22.5.弁当
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「⋯しまった⋯作り過ぎた⋯」
とある平日の昼下がり
お昼ご飯を作るついでに夜ご飯の準備をしていたら
安室さんの事を考えてボーッとしていて
つい、2人分の量を作ってしまっていた
「いつもの癖で昴さんの分まで作っちゃった⋯」
どうしよう⋯1人じゃこんなに食べれそうにないし⋯
どうせなら昴さんにおすそ分けしようかな⋯
そう思ってタッパーを取り出そうと戸棚を開けたら
「⋯⋯あ、」
透明のプラスチックでできたお弁当箱が目に入り
あの人を思い出して、ある事を思いついた
「うーん⋯会えるかなって思って来てみたけど⋯
まぁそんな簡単に会えるわけないよね⋯」
作り過ぎた料理をお弁当箱に詰め
あの日⋯風見さんに会った公園に来ていた
前にここで、風見さんが私のお弁当を美味しそうに食べてくれた事を思い出して
つい来ちゃったけど⋯
もちろん会う約束なんてしていないので会えるわけがない
「⋯もうちょっと待ってみようかな⋯」
東屋のベンチに座りお弁当箱を隣に置いた後
鞄からスマホを取り出した
「ふっふっふ⋯待ってる間に怪コレでもしようかなっ」
最近私がハマっているソシャゲ⋯
怪物コレクション
名前は艦これっぽいけど
ゲーム内容はモンハンに似ていて⋯
あ、でもジョブチェンジできるのはFFに似てるかな
アプリを開いてイベントクエストへ出発する
パーティーを作ったり、既に作られているパーティーに参加したりできるけど
私は自分のペースでやりたいからソロで活動する事が多い
⋯でも⋯
今回もソロでイベクエに行ったら
「ぁ⋯ぅ⋯もうちょい⋯
ああああっ!!し⋯死んだ⋯」
死ぬ確率が高いのだ
「あう⋯今回のイベクエでレア素材ゲットしたら強い装備作れるのに⋯
うーん⋯やっぱアサシンじゃ決定打にかけるな⋯
特攻できる剣士か侍も育てるか⋯
でもヒーラーの白魔道士も育成中だもんなぁ⋯
鶴山のおばあちゃまは、今日華道の教室があるって言ってたから協力は無理そうだし⋯
今回の素材手に入れる為には⋯
やっぱパーティーに参加するしかないのか⋯」
なんてブツブツ呟いていたら
「あれ?⋯八月一日さん?」
「⋯へ?」
不意に声をかけられて顔を上げると
そこには風見さんが立っていた
「あ!!風見さん!!」
「偶然ですね、ここでまた会うなんて⋯」
「それが偶然じゃないんですよ!」
「え?」
「だって風見さんを待ってたんですからっ」
にこりと笑いながらそう言えば風見さんはポカンとした顔をして私を見た
「え⋯私⋯ですか?」
「はいっ風見さんお昼はもう食べられましたか?」
「えっと⋯まだですけど⋯」
不思議そうにそう答えた風見さんに
隣に置いてあったお弁当箱を持ち上げた
「よかった⋯実は作り過ぎちゃって⋯良かったら食べませんか?」
「え⋯まさか自分に⋯ですか?」
「はいっ前に風見さん凄く美味しそうに食べてくれたので⋯
あ!!迷惑だったら言って下さい!!知り合いの家に持って⋯」
風見さんはツカツカと歩み寄ってきて
「是非とも!!頂きます!!」
お弁当箱をガシリと掴みながらそう言った
2人でベンチに座ってお弁当箱を広げると
風見さんが「おぉっ⋯」と声を上げた
「今回も凄く美味しそうですね⋯」
お弁当箱には唐揚げにかぼちゃと卵のサラダに筑前煮、それからおにぎりが入れてある
ちなみにスープジャーにはお味噌汁も
「えへへ⋯今回もお口に合うといいんですけど⋯
はい、これおしぼりです」
「あ、ありがとうございます」
「今回は夕飯の分なので前回よりは少なくて⋯すみません⋯」
「そんな事!!頂けるだけで有難いですよ!!
では⋯頂きます!」
風見さんは両手を合わせた後
先ずは唐揚げから手をつけた
「んぐっ⋯」
「ど⋯どうですかね?」
前回が好評だとしてもやっぱり緊張するものは緊張する
ドキドキしながらそう聞くと、風見さんはゴクリと飲み込んだ後感想を言ってくれた
「衣がサクサクしていて中はジューシー⋯下味もしっかりついていて凄く美味しいですよ」
「良かった⋯」
思わず安堵の溜息を零すと
風見さんがもう1つの唐揚げをお箸でつまんだ
「こっちの唐揚げは?」
「あ、それは揚げた後に甘辛ダレを絡めたんです
一種類じゃつまんないかな〜って思って」
「甘辛ダレ⋯頂きますっ」
パクリと甘辛ダレの絡めてある唐揚げを食べる風見さん
「〜〜っ⋯美味い!!
凄く美味しいです八月一日さん!!」
子供のように目をキラキラさせながらそう言う風見さんに思わず頬が緩んで
「どんどん食べて下さいね」
と言うと風見さんは黙々と食べ進めてくれた
⋯良かった⋯風見さん忙しそうだから
ちゃんと食事取れてるか心配だったんだよね⋯
まぁ風見さんが栄養失調で倒れる前に降谷さんがどうにかするだろうけど·⋯
そんな事を考え苦笑いしていると
「ごちそうさまでした」
「え!?早!!」
隣でパンッと手を合わせた風見さんに驚いていると
風見さんは苦笑いした
「料理が美味しくて⋯つい夢中で食べてしまいました⋯」
「風見さん⋯」
大して上手じゃない私の料理をそこまで褒めてくれるなんて⋯
普段何食べてるんだろう⋯この人⋯
「あ!!そうだ!風見さん甘いものは好きですか?」
「甘いもの?まあ人並み程度には⋯」
「実は今度喫茶店で出す試作としてマフィンを作ったんですけど⋯
良かったらこれもどうぞっ」
紙袋からマフィンの入った箱を取り出し
順番に説明していく
「これはチョコマフィン
こっち見たままチョコチップで⋯
それはバナナマフィン、それで最後がりんごマフィンです」
「4種類もあるんですか!?」
「まぁマフィンは簡単なので⋯
良かったらどれが1番美味しいか感想聞かせてくれませんか?」
「もちろんっ」
コクリと頷いた風見さんがまずチョコマフィンに手を伸ばそうとした時
ピロロ〜ン!!
「「え、」」
スマホに通知が入った
この通知音はあの怪物コレクションの通知音で⋯
私の聞き間違いじゃなければ⋯
今風見さんの方からも、この通知音が聞こえたような⋯
「⋯あの⋯八月一日さん⋯」
「は、はい」
風見さんは懐から携帯を取り出すとポチポチと操作した後
その画面を私に見せてくれた
「⋯もしかして⋯
怪物コレクションしてますか?」
その画面には見覚えのある
怪物コレクションの文字
「!!え!?もしかして風見さんも!?」
慌てて私もアプリを開いてみせると
風見さんと目が合った
「「イベクエ一緒に行きませんか!?」」
「風見さん!今です!」
「任せて下さい!!」
ボスの怪物に、私がある程度ダメージを与えた後
風見さんが強力な一撃を与える
すると怪物はレア素材を落として倒れた
「やっ⋯やったああああっ!!」
「ついにレア素材ゲットですね!!」
「はいっ
これも風見さんのおかげですよっ」
「いやいや、八月一日さんの協力があってこそですよ」
「そんな事ないですよっ
風見さん侍のレベル高いし⋯凄く頼りになりましたっ」
「いや⋯でも自分は侍しかレベル上げしてませんから⋯
八月一日さんはアサシンのレベル高いのに白魔道士も使ってるんですね」
「えへへ⋯アサシンってかっこよくて使ってたんですけど
白魔道士の服が可愛くって⋯」
「あー分かります、自分もかっこよさとかでつい選んじゃいますから」
「ですよねっ
⋯あ、そう言えば風見さんのHNのユーヤって⋯名前からですか?」
「え?あぁ、そうなんです」
「じゃあ下の名前はゆうやさんなんですねっ」
やっと名前を風見さんの口から聞くことが出来た⋯
間違って誤爆しないように気をつける要素が1つ減り
思わずホッとしてにっこり笑いながら言えば風見さんがピタリと動きを止めた
「⋯⋯」
「⋯?風見さん?」
「ハッ!!⋯そ、そうです⋯風見裕也です」
「そうだっ風見さんさえ良ければ
またこうやって一緒にクエスト行きましょうよ」
「ええ、もちろんっ八月一日さんと一緒だとクエストがサクサク進めますし
白魔道士が使える人がいると安心できますしね」
「⋯あ、でも私の知り合いの方が白魔道士のレベル高いんですっ」
「へぇそうなんですか!」
「今度時間が合えば3人でクエスト行きましょうよ!!」
「いいですね!じゃあもう1クエスト⋯」
その時、風見さんの携帯の画面が切り替わり
そこには『降谷さん』と文字が書いてあった
「「っ⋯」」
風見さんが私の方を見る前に咄嗟に画面から目を逸らし
自分のスマホを見る
すると風見さんは画面を見られなかった事にホッとしたような様子を見せた
「⋯あの、すみません⋯ちょっと電話が入ってしまって⋯」
「え?ああ、私は気にしないで下さいっ」
そう言うと風見さんは「すみません」と言いながら立ち上がり私と距離を取った
「⋯はい、風見です」
「⋯⋯」
ポチポチとさっき手に入れた素材の整理をして待っていると
数分もしないうちに風見さんは戻ってきた
「すみません八月一日さん⋯
仕事に戻らないといけなくなって⋯」
「いえ!私の方こそ忙しいのに引き止めてしまったみたいですみません⋯
あ、これ良かったら持って帰って下さい」
荷物をまとめて、マフィンの入った箱を風見さんに手渡す
すると風見さんは苦笑いした
「あ⋯結局ゲームに夢中になって食べてなかったですね⋯」
「ふふっですねっ
じゃあ⋯次、会った時に感想聞かせてくれませんか?」
「え⋯次⋯⋯はいっ次会った時に必ず感想を言いますね!」
遠くなる風見さんの背中を見送った後
空になった弁当箱を見て頬を緩めた
『弁当』
風見さんと仲良くなれたらいいなとは思ってたけど
まさかこんな形で仲良くなれるとは思わなかったな⋯
「⋯次は何作ろうかな〜っ」