42.転移
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パチッパチッ
と油が跳ねる音を聴きながらボーッと衣が揚がる様子を見つめる
あれから3日後
午前中のポアロの仕事が終わり
買い出しをした後家に戻り夕ご飯の準備をしながら⋯
あの長野での出来事について考えていた
「⋯⋯」
何で⋯諸伏警部は安室さんの事⋯知らないふりをしたんだろう
可能性があるとすれば⋯
景光さんのスマホが入っていた封筒に書かれていた⋯
『0』の文字
それがゼロ⋯降谷さんの事だと分かり
景光さんの遺品を送った降谷さんも⋯おそらく公安の人間だと気づいた
けれどあの場には小五郎さんや脇田さんも居たから⋯
降谷さんが公安だと悟られないようにした⋯
「⋯そう考えたら⋯納得⋯するんだけど⋯」
何かが⋯ひっかかるような⋯
パチンッ
「わっ!!」
油が跳ねてハッとして天ぷらを慌てて油の中から救出した
「ありゃ⋯ちょっと焦げちゃった⋯
味見しちゃえっ」
フーッと冷ました後海老の天ぷらを口に入れると
サクッとした衣にぷりぷりの海老が口に広がり
その美味しさに思わず笑が零れた
「はふっ⋯はふっ⋯⋯んぐっ⋯
うんっ!美味しくできたっ」
諸伏警部の事は気になるけれど⋯
私が今考えた所で真相が分かる訳でもないし⋯
「⋯とりあえず、いつも通りでいよう⋯」
『あの人』の⋯前でも、
「さてと⋯安室さん帰ってきてるよね?」
大皿に沢山上げた天ぷらを移してラップをしながら
隣の壁を見つめた
さっき天ぷらを揚げる準備をしてる時、隣から玄関の扉を開ける音が聞こえたし⋯
何もなければポアロの業務を終えて帰ってきてる時間だ
「多めに作ったから安室さんにおすそ分けしようかな」
そう呟いてエプロンを外した後
天ぷらの乗ったお皿を持って玄関の扉を開けた
ピンポーン⋯
「⋯⋯⋯⋯あれ?」
安室さんの部屋のインターホンを押してみたけれど
中からは何も反応が無く⋯首を傾げた
「あれ?帰ってきてると思ってたけど⋯
気のせいだったのかな?」
それなら仕方ないか⋯
と諦めて踵を返そうとしたら
ガタッ!!
と中から大きな音がした後
ガチャリと玄関の扉が開いた
「⋯桜さん、でしたか⋯」
「安室さん⋯居たんですね、
気配が全くしなかったのでてっきり留守かと⋯」
私がそう言うと安室さんは少しバツが悪そうに視線を逸らした
「あー⋯いや⋯」
「?⋯あ、もしかして何かお仕事の途中でした?」
それなら悪い事をしたな⋯
「いえ⋯そういう訳では⋯
ところで⋯桜さんはどうされたんですか?」
「あ、忘れてた⋯
あの、夕飯に天ぷらを揚げたんですけど⋯
沢山揚げたので良かったら安室さんいりませんか?」
そう言ってお皿に乗った沢山の天ぷらを見せれば
安室さんはキョトンと目を丸くさせた後
「⋯⋯ぷっ⋯ふふっ⋯」
クスクスと口に手を当てて肩を揺らした
「?安室さん?」
「ふふっ⋯すみません⋯あまりにもタイミングが良くて⋯」
「?」
「そういう事なら⋯一緒に食べませんか?
丁度天ぷらに合う美味しい物があるので」
「天ぷらに合う⋯
美味しい物?」
「ま⋯まさか⋯
蕎麦を自分で打って作ったなんて⋯」
ダイニングテーブルに座り目の前に置かれた美味しそうな蕎麦に
思わずほぅ⋯とため息が零れた
「すご⋯ちゃんと麺の細さも均一だし⋯
手作りとは思えないです」
「ありがとうございます⋯
実は蕎麦がどうしても食べたかったんですけど⋯
お店に行っても臨時休業だったり⋯
スーパーに行っても蕎麦が置いてなかったりで中々食べれなくて⋯」
「それで自分で作ろうと⋯」
時々思うけど⋯安室さんの行動力本当に凄いな⋯
「⋯ふふっそんな時に私が天ぷらを持ってきて⋯
確かにタイミングが良いですねっ」
クスクスと笑うと安室さんも少し照れくさそうに笑った
「それじゃあ食べましょうか」
「はいっ」
「「いただきますっ」」
両手を合わせた後お箸を持ってお蕎麦に手をつける
1口食べれば蕎麦の良い風味が鼻を抜けた
「〜っ!!⋯んぐっ⋯めっ⋯めちゃくちゃ美味しいです!!
コシがあって噛めば噛むほどお蕎麦の風味が口いっぱいに広がって⋯
それに喉ごしがなめらかで⋯
こんなのペロリと食べれちゃいますよっ!」
「ふふっそこまで褒めて貰えると作りがいがありますね
じゃあ僕も⋯」
ズズッと安室さんがお蕎麦をすすり
ゴクンッとそれを飲み込む
「!!美味しい!!」
パッと嬉しそうに笑顔を浮かべてそう言った安室さんを見て
ドキリと心臓が跳ねた
な⋯何か今の安室さん⋯
ちょっと幼くみえて⋯
可愛い⋯かも
ドキドキと鳴る心臓を抑えながら安室さんを見ていれば
天ぷらを食べた安室さんは同じ様ににっこりと笑った
「うん!桜さんの天ぷらもサクサクしてとても美味しいですっ」
「あ⋯ありがとうございます⋯」
ニコニコと笑顔でそう褒めてくれる安室さんにドキドキしながら
誤魔化す様にお蕎麦をすすった
「うんっやっぱり美味しい⋯
⋯安室さん、もしかして⋯
あの長野に行った後からお蕎麦を食べたかったんですか?」
私がそう尋ねると安室さんは目を丸くしてお箸を持つ手をピタリと止めた
「確かに⋯そうですけど⋯何でそう思ったんですか?」
「あ⋯いや⋯
そういえば長野から帰る時⋯
あの時は事情聴取が長くなって帰りの列車の時間がギリギリで皆急いでたけど⋯
松本駅で安室さん、お蕎麦屋さんを見てたなーって思い出して⋯
長野と言えば信州そばだし⋯
だから、食べたかったのかなって思ってたんです」
すると安室さんは少しだけ固まった後
フッと表情を緩めると
嬉しそうに、笑った
「⋯桜さんは⋯
よく、僕の事を見てくれていますね⋯」
「⋯ぇ⋯」
「いつも、僕の事を気にかけてくれていて⋯
信頼してくれてる⋯」
「それは⋯だって、安室さんだから⋯」
私がそう言うと、安室さんはパチンッとお箸を置き
私に手を伸ばして髪をひと房とると、さらりとそれを撫でた
「⋯時々、勘違いしそうになるんだ
その信頼は当たり前のものじゃないのに
桜さんが⋯余りにも当たり前にそれをくれるから⋯
自分は⋯それに釣り合う程の人間なんだと⋯」
切なそうに目を細めながらそう言った安室さんに
ギュッと胸が締め付けられる
「そん⋯な⋯
当たり前じゃないですか!
だって安室さん⋯降谷さんはいつも日本の為に戦ってて!
辛い事が多いのに弱音も吐かないし!
いつも、笑顔で⋯頑張ってるのにっ
なのに⋯そんなっ⋯
信頼されるような人間じゃないなんてっ⋯
言わないで下さいっ⋯」
膝の上でグッと拳を握り
俯きながらそう言えば
ガタンッと降谷さんが椅子から立ち上がる音が聞こえたと思ったら
「ふるっ⋯っ!!」
私の隣に立った降谷さんに⋯
抱きしめられた
「そんな人間じゃ⋯ないんですよ」
耳元で聞こえた消え入りそうな降谷さんの声に
「降谷⋯さん⋯そんな事っ⋯!!」
グッと肩を押してその言葉を否定しようとしたら
「⋯桜さん、本当は聞きたい事が沢山あるんですよね?」
その言葉にピタリと動きを止めた
「ぇ⋯」
「長野でのあの時⋯僕が桜さんに力を使うなと言った事⋯
ラムの正体⋯
そして⋯
諸伏警部が何故僕の事を知らないフリをしたのか⋯」
「っ!!」
「⋯僕は、桜さんに信頼してもらえるような人間じゃない⋯
隠し事や嘘の多い⋯そんな不誠実な人間なんですよ」
顔に影を落としながらそう言った降谷さん
「⋯⋯」
気づけばその頬に⋯
そっと手を伸ばしていた
「それでもいいんですよ⋯降谷さん」
「ぇ⋯」
「だって私⋯知ってるから⋯
その嘘や隠し事は⋯
誰かを守る、正義故だって」
「桜⋯さん⋯」
「だから、不誠実でもいいんですよ
むしろ⋯不誠実上等です
降谷さんがいくらそう言って自分を卑下しても
私は絶対、降谷さんを信頼する事を止めませんから」
降谷さんの頬をそっと包み目と目を合わせながらそう言えば
降谷さんは目を見開いた後
嬉しそうに、笑った
「まったく⋯君は⋯」
降谷さんは一瞬目を伏せた後
頬を包む私の手に自分の手を重ね
「⋯⋯⋯⋯ぇ」
チュッ⋯とリップ音を立てて
私の手の平に
キスをした
「⋯⋯ぁ⋯⋯ぇ⋯へ⋯」
「⋯ふふ⋯桜さん⋯
顔、真っ赤ですよ⋯」
何処か照れたようにそう言った降谷さんの顔を
硬直したまま見つめる事しかできなかった
