28.5.怪盗
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とある日
「⋯はぁ!?魔力を持った人間!?」
朝、教室に着く前に紅子につかまり校舎裏に連れて行かれたと思ったら
「そうよ、近々貴方の近くに凄い魔力を持った人間が現れるわ」
紅子からそう言われた
紅子といい白馬といい探偵のボウズといい
まーたやっかいなのが現れるのか⋯
内心げんなりしながら紅子を見ると
俺の考えを見透かしたように紅子が笑った
「怪盗も大変ね」
「⋯だから俺はキッドじゃねーっつーの」
「まぁいいわ
黒羽君、私も魔力を持っていて赤魔術をあつかう事ができるけれど
私はせいぜい占いや予言を聞くことだけ⋯
けどこれから貴方が会う人は
私とは桁が違う⋯いや、次元が違う魔法使いよ」
「⋯へーへー⋯ま、本当に会う事があればそんときゃ報告するよ」
「ちょっと黒羽君!!まだ話は⋯」
「そろそろ行かねーと授業始まっちまうぜー?」
紅子の話を半分聞き流しながら教室に迎えば
いつもの如く青子に絡まれて『そんな話』いつの間にか忘れていた
それから数日後
「まぁこんだけありゃ充分か」
マジックの小道具の買い出しに出かけていた時の事
「ジイちゃんの話ではそろそろ相談役から宣戦布告が⋯うわっ!?」
傘をさして帰路についていたが
いきなり雨足が強くなり、バケツをひっくり返したような雨に傘を持っていられない程だった
「おいおい!なんだってんだよっ⋯」
とりあえず近くの公園のドーム型になっている遊具の中へと避難する
中から外を見れば滝のように雨が降り続いていた
「こりゃひでーな⋯ジイちゃんに言って迎え来てもらうか⋯」
そう思って携帯を取り出そうとした瞬間
バシャバシャと誰かが公園に入ってきた音がして
何となく音の方をみると
そこには女の人が雨にうたれながら立っていた
その人はキョロキョロと辺りを見渡していて
誰かを探しているのか?と疑問に思っていると
胸元から何かを取り出した
ここからじゃ良く見えねぇけど⋯あれは鍵か?
こんな時に傘もささずにいったい何を⋯と思っていると
「『封印解除(レリーズ)!』」
「なっ···」
女の人が持っていた鍵が光ったかと思ったら
それが1メートル程の杖に変化した
な、なんだ⋯!?あれはっ⋯
マジックの一種か⋯?
それにしては仕掛けが全く分からなかったし
こんな所でマジックなんて⋯
と思っていたら
「桜さん!」
「コナン君!?」
「げっ⋯」
あの小さな名探偵が走って公園へとやってきた
その後ろには名探偵と一緒ぐらいの歳の女の子と
眼鏡をかけた男が後を追うように来ていて
なるべく気配を消して遊具の壁に張り付く
別に今の俺の姿を見られた所で何ら問題は無いが
何かが起きる気がしてその様子を伺っていると
「っ!!!来ちゃ駄目!!!」
女の人が叫んだと同時に水がロープのようになってその身体に巻きついてきた
「っ!?」
な、何だあれは!?
目の前の出来事に驚いていると
あの名探偵と女の子にも水のロープが巻きついていた
何かで操ってんのか!?
それにしては全然仕掛けが見えねぇ⋯
これじゃあ⋯まるで⋯
その時、紅子から言われた事を思い出した
『近々貴方の近くに凄い魔力を持った人間が現れるわ』
「!!⋯これは⋯マジックじゃない⋯
⋯まさか⋯」
この女の人が⋯そうなのか?
その後女の人のサコッシュが光り中から何かのカードが出てきたと思ったら
女の人に巻きついていた水のロープが消え
「『我等を襲う水を切り刻め!!
疾風(ゲール)!』」
女の人がそう言うと2人に巻きついていた水のロープも切り裂かれたようにして消えた
そのまま様子を伺っていると
女の人が滑り台の方へ走り出したと思ったら
サコッシュからまたカードを取り出し
「『この水の源を包み込め!
包囲(シージュ!)』」
そう言うと滑り台の上に白い箱が現れ
女の人は勢い良く滑り台をかけ登り
上まで登った後その箱に持っていた杖を向けた
「『主なき者よ
夢の杖のもと我の力となれ!
固着(セキュア)!』」
「っ!!あれは⋯!!」
白い箱の中からは大きな水の鳥がでてきて
それが結晶となり弾けた後
中からカードが出てきた
それから女の人は名探偵と一緒に来た男に抱えられて公園を出て行き
雨が止んですっかり静かになった公園に1人立つ
公園を念入りに探してみたが
それらしい『仕掛け』は全く見当たらず
呆然と滑り台の上を見上げた
「⋯あれが⋯魔法使い⋯なのか?」
それからあの女の人について調べてみて分かったのが
女の人⋯八月一日桜さんは少し前に通り魔に刺されてそれから記憶喪失になったらしく⋯
今はあの『工藤邸』に住んでいるらしかった
そんなある日
桜さんについてもっと探ろうと後をつけていた時
スーパーで桜さんがスリにあっているを見つけ
これはチャンスだと思い男から財布をスリ返し
桜さんへと接触した
「さっき貴方が鮮魚コーナーに居た時ぶつかってきた男の人がいたでしょ?
その人がぶつかった瞬間に貴方の財布を盗ったんですよ」
「⋯⋯あ⋯スリだったんだ⋯」
「これからは気をつけて下さいね」
「あ⋯ありがとうございます!
何かお礼を⋯」
「お礼なんていいですよ」
「でも⋯」
尚も食い下がろうとした桜さんの唇に
自分の人差し指を当て
「⋯では次に会った時にその唇を頂きましょう⋯」
そう言って桜さんの気が逸れているその隙に
服の襟元に盗聴器を仕掛けた
「⋯なーんて、な!
お礼は本当に気にしないで下さい」
「でも⋯あ、せめて名前だけでも⋯」
「俺の名前は黒羽快斗です
⋯じゃあそろそろ行きますね、
八月一日桜さん」
その時までは彼女はただ魔法が使えるだけだと思っていたが
「さーて、何か有益な情報は⋯」
別れた後にうきうきとイヤホンをつけていたら
聞こえてきた桜さんの声
そのポツリと呟いた一言で
ただの魔法使いではないと悟った
『まさか快斗君と会うなんて⋯
そういえば怪盗キッドって生で見たことないな⋯』
「!?俺の事を⋯知ってる⋯?」
その後公園であの時の様に『ナニカ』を結晶にした後
眠った桜さんはあの時の男に抱えられて公園を出ていった
やっぱりあの力は『本物』だ
だとしたら桜さんはあの名探偵と仲がいいみてーだから⋯
協力されたら厄介だな⋯
ここはあのお嬢さんと仲良くなっておくか⋯
その時
『⋯ん?』
男の声がイヤホンから聞こえたと思ったら
『バギッ!』
「っ⋯!」
盗聴器が破壊された音が聞こえた後、甲高い音を立てるイヤホンを慌てて耳から外した
「チッ⋯バレたか⋯にしても⋯」
何で⋯俺の事を知ってるんだ⋯?
それを知ったのは
紫紅の爪(パープル・ネイル)を盗みに錦座4丁目へ現れた時の事
「っ⋯私、知ってるんですよ⋯貴方の正体
⋯黒羽⋯快斗君」
そう言った桜さんとデートの約束をして聞いた真実
桜さんはこことは違う世界から来て
この世界に来た時に魔法が使えるようになった事
元の世界に帰るために魔法のカードを集めている事
そして⋯元の世界ではこの世界での出来事が物語になっていた⋯と
「自分の人生を紙の中での出来事なんて言われたら⋯嫌だよね⋯」
そう言われたが⋯正直、桜さんの話を聞いて
別に特段思うことはなかった
「うーん⋯正直実感が湧いてねぇんだよな⋯
今俺は生きてるし⋯時間も止まることなく進んでる
だから、別にいいかなーって」
実感が湧かなかったというのは本音だ
それよりも
俺の正体を知っていながら警察に通報しない
心の優しいこの人を、俺の方へと取り込みたかった
だから会う度に助手にならないか、って割と本気で言ってたが⋯
ある日
「黒羽君、ちょっといいかしら」
紅子から呼び出され、あの日のように2人で校舎裏へ向かう
「んだよ、こんな所に呼び出してよー⋯」
「順調に怪盗をしている貴方に忠告があるのよ」
「だから俺はキッドじゃないってー⋯
って、忠告?」
紅子の話を適当に聞き流そうとしていたら
思いがけない台詞に動きを止めて紅子を見れば
真剣な顔をして俺を見ていた
「昨日、貴方の事を占ったのよ」
「おめー何勝手に占って⋯」
「そして⋯良くない結果が出た⋯」
「⋯良くない結果?」
「『魔術を扱いし者に関わればその者に災いが訪れん』
これは、予言よ」
「⋯え⋯」
「貴方、例の魔法使いと接触したんでしょう?」
「あぁー⋯」
そういや紅子に言ってなかったっけ⋯
「悪いことは言わないわ⋯
その魔法使いと関わるのはやめることね
じゃないと貴方に災いが訪れるわよ」
「⋯災い⋯」
災いって⋯なんだ?
一般的に考えりゃ地震とか台風⋯自然災害の事を指すんだろうが⋯
気になるのは『その者』と限定されている事だ
自然災害なら限定しなくてもいいようなものだけど⋯
その時ふと、あの時の桜さんの微笑みを思い出した
「なぁ⋯『その者』って⋯
本当に俺の事なのか?」
「え?」
思い出したのは
鉄狸の金庫で桜さんが『カード』を封印した時の事
『絶対⋯大丈夫だよ
⋯私が、守るから』
自分が怪我をするのも厭わずに金庫の淵から手を離してしまった桜さん
桜さんはどこか⋯
自分の事を蔑ろにしている部分がある
もしそれが『災い』につながるのなら
『その者』は俺じゃなくて⋯
桜さんなんじゃねぇか⋯?
そんな時ジイちゃんから『ひまわり』の事を聞いて
飛行機でニューヨークから日本へと帰ってきた日の夜
桜さんから電話があった
電話にでるのに少し躊躇った後
ピッと通話ボタンを押せば
「⋯もしもし、桜さん?」
『っ!!快斗君っ大丈夫!?怪我は無い!?』
電話口の桜さんの焦った声に
やっぱり空港に来てたんだな⋯と苦笑いした
「⋯ありがとな、桜さん、俺は大丈夫だよ」
『それなら⋯いいんだけど⋯
快斗君⋯どうしたの?宝石以外を狙うなんて⋯一体何しようとしてるの?』
「桜さん⋯」
『無理、してない?私にできることがあったら言って
力になるから⋯』
やっぱり桜さんは
いつだって俺を⋯人を想ってくれている
もしあの『災い』が今回の事と関係しているのなら⋯
桜さんを関わらせる訳にはいかない
「⋯ありがとな、桜さん
けど貴方を巻き込む訳にはいかない
だから今回の件⋯関わるのはやめてくれ」
『快斗君っ!!』
「じゃあなっ」
桜さんの引き止めるような声を無視して通話を切った
今までは桜さんに怪盗の助手になってほしいと
割と本気で言ってた
けど
『快斗君は⋯コチラ側にきちゃ駄目だよ』
誰よりも人を想っている桜さんに災いが訪れるなんて
そんなの駄目だ
だからこれ以上⋯桜さんを関わらせたくない
そう思ったのに
なのに⋯あの時、
『いい子、いい子⋯』
『どうか、少しでも快斗君の力になれますように⋯』
俺の頭を撫でる彼女は確かに大人で⋯
どれだけ紳士にしても、ポーカーフェイスを作っても
その壁は越えられない
その壁が⋯悔しかった
だからせめて⋯絶対に桜さんに辛い思いはさせない
災いなんて、訪れさせない
「そう思って⋯たんだけどな⋯」
桜さんの病室に忍び込み
眠っている桜さんの隣に立つ
穏やかな顔をして眠る桜さんの身体のいたる所には包帯が痛々しく巻かれていた
突き放すつもりが
結局桜さんを⋯危険な目に合わせてしまった
「ほんと⋯困ったお姫様だぜ⋯」
ベッドで眠る桜さんの髪をひと房とり
それにキスをする
「唇にキスをするのは⋯俺の役目じゃないからな⋯
目が覚めるのを待ってるぜ⋯
眠り姫⋯」
彼女にぴったりのハートのクイーンのカードを
持ってきた花の花瓶の下に置き
病室を出た
『怪盗』
『魔術を扱いし者に関わればその者に災いが訪れん』
妙な胸騒ぎがする
もしそれが⋯
今回の事ではなく
これからの事だとしたら⋯
「災いなんて⋯俺が盗んでやるよ」