〜!
よろしくねっ!」
「あ⋯えと⋯はい⋯」
「も〜敬語なんてやめてよ〜同級生なんだからさっ!
それより名前聞いてもいい?」
「わ⋯私は⋯八乙女⋯皐月⋯です」
「皐月ちゃん!?うわっ⋯名前まで可愛いとか完璧じゃん⋯私なんて梅子⋯」
「?」
「なっなんでもないっ!
これからよろしくねっ!皐月ちゃん!」
そう言って太陽の様な笑顔を浮かべて私に差し出した右手を
「う⋯うん⋯」
そっと握った
その後梅子の幼なじみでもある綾芽とも仲良くなり
私はあの日⋯大切な友達を2人も得て
自分の髪が少しだけ好きになったんだ
「お腹空いたあああああぁぁぁ⋯」
「⋯出会ってそうそうどうしたのよ⋯梅子、」
あれから5年
私達は高校3年生になり
私は江古田高校へ
梅子と綾芽は帝丹高校へ進学した
「いや実は梅子今日お昼ご飯忘れてさ
しかも残金ゼロ、だから昼休みからずっとこんな感じ」
「お弁当1口ぐらいくれても良くない!?
綾芽のケチ!!イケズ!!」
「だれがケチじゃ」
「はぁ⋯全く⋯今日は私が奢ってやるわ⋯
どこか喫茶店でも寄る?」
「神様仏様皐月様ぁぁぁ!!寄る寄る!!」
「よっしゃ」
「あんたはダメよ綾芽」
「チッ⋯相変わらず皐月は梅子に甘いな⋯
あ、んじゃあそこがいいな、米花町にあるポアロって店」
「ポアロ?」
「この間たまたまその店入ったんだけどコーヒーが美味しくてさぁ〜
きっと2人も気に入ると思うよ」
「よっしゃー!!んじゃあそこ行こう!!」
「⋯⋯」
「なに?皐月、人の顔じっと見て⋯」
「綾芽が『たまたま』喫茶店に入るなんて怪しい⋯」
「失礼な」
「で、本当は?」
「可愛い店員さんが居たから入りました」
「でしょうね⋯ま、変なお店じゃないのならそこにしましょうか」
ポアロを知ったのはその時
コーヒーも料理も美味しくて⋯
それなりに常連になった時に
梅子がお店で前髪を切って悲惨なことになった
その時にポアロの店員さん⋯
八月一日桜さんが梅子の髪を整えてくれて⋯
『だからもっと自分の名前に自信を持って?
こんなに愛されて可愛い梅子ちゃんが落ち込んでたら
ひいおばあさんも天国で心配しちゃうよ』
しかも梅子のコンプレックスだった名前を素敵な名前だと言って、微笑んだ八月一日さん
その時の笑顔は私でも素敵だと思えて⋯
それを目の前で見た梅子はそれからすっかり八月一日さんの虜だ
自称ファン1号らしい
それから梅子に連れられて何度かポアロに来ているうちに
⋯ある人と出会った
「皐月!今日もポアロ行こ!」
「⋯また?」
「なんでも今日限定のフルーツパフェがあるんだって!!これは行かなきゃでしょ!!」
「私は別に⋯」
「行くよね?」
「わ、分かったわよ⋯ちょっと綾芽、梅子どうにかしてちょうだい」
「あー無理無理、今日朝からこんな調子だから」
「⋯お疲れ様⋯」
なんて話をしながらポアロに入ると
「いらっしゃいませーっ」
聞いたことの無い男の人の声がして
2人の後ろからひょっこり顔を覗かせて店内を見ると
そこには褐色の肌にクリーム色の髪をした
顔の整った男の人がいた
そのクリーム色の髪に心臓がドキリと跳ねる
⋯私と同じ⋯髪の色だ
「桜お姉様また会いに来ました!!」
「梅子ちゃん皐月ちゃん綾芽ちゃん!いらっしゃい!
空いてる席どうぞ〜」
3人で空いてるテーブル席につくと
直ぐに八月一日さんが来てくれて私達の席にお冷を置いてくれた
「ご注文は何になさいますか?」
「フルーツパフェ3つ!!」
「ふふっやっぱりね
じゃあフルーツパフェ3つですねっ
少々お待ち下さいっ」
「梅子、私は⋯」
「あ〜楽しみだなぁっ〜」
⋯聞いてないわね、この子⋯
本当は今日は喉の調子が悪いから飲食は控えようと思ってたのに⋯
「も〜今日のパフェの事知っておばあちゃんに死にものぐるいでお小遣い前借りしてさぁ〜」
「⋯あんたよくあのばあさんに前借りなんてできるね⋯」
⋯ま、梅子が幸せそうだからいっか
パフェ来るまでの間談笑していると
ふと梅子がカウンターに居るあの男の人を見ながら言った
「あの人新しい人かな?」
「ぽいね、中々のイケメンだしこりゃ女性客が増えそうだわ⋯
てか皐月の髪の色と似てるよね」
「⋯うん」
お冷を飲みながら頷くとあのお兄さんが私達の隣の席の食器を下げるため近づいてきた
「おにーさんそれ地毛?」
その姿に綾芽が声をかけると
お兄さんは私達の方へ振り返り少しだけ髪の毛を触りながら答えた
「え?髪ですか?もちろん地毛ですよ
そういえば⋯貴方もですか?」
「え、えぇ⋯」
ふと声をかけられて思わず頷けば
お兄さんはにっこりと笑いながら言った
「じゃあ僕と⋯お揃いですね」
その時のお兄さんの笑顔が⋯
なぜか目に焼き付いて離れなかった
今思えば始まりは⋯きっとこの時だったんだ
その後パフェがきたけれど
何かを食べる度に異物感が喉に残りスプーンが進まないでいた
「ん?どした皐月、あんまり食べれてないみたいだけど⋯」
「あ⋯いや⋯実はここに来る前にお菓子食べてしまって⋯」
綾芽は普段サバサバしてるけど結構心配性だから誤魔化しておかないと⋯
「ふーん⋯?」
「んじゃ私にちょうだい!!」
「はいはい」
「ちょっと梅子、あんたダイエットするんじゃなかったの?
確か体重⋯ご」
「ギャアアアアアア!!ここで言わないでええええ!!」
「うっさい!!静かにしなさい!!」
「綾芽が私の体重を言おうとするからでしょ!?」
ぎゃいぎゃいうるさい2人を注意する気にもなれず
それを眺めながら喉に手を当てお冷に手を伸ばそうとしたら
「こちらをどうぞ」
「⋯え」
コトリと軽い音を立ててテーブルに置かれたのは
湯気の漂うティーカップで⋯
その手の先を見ればあの褐色のイケメンお兄さんがいた
「あの⋯私頼んでいませんわ」
「これは僕からのサービスなので気にしないで下さい」
お兄さんはそう言うと他のテーブルに呼ばれて行ってしまった
「⋯⋯」
サービスって⋯これ何の飲み物だろう⋯
カップの中を覗いてみればそれは琥珀色の液体だった
鼻を少し近づければ甘い匂いがして⋯
カップを持ち軽く息をかけてから1口飲んでみると
「あ⋯レモネード⋯」
それから⋯この甘み⋯蜂蜜も入ってる
チラリとあの褐色の男の人を見れば八月一日さんと談笑していて⋯
その笑顔から目が離せなくなった
あの人⋯
もしかして私の喉の調子が良くない事に気づいて⋯?
「あれ、皐月その飲み物どうしたの?」
「⋯うん」
「⋯皐月?」
「⋯うん」
「⋯おーい、皐月〜?」
「⋯うん」
「⋯え、綾芽、皐月が変になった⋯私がパフェ取ったから?」
「⋯ふーん⋯」
それからポアロに行く度
お兄さん⋯安室さんを無意識の内に探している私がいて
安室さんが好きなんだと自覚するのに
そう時間はかからなかった
「⋯ー以上でお間違いないでしょうか?」
「はいっ大丈夫ですっ」
「かしこまりました少々お待ち下さい」
「あっ⋯あのっ!ちゅ、注文いいですか?」
「はい!少々お待ち下さい」
私って⋯こんな計算高い女だったんだな⋯
安室さんと少しだけでも話したくて
安室さんが近くのテーブルの注文を取り終わった時に
タイミング良く注文を頼むなんて⋯
今までの自分からは想像できない行動に
なんだか、別人になったみたい⋯
でも私⋯それ程好きなんだ⋯
安室さんが⋯
でも⋯安室さんはきっと⋯
八月一日さんが好きだ
ずっと見てるから分かる
榎本さんと話す時は普段通りなのに
八月一日さんと話す時には少しだけ⋯
ほんの少しだけ雰囲気が変わるんだ
時々2人で話している姿を見てると
私に入る隙なんてないのは分かってる
でも⋯でもっ!
好き
好きなの
安室さん⋯
私はただのお客さんですか?
子供だから駄目ですか?
もっと大人になったら見てくれますか?
とある日
その日は学校が休みで
いつもより大人っぽくコーディネートし化粧もしてポアロへと向かった
「今日は少し雰囲気が違いますね」
注文をした後ふと安室さんが私を見つめてそう言い
ドキリと心臓が跳ねた
気づいて、くれた⋯
「へ、変⋯ですか⋯?」
「そんな事ありませんよ、素敵だと思います」
にっこり笑いながらそう言ってくれた安室さんにドキドキと胸が高鳴り
頬が熱くなる
あぁ⋯やっぱり、好きだ
きっとこの気持ちは秘密にしている方が幸せなのかもしれない
だけど⋯気持ちを伝えないままなんて⋯
したくない
「お願い⋯神様⋯
ちょっとだけでも⋯勇気を下さい⋯」
そう呟いてずっと渡せずにいるメッセージカードを
ぎゅっと握りしめた
「あのっ!お会計お願いします!」
安室さんが会計に立った時に私も伝票を持っていくと
そのまま安室さんが会計をしてくれた
レジを打つ指を見ながら早鐘を打つ心臓を落ち着かせようとそっと胸に手を添える
頑張れ⋯
頑張れ、自分っ
「320円のお返しになります」
トレーに置かれたお金を見て軽く深呼吸をした後
思い切って安室さんに声をかけた
「あっ⋯あのっ!
これっ⋯受け取ってくださいっ⋯」
「え?」
不思議そうに首を傾げた安室さんの前に
メッセージカードを置いた
「っ⋯来てくれるまで待ってます⋯ずっと!」
「え!?あのっ⋯!」
安室さんが何かを言う前に
逃げるようにポアロから出た
「ほんとに⋯渡しちゃったわ⋯」
公園のベンチに座りボーッと自分の両手を見つめる
安室さんに渡したメッセージカードには
『今日の仕事が終わったら薔薇公園に来てください
お話ししたい事があります』
そう書いていた
安室さんは優しいから⋯
来てくれるまでずっと待ってる、なんて言ったら
絶対⋯来てくれるはず⋯
「本当⋯ズルい女⋯」
自分の浅ましさに嫌気がさしながらも
ぎゅっと拳を握って高鳴る胸に添えた
それから日も傾きだした頃
小雨がポツポツと降り出した
「ひっ⋯くしゅん!⋯さむ⋯」
身体を打ち付ける雨を気にせずそのままベンチに座っていると
寒気を感じて思わず両腕を抱えた
「⋯もう⋯来ないの、かな⋯」
ポアロの営業時間は過ぎているけれど⋯
安室さんが公園に現れる気配はなかった
やっぱり⋯私じゃ駄目なのかな⋯
そう考えている間も身体は冷たくなる一方で⋯
そろそろ、帰った方がいいのかもしれない
でも⋯でもっ!!
「諦めたく⋯ないよ⋯」
グッ⋯と唇を噛み締めたその時
「⋯風邪をひいてしまいますよ」
雨が止み、私に影がさした後
そんな優しい声が頭上から聞こえた
ゆっくりと顔を上げれば
「安室、さん⋯」
そこには雨に打たれながら私に傘をさす安室さんが
そこに立っていた
「⋯それで⋯話と言うのは⋯」
不思議と心臓の高鳴りは落ち着いていて⋯
ゆっくりと立ち上がった後軽く、息を吸った
「私⋯安室さんが⋯
好きです」
安室さんを見上げながら勇気を出してそう言えば
少しの沈黙の後
「⋯すみません⋯
その気持ちは⋯受け取れません、」
その言葉はストンと私の中に入っていって
胸に傷を作った
「⋯⋯ら⋯ですか⋯」
「え⋯」
「⋯八月一日さんが⋯好きだからですか」
「っ⋯」
私がそう言うと
微かに安室さんの目が見開かれた
あぁ⋯
「はは⋯やっぱり⋯そう、ですか⋯」
「⋯桜さんはただのバイト仲間ですよ」
自嘲気味に笑いながらそう言えば
まるで取り繕うようにそう言った安室さんに
「っ!!そんな訳ない!!分かるんだから!!」
つい、大きな声が出てしまった
「だって私っ⋯貴方をずっと見ててっ⋯
安室さんが八月一日さんが好きだって本当は気づいてた!
たけど⋯だけどっ!
⋯もしかしたら私にもチャンスはあるんじゃないかって⋯
そう···思ってっ···でもっ···」
だめ、泣くな、私
安室さんは一瞬私の方へ手を伸ばそうとしたけれど⋯
その手は私を掴むことなく元の位置へと戻った
それを見て⋯
もう私の気持ちは届かない事を悟ると同時に
本当に⋯どこまでも優しい人だと
少しだけ、胸が高鳴った
「お時間⋯取らせてごめんなさい⋯」
「いえ⋯今の時間に女性1人では危ないので家まで送ります」
「っ⋯」
そう言った安室さんから1歩後ろに下がり
俯いて距離をとる
雨に濡れる背中がだんだん冷たくなり
まるで心まで冷えきっていくようだった
「っ⋯お願いっ⋯これ以上っ⋯優しくしないでっ⋯」
「⋯⋯」
安室さんが何か言いたげに空気を飲む気配がしたけれど
私は俯かせた顔を上げることができなかった
そのまま何も言わない私の代わりに
安室さんは力強く握っていた私の拳を優しく解くと
その手に持っていた傘を握らせた
「⋯せめてこれだけでも」
「⋯⋯」
触れた手は温かくて
でもこの手はこれから先
私に触れることはないのだと思うと視界がぼやけてくる
私がなにも言わないでいると安室さんはそっと手を離して
「⋯帰り、気をつけて下さいね⋯」
そう言って雨の中
公園を去って行った
安室さんから渡された傘もささずにベンチに座って雨にうたれていると
不意に私の前に見た事がある靴が現れ
身体をうちつける雨が止んだ
「⋯やっぱここに居た」
その声にゆっくりと顔を上げれば
「⋯綾芽、」
そこには少し不機嫌そうに眉をひそめた⋯
綾芽が立っていた
「⋯何してんの、こんな時間に、傘もささないで」
「⋯別に⋯雨にうたれたかっただけ⋯」
ポツリと呟くようにそう言うと
しばらくの沈黙の後
「はあぁぁぁ⋯」
と綾芽が大きなため息をついた
「⋯あのね、私あんたの親友なんだけど」
「⋯え?」
「だーかーらっ!!」
綾芽は首を傾げる私の後頭部に手を置くとそのままグイッと力を入れて
私は綾芽の身体に顔面ダイブするような形になった
「あや⋯め⋯?」
「⋯あんたがあの人の事好きなのも知ってる
それで今日どうしたのか⋯
どうなったのかも」
「なんっ⋯で⋯」
「言ったでしょーが⋯親友だって
だから、もっと甘えなよ」
後頭部に置いてあった手が優しく私の頭を撫でる
その手の温かさに目頭がどんどん熱くなってきた
「あや⋯めっ⋯私っ⋯わたしっ⋯」
「⋯頑張ったね
皐月、」
「〜〜っ⋯うわあああん!!」
綾芽の優しい声にプツリと身体の糸が切れて
目の前の身体に抱きつき
私は初めて声を上げて泣いた
「私っ私っ!!初めて本気で好きになったのにっ!」
「⋯うん」
「頑張って、オシャレしてっ化粧もしてっ」
「⋯うん、可愛いよ」
「なのにっ⋯なのにだめだったよぉっ」
「⋯うん」
「なんで私じゃ駄目なのよっ⋯
八月一日さんより私の方が可愛いのにっ!」
「⋯⋯」
「なんで黙るのよばかぁっ!!」
「⋯いや、どっちも可愛いから⋯」
「綾芽のたらし!!」
「いやぁ、それほどでも〜」
「褒めてないわよばか!!」
「⋯八月一日さんの事⋯嫌い?」
「っ⋯嫌いな訳⋯ないっ⋯でもっ!!悔しいの!!
こんなに辛くて悲しくて憎らしいのに⋯
あの人の事嫌いになれなくて⋯っ⋯悔しいっ⋯」
「⋯そっか」
「⋯こんなにっ⋯好きだったのに⋯」
「⋯⋯好き『だった』⋯んだね、」
「⋯⋯うん⋯」
ほんとに、好きだったんだよ⋯
バイバイ
私の初恋
「皐月からポアロに行きたいって言うなんて珍しいけど⋯何かあったの?」
「⋯ちょっと八月一日さんに伝えたい事があって」
「え?桜お姉様に?伝えたい事って?」
「⋯ちょっとね、」
カランっ
「いらっしゃいませー!!
あ!皐月ちゃん梅子ちゃん綾芽ちゃんっ!
こんにちはっ!今日も放課後ティータイム?」
「っ⋯八月一日さん!」
「ん?なぁに?」
「⋯っ⋯」
私は⋯あの時八月一日さんが梅子の名前を褒めてくれて
凄く、嬉しかった
出会ったばかりの私は梅子の名前がコンプレックスだと知った時
上手く言葉にできずに⋯
結局私は梅子に何も言えなかった
けれど八月一日さんはなんの躊躇いもなく
心の底から⋯梅子の名前を褒めてくれた
その時の姿はまるであの日⋯
私の髪を褒めてくれた梅子に似てて⋯
「悔しいけど⋯私、八月一日さんも好きなんです」
「へ⋯」
「だから⋯だから絶対っ
幸せになって下さい!!」
「皐月⋯ちゃん⋯
ありがとう⋯」
その微笑みを見て
やっぱり私は⋯この笑顔には叶わないな⋯
そう思ってその笑顔にはにかんだ
ピンポーン
「え?誰だろこんな時間に⋯」
夕御飯も食べてのんびりとハンドメイドの髪飾りを作っていると
部屋にインターホンが鳴り響いた
「宅配なんて頼んだっけ⋯?」
不思議に思いながら玄関の扉を少し開けると
そこには⋯
「え⋯安室⋯さん?」
全身ずぶ濡れの安室さんが立っていた
「え!?な、なんでこんなに濡れて!?
ど、どうしたんですか!?」
「⋯⋯」
扉を開けて安室さんにそう尋ねるも
安室さんは何も言わずに顔を俯かせていて
その表情はあまり見えない
な、何か私に用事が?
でも何も答えないし⋯
っていうかそもそもなんでこんな姿で⋯
家の鍵無くしたとか?
いや、安室さんに限ってそれはないとおもうけど⋯
「え、えと⋯
とにかく拭くもの持ってくるので待ってて⋯わっ!?」
くるりと振り返りバスタオルを持って来ようとしたら
左手を掴まれてそのまま後ろに引っ張られた
「ぇ⋯」
バタン、と玄関の扉が閉まる音と同時に
背中がじわりと湿ってくる
上からぽたぽたと落ちてくる水滴が私の頬を伝って
お腹の前で交差された褐色の肌に落ちた
「あむ⋯ろ⋯さん⋯」
え⋯なにこれ⋯なにこの状況⋯
なんで私は安室さんに後ろから抱きしめられているのでしょうか⋯
「⋯⋯」
「⋯えー⋯っと⋯安室さん?」
声をかけてみても相変わらず安室さんからは何も反応がなく
振りほどこうにも案外強く抱きしめられていてそれもできない
カチコチと時計の針が進む音だけが部屋に響く
どうしようかと考えていると
ボソリと安室さんが呟いた
「俺だって⋯心が痛まないわけじゃない⋯」
「⋯⋯安室さん⋯」
微かに聞こえたその声に
そっと空いてる右手を私の頭上にある頭に伸ばし
濡れている髪をそっと撫でる
安室さんに何があったのかは分からない⋯
けれど
「⋯大丈夫、ですよ」
まるで捨てられた子犬の様に不安気な彼を見て
そうせずにはいられなかった
「っ⋯」
安室さんはピクリと少しだけ身体を揺らした後
「ぐえっ!!」
私を痛い程締め付けてきた
「ぐっ⋯ちょ、たんまたんまっ!
く、苦しいです安室しゃんっ!!」
バシバシとお腹に回されている手を若干本気目で叩けば
「⋯ぷっ⋯ふふっ
すみません、桜さんが暖かくて、つい」
安室さんは笑いながらそっと手を離してくれ
やっと見せてくれたその笑顔にホッと胸を撫で下ろした
「いや、私が温かいっていうか安室さんが冷たすぎるというか⋯
びしょ濡れで何してるんですかっ!
風邪ひいちゃいますよっ!」
「大丈夫ですよ、鍛えてますから
それよりすみません⋯背中が少し濡れてしまいましたね⋯」
「鍛えてるっそういう問題じゃあ⋯
私は大丈夫なんで⋯とにかくバスタオル持ってきますね
あ、そうだ、もう少ししたらお風呂に入ろうって思ってお湯の準備してたんで⋯
ついでに入って温まって下さいっ」
「あ、いえ⋯直ぐに自分の部屋に戻るので⋯」
「だ・め・です!
今から部屋に戻ってお風呂溜めるってなったら時間かかるし
シャワーだけじゃ心配なんで⋯
今すぐ身体を拭いてお風呂に入って温まって下さいっ!」
「桜さん⋯ありがとうございます」
今度こそバスタオルを取りに行こうと思ったら
安室さんが「あ、」と声を上げた
「そうえば⋯桜さん扉を開ける前にドアスコープで誰か確認しましたか?」
「⋯え?」
「まさか⋯女性の一人暮らしでドアスコープを確認せず
更にチェーンもせずに扉を開けたわけじゃあ⋯
ありませんよね⋯?」
にっこりと笑った安室さんに
背筋がスっと冷えていく
「え⋯えと⋯その⋯」
「どうやら少し⋯話し合わないといけないようですね」
目を細めてニッコリと笑った安室さんを見て
雨じゃない雫が私の頬を伝った
『初恋』
「⋯おにーさんってほんとイケメンだねぇ」
「っ!君は⋯」
「かっこよくて誰にでも優しくて仕事もできる⋯
ほんとそんけーするよ」
「⋯⋯」
「ま、私はおにーさんの事、嫌いだけどね」
「⋯君は⋯」
「私の大事な親友泣かした事⋯私許さないから」
「⋯⋯」
「まぁあの時皐月に触らなかった事だけは評価したげる
もし少しでも触れて同情なんて見せたら⋯
おにーさんの事殴ってたわ」
「⋯⋯」
「んじゃね、私はあの子の所いかないといけないから
おにーさんも風邪ひかない内に早く帰りなー」
「⋯⋯」
降り注ぐ雨だけが
そんな2人の会話を聞いていた
