4.水源
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昴さんと一緒に暮らすようになってから数日
「できたっ!」
縫い針を針山に戻し
できた物を高く掲げる
「我ながらにいいでき⋯」
それはカードを持ち運べるようにと作ったサコッシュだった
ずっとポケットに入れて持ち歩いてたらカードを傷つけちゃいそうだし⋯
これから増えていくから何か入れ物があった方がいいもんね
最初はポーチを買おうと思っていたけれど
どうせなら自分で作ろうと思いこの三日間せっせと裁縫に勤しんでいた
色はシンプルに黒色で端の方に桜の刺繍を入れたもの
「色んな服と合わせられるようにもっと色んなバリエーションのサコッシュ作ろうかな⋯」
意外とサコッシュ作りにはまってしまい
そう呟いた時、部屋にノック音が響いた
「はーい」
「桜さん、そろそろ時間ですけど準備しなくていいんですか?」
「え?あ!やばっ!」
時計を見ればそろそろ12時になろうとしていた
今日はお昼からの仕事なのだ
「今行きます!」
バタバタと出掛ける準備をして扉を開けると
昴さんがそこに立っていた
「おや、例のバッグはできたんですか?」
「はいっどうですか?」
サコッシュを身体にかけてくるっと一回転して昴さんに見せる
「ホー⋯中々いい出来だ
桜さんは手先が器用なんですね」
「えへへ⋯実は裁縫とかするの結構好きで⋯」
「今度僕にも何か作ってくれませんか?」
「分かりましたっ何がいいか考えておきますねっ
⋯っと、そろそろ行かなきゃ
じゃあ行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
「っ⋯えへへっ⋯」
やっぱり⋯誰かに行ってらっしゃいって言って貰えるのは嬉しい
私は上機嫌でポアロへと急いだ
「これでよしっ⋯と」
テーブルを全部拭きあげ
台拭きを洗って干した後外を見ればもうすっかり暗くなっていた
梓ちゃんとはお昼で交代だったため今は私1人だけ
静かな店内に雨が窓や地面に打ち付ける音だけが響いている
「あとはお店閉めるだけなんだけど⋯どうしよう⋯」
今日は降水確率15%って言ってたから傘持ってきてなかったのに⋯
蘭ちゃんに傘借りて帰ろうかな⋯
上の探偵事務所にいる蘭ちゃんの事を考えていると
ポケットに入れていたスマホが振動した
「ん?」
画面を見れば昴さんからのメッセージで
«外に出て来て下さい»
「え?」
慌ててお店の扉を開けてみればそこには赤のスバル360⋯
「昴さん!?」
と、そこでスマホが鳴った
画面を見れば昴さんからの着信で⋯
それを見て慌てて通話ボタンを押した
「も、もしもし」
『仕事は終わりましたか?』
「は、はい⋯でも昴さん何でここに⋯」
『桜さん今日傘を持って行ってなかったみたいなので迎えに来ました』
「そうだったんだんですね⋯ありがとうございます
すぐにお店を閉めるのでちょっと待ってて下さい」
バタバタとお店の残りの後片付けをし電気を消す
扉を開けるとそこには昴さんが傘を持って立っていた
「わっ⋯びっくりした⋯」
「お疲れ様です、桜さん」
「あ⋯わざわざありがとうございます、昴さん」
扉に鍵をかけて路駐してある車まで昴さんと一緒に傘を使う
「さぁ、どうぞ」
昴さんは私をエスコートし助手席の扉を開けた
「あ、ありがとうございます⋯」
今までこんな事された事ないから、何か気恥しいな⋯
私を乗せた後昴さんは自分も運転席に座ると車を静かに発進させた
そういえば昴さんの車乗るの初めてだな⋯
つい車内をキョロキョロと見れば
隣からクスリと笑う声が聞こえた
「そんなに珍しいですか?」
「あ⋯すみません⋯車に乗るの久しぶりで⋯」
「そういえば桜さんはこの世界では免許証は持っていないんでしたね」
「はい、でももう一度とるのは難しいかも⋯」
「おや、何故ですか?」
「実は私凄く運転が下手くそで⋯
前の世界で免許証とれた時親や友達から奇跡って言われたぐらいなんです」
「ホー⋯」
「免許をとった後も色んな人から運転はやめろって言われて⋯
結局ペーパードライバーなんですよ⋯」
免許が取れてから初めて運転した後の
両親や友達の必死の顔を思い出し乾いた笑いを零す
「⋯ほんと⋯懐かしいなぁ⋯」
流れる景色と窓に張り付く水滴を見ながらぽろりと出た言葉が虚しくて
手をぎゅっと握る
「⋯⋯」
外を見ていた私は昴さんが横目で私を見ていた事に気づかなかった