44.逡巡
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「⋯あ、
すみません桜さん、」
「はひっ!?」
自分が声をかけると桜さんはあからさまに肩をビクリと跳ねさせ⋯
ピシャリと動きを止めた
「⋯⋯胡椒がなくなったので補充をお願いしてもいいですか?」
平静を装いながらそう言うと桜さんはもう一度ビクリと肩を跳ねさせた後
「えええと、こここ胡椒ですね!!了解です!!」
半ば奪う様に自分から胡椒瓶を取り
バタバタとバックヤードに向かってしまった
「⋯⋯」
あの日から桜さんは
『桜さん仕込みの手伝いを⋯』
『ああああ梓ちゃん!私掃除するから仕込みお願いしてもいい!?』
『桜さん、一緒に買い出しを⋯』
『梓ちゃん!買い出し行ける!?え?私!?ちょ、ちょっと足が痛くってさ〜あはははは⋯』
『⋯桜さ、』
『表の掃除してきまぁぁぁす!!』
⋯と、明らかに自分を避けていて⋯
いや⋯あの様な事をしたのは自分自身だからそれなりの覚悟はしていたが⋯
こうもあからさまだと⋯
流石にくるものがあるな⋯
ツキリと痛む胸を無視して鍋をかき混ぜていたら
「⋯⋯安室さーん⋯?」
「っ⋯と⋯梓さん⋯どうかしましたか?」
声をかけられて顔を上げると
テーブルを拭いて開店前の準備をしていた梓さんがカウンター越しにジトーッとした目で自分を見ていた
「⋯⋯桜ちゃんと何かありました?」
「⋯いえ、特に何も?」
ニッコリと笑みを貼り付けてそう言えば梓さんは更に怪訝そうな顔をした
「ぜっったい嘘ですね」
「⋯⋯」
「この間から桜ちゃん、安室さんに対して挙動不審だし」
「⋯⋯」
「安室さんと目を合わせようとしないし」
「⋯⋯」
「おまけに安室さんとまともに会話してないじゃないですか!」
「⋯⋯」
地味に刺さる言葉にダメージを受けながらも笑みを崩さずに鍋をかき混ぜる
「⋯気のせいじゃないですか?」
「絶対気のせいじゃありませんっ!!
もしかしてその原因って⋯安室さんがさっき見てた女の人の画像のせいなんじゃないですか!?」
ビシッと自分を指さしてそう言った梓さんに苦笑いする
「あ⋯いえ⋯あれは知り合いの写真で⋯」
梓さんが言っているのは一昨日⋯
あのバスで隠し撮りした『彼女』の写真の事だろう
「全く⋯桜ちゃんという子がいながら⋯
私桜ちゃんを泣かせたら安室さんでも許しませんからねっ」
腰に手を当てて頬を膨らませながらそう言う梓さんに内心苦笑いする
⋯それが最近泣かせてしまった、とは言えないな⋯
「もう⋯桜ちゃんが泣いてる所なんて私、見たくないから⋯」
目を伏せながらそう言った梓さんに
ピタリと手が止まった
「⋯梓さんは、桜さんが泣いてる所⋯
見た事があるんですか?」
自分がそう言うと梓さんはチラリとバックヤードに繋がる扉を見た後
少しだけ声のトーンを落とした
「⋯実は⋯桜ちゃんがポアロで初めて働く事になった時⋯
初めて会った時に私と話す桜ちゃんは凄く明るくて⋯
私、最初桜ちゃんが通り魔に刺されて記憶喪失になったって信じられなかったんです
でも粗方業務の流れを教えて仕込み作業を教えようとしたら⋯
桜ちゃん、包丁を持った瞬間固まったんです」
「⋯⋯」
「包丁を持ったまま動かない桜ちゃんを不思議に思って肩に手を置いたら⋯
桜ちゃん⋯過呼吸おこしちゃって⋯
何とかして落ち着かせたけど
その後⋯桜ちゃん泣きながらごめんなさいってずっと繰り返し謝ってて⋯
その姿を見てたら⋯
何だか触れたら粉々に壊れてしまうんじゃないかって⋯そう、思って⋯
気づいたら
『無理しなくていいんだよ
出来ないことは私がフォローするから
大丈夫だよ』
って声をかけてたんです
何の根拠もない『大丈夫』だったけど⋯
でも桜ちゃんが私のその言葉で前を向けれたって言ったの聞いて⋯
私、凄く嬉しくて⋯」
「梓さん⋯」
「⋯だからっ桜ちゃんの事泣かせたら私許しませんからねっ!」
「⋯⋯ええ、そうならないように⋯
心がけるつもりですよ⋯」
思わずバックヤードの扉を見ながらそう言えば
丁度桜さんが中から出てきて
その瞳と目が合った
その瞬間
「〜〜っ!!」
桜さんは顔を真っ赤にさせるとくるりと回れ右してバックヤードに戻ろうとしたが
「ほっ他の在庫確認もしてきまっぎゃんっ!!」
扉で顔面をぶつけその場に蹲った
「うぐぁぁぁっ!!目っ!目がぁぁっ!!」
「ちょっ桜ちゃん大丈夫!?」
「⋯⋯」
⋯先ずはこの状態をどうにかしないといけないな⋯
内心ため息をついてあの夜の自分の行動を反省していると
カランッ
とポアロの扉が開いた
「グッモーニン!」
ポアロの扉が開いてそこから入って来たのは
小五郎さんだった
「あ、おはようございます」
「おはようございます、毛利さん
でもまだ開店前なんですけど?」
私の背をさすっていた梓ちゃんが立ち上がりながらそう言うと
小五郎さんはカウンターテーブルまでやって来て
鍋を煮込む安室さんの前に立った
「だっていい匂いしてっからさ〜」
「モーニングに出すミートボールとキャベツのミルクトマト煮です」
「ん〜!美味そうだなぁ〜よし!俺モーニング!」
梓ちゃんのお小言を気にしてないのか小五郎さんは安室さんにそう言うとカウンターテーブルに座った
「もうっ」
「まぁまぁ梓ちゃん、小五郎さんがこうやってくるのは毎度の事だし⋯」
「すみません⋯」
「あ、蘭ちゃんおはようっ!中どうぞ〜」
梓ちゃんをなだめていると入口から蘭ちゃんが申し訳なさそうに中に入ってきて
小五郎さんの隣の席を引くと蘭ちゃんは小五郎さんをギロリと睨みながらカウンターまでやってきた
小五郎さん⋯これは後で蘭ちゃんに説教されるな⋯
「蘭さんはどうします?」
「じゃあ私もモーニング⋯どうする?」
後ろからやってきていたコナン君に蘭ちゃんがそう聞くと
「あー⋯僕も!」
コナン君はそう言って蘭ちゃんの隣の席に座った
「了解」
安室さんがモーニングの用意にとりかかり
私は3人にお冷を提供する為コップに水を入れてカウンターに向かったその時
「あれ?こんな所に冷蔵庫なんてあった?」
蘭ちゃんがキッチンに置いてある冷蔵庫⋯
もとい小さめのケーキストッカーを見てそう呟いた
「あったよ!1ヶ月ぐらい前から」
「冷蔵庫っていうかケーキのストッカーだけどね」
コナン君が蘭ちゃんにそう言うのを聞いてコナン君の前にお冷を置きながらそう言うと
蘭ちゃんは「あぁ!」と手を叩いた
「あのケーキの!!」
「蘭姉ちゃん食べたの?」
「うん!とっても美味しいんだよ」
その時最近設置した電気ポットからピッピッと音がして
それを手に取りながら梓ちゃんが2人に言った
「何しろ安室さん特性のケーキだから」
「あれ?電気ポット使ってるの?」
「ええ⋯ここの給湯器古くて⋯朝一番は中々熱湯にならないの
これだと家出る時にスマホで操作すれば丁度今頃お湯が沸くし」
熱湯をまな板にかけて消毒する梓ちゃんを見て
そういえばプレートを『OPEN』にしてなかったな⋯と
「スマホでって⋯それIOT家電なんだ」
「IOT家電⋯って?」
「インターネットに接続できる電化製品ですよ
その電気ポットみたいにね」
「「へぇ⋯」」
背後でそんな会話を聴きながらプレートを『OPEN』にした時だった
「きゃっ!!」
梓ちゃんの小さな叫び声にビクリとして振り返ると
安室さんと梓ちゃんがケーキストッカーの扉を開けて中をみていて⋯
「な、なんだ!?どうした!?」
「どうしたの?梓ちゃんっ⋯⋯あ、」
慌てて近寄れば安室さんが中に入っていたケーキを取り出し
その手にあるものを見てピタリと動きを止めた
「そんな大きな声ださなくても⋯」
そう言う安室さんの手の中にあるのはいつものケーキだけど⋯
クリームが溶けて、ケーキが崩れてしまっていた
「だって⋯また⋯こんな、どうして⋯
昨夜作った時は何でもなかったのに⋯」
「また溶けるなんて⋯やっぱりこれが故障してるのかな⋯?」
「またって⋯初めてじゃないの?」
「あぁ⋯」
「うん⋯」
それは最近時々ある現象で⋯
前日の夜に仕込んだケーキが翌日確認すると
今日の様に溶けてしまう⋯という事が多々あっていた
