2.縁故
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また⋯夢を見ていた
暗闇に1人で立っているといきなり目の前に光る何かが現れ
恐る恐るそれに手を伸ばせば、その光は収まっていき
手の中にあったのは夢の鍵で
「『⋯封印解除(レリーズ)』」
そう呟けばその鍵は杖へと変わった
「これ⋯」
『⋯上手に、使って下さいね』
あの女の子の声が暗闇に響いたと思ったら
急に眠気が襲い、それに抗うことができず瞼を閉じた
「⋯夢⋯」
瞼を開ければ見えたのはこの1週間で見慣れた天井
日付も表示される壁掛け時計で時刻を見れば翌日の朝の10時を差していた
私⋯約1日寝てたんだ
ゆっくりと身体を起こせば手や足に包帯が巻かれている事に気づいた
そういえば⋯コナン君と話してて⋯
変な風が襲ってきて
首にかけていた夢の鍵が光ったと思えば
杖になって⋯
「夢じゃ⋯ないよね」
こうやって怪我をしているし
夢の鍵が杖になった事も
あの風が結晶になりカードになった事も
全部鮮明に覚えている
鍵を確かめようと胸元に手を当てれば
そこにあるはずのものが無く
不思議に思い服の下を覗けば、そこには大して大きくもなく小さくもない私の胸があるだけだった
「ぇ⋯」
夢の鍵が、無い
え、じゃああれは夢?
でも気を失う前には確かにあったはず⋯
もしかして中庭に落としたとか⋯
急いで確かめに行こうとした所でノック音の後に看護師さんが部屋に入ってきた
「あっ!八月一日さん!」
「ぁ⋯看護師さん⋯」
「身体はもう大丈夫ですか?」
「はい⋯ちょっと擦り傷が痛みますけど大したことないです」
「そうですか⋯それなら良かったです
それにしてもびっくりしましたよ、あのいつも来てる少年に八月一日さんが倒れたって聞かされて行ってみれば
本当に中庭で倒れているんですもの」
「はは⋯すみません⋯」
そうだ⋯そういえばあの時コナン君もいたんだった
あれが夢じゃないなら⋯
封印した所⋯見られたよね⋯
「でも擦り傷だけで良かったです
先生は頭を打ったりしてないようだから熱中症だろうって言ってましたよ」
「そう、ですか」
「あ、それから八月一日さんが倒れていた近くにベンチがあるんですけど
そのベンチが真っ二つに割れていたんですよ!
八月一日さん近くにいたようですし何か知りませんか?」
「うぇ!?い、いや⋯私は何も⋯」
「そうですか⋯それにしてもベンチが真っ二つなんて、何があったんでしょうね〜?」
すいません⋯本当は私のせいです⋯
なんて事言える訳もなく
看護師さんは体温や血圧を測った後
私に変わりがない事を確認し部屋を出ていった
ひとまず部屋の中を確認したけど夢の鍵はどこにもなくて
やっぱり中庭に落としたのかな⋯
それなら早く見つけないと⋯
ベッドから降りようと足を出した瞬間
また部屋にノック音が響いた
また看護師さんが来たのかな?それか先生?
ノック音に返事をすれば部屋に入ってきたのは2人組で⋯
「こんにちは八月一日さん」
「あ⋯毛利さんに、コナン君」
「こんにちは!桜さんっ」
「どうしたんですか?」
「八月一日さんが倒れたってコナン君から聞いて⋯心配になって来たんです」
まじか⋯蘭ちゃん優しすぎる⋯
その優しさに心がほっこりしていると
蘭ちゃんの後ろに茶髪の女の子が立っている事に気づいた
「あれ?後ろの人は⋯?」
「あ、こちらは私の友達の⋯」
蘭ちゃんがそう言いながら身体を少しずらすと
後ろに居た女の子がひょっこりと顔をだした
「鈴木園子ですっ、
蘭から聞いて会ってみたくて来ちゃいました!」
わあぁぁっ!そうかなとは思ってたけど⋯
な、生園子ちゃん!
蘭ちゃんも可愛いけど園子ちゃんも中々の可愛さ⋯
「桜さん身体は大丈夫?」
心の中で感動していると
コナン君が心配そうに駆け寄ってきて、いつもの如く私のベッドの上に座った
「う、うん⋯もう大丈夫だよ」
コナン君から変な視線を感じて視線を逸らしながら答えると
隣に置いてある椅子に蘭ちゃんと園子ちゃんが座った
「あ、毛利さんに鈴木さん
わざわざ来て頂いてありがとうございます」
「そんな、ただ私が心配で来ただけですから」
「私も興味があっただけだし⋯」
「でも来てくれて嬉しいです」
笑顔でそう言えば蘭ちゃんは少し照れくさそうにした後
何かを考えるように黙り込み、そして意を決したように切り出した
「あっ!あの!!
八月一日さんやっぱり記憶は戻らないんですよね⋯」
「うん⋯って言うか自分が記憶喪失って実感もないんですけどね⋯」
「そう、ですか⋯その⋯」
すると、もじもじしだした蘭ちゃんを見て園子ちゃんが肘をつついた
「ちょっと蘭、言うんでしょ?」
「う、うん⋯」
「?どうしたんですか?」
「あ、あの⋯その⋯八月一日さんが迷惑でなければ⋯
と、友達になってくれませんか!?」
「⋯へっ!?」
蘭ちゃんのその突然の申し出に
私はただ目を丸くするしかなかった
「あ、いや、その⋯迷惑でなければですけど⋯
その、何か言える人が⋯心が許せる人が側にいれば八月一日さんの記憶も戻るかと思って⋯」
そこまで聞いて私は蘭ちゃんの優しさに涙が出そうになった
通り魔に襲われた見ず知らずの女を助けたら記憶喪失なんて
面倒くさいって思っても当たり前なのに
蘭ちゃんは私の事を心配してくれて
しかも記憶が戻るように友達にまでなろうとしてくれている
正直親も友達も居ないこの状況でその言葉は涙が出るくらい嬉しかった
そりゃ新一君も惚れるわ⋯
ぐっと涙を堪え蘭ちゃんに微笑み返す
「ありがとう⋯毛利さん
私でよければ友達になってくれないかな⋯?」
すると蘭ちゃんはほっとしたように息をついた後笑顔を浮かべた
「は、はいっ!あ、私の事は蘭って呼んで下さい!」
「じゃあ私の事も桜って呼んでくれないかな?
それから敬語も無しでいい?」
「う、うん!!」
「蘭ばっかり狡いわよっ
私は初めましてだけれど蘭の友達は私の友達って事で⋯
私も友達になってもいいですかっ?」
「ふふっもちろんだよ、園子ちゃん」
その後意気投合した私達は暫くガールズトークに花を咲かせていた
「あ、もうこんな時間」
「そろそろ行こうか、あんまり長くいても桜さん疲れるだろうし」
園子ちゃんがそう言って立ち上がり蘭ちゃんもそれに続くようにして立ち上がった
会話の途中で年齢の話になり
私が24歳であることを伝えれば3人から凄く驚かれた
それまで桜ちゃんと呼ばれていたのに急に桜さんになり
好きな呼び方で構わないと言ったのに2人はさん付けを変えなかった
「それじゃあコナン君も行こっか」
「僕はいいよ、実はこの後博士の家に行くことになってて
博士がここまで迎えに来てくれるんだ」
「あら?そうなの?あんまり遅くならないようにするのよ」
「はーい」
「まぁガキンチョは放っておいて大丈夫でしょ
行くわよ〜蘭」
「はーい
それじゃあ桜さん、また来るね」
「うん、今日は本当にありがとう」
手を振って2人を見送る
部屋の扉が閉まると同時に私はゆっくりとコナン君の方を向いた
「⋯話が、あるんだよね?コナン君」
「⋯うん」
蘭ちゃんと園子ちゃんと話している間
コナン君は私達の会話に入ってこようとせず
私の事を観察するようにこっちをじっと見ていた
その様子からやっぱり昨日の事は夢じゃなくて
コナン君はあの現場を見ている事を確信した
「⋯昨日の事覚えてる⋯よね?」
「⋯うん、昨日変な風が吹いて⋯
桜さんが持っていた鍵が杖になったんだよね」
コナン君はそう言うと自分の懐から探していた夢の鍵と封印したカードを取り出した
「それっ!」
「昨日桜さんが倒れた後、持ち帰って調べさせてもらったんだけど⋯」
⋯おい、
「何回調べてもこの鍵に変わった所はないし
しかもこのカード⋯表から見える部分が裏返すと透明になってる⋯
このカードの厚さから中に何か仕掛けられているとは思えないし⋯
これって何なの?」
「そ、それは⋯えと、実は私マジックが使えて
それは最新のマジック道具だから秘密を教える訳にはいかないんだー」
苦しい言い訳だとは思いながらもコナン君にそう言えば
コナン君はじっとこっちを見た後
また懐に手を伸ばし、そこから数枚の写真を取り出してベッドの上に並べた
その写真は⋯
「え⋯⋯うぎゃぁぁぁぁぁ!!!!?」
すぐさまその写真を奪おうとすれば
それよりも早くコナン君がそれを取り上げた
「な!?なんでその写真をコナン君がっ!?」
その写真は私が元の世界で撮ったもの
そこに写っているのは私と友達なんだけど
問題なのはその格好で
私は青いブレザーの制服
まぁ私だけならパッと見、問題はないんだけど
友達は青いジャケットに短パン、赤い蝶ネクタイ黒い眼鏡
おまけにご丁寧に加工アプリで横には毛利蘭と江戸川コナンと書いてある
⋯そう
いわゆるコスプレ写真なのだ
「⋯ねぇ、これってどういう事?」
コナン君の顔は険しく、その目付きは鋭い
「いやいやいや!!!違う違う!違うからね!?
断じて私が蘭ちゃんのコスプレしたかったとかじゃないから!
友達がコナン君のコスプレするから付き合ってって言われて!
あ!!!違う違う!今のやっぱなし!それ私じゃないから!知らないからっ!」
最早自分が何を言ってるかわからない程私の頭はパニックになっていた
な、何故私の黒歴史の写真をコナン君が持っているんだっ⋯
おまけにコナン君の手にはそのコスプレ写真だけじゃなく
他のキャラのコスプレをした私と友達の写真も握られていた
「⋯⋯」
「⋯⋯」
暫く部屋に沈黙が続く
コナン君からの威圧感に耐えられなくなり先に口を開いたのは私だった
「⋯その⋯答える前に聞いてもいい?
な、なんでコナン君がその写真を持ってるの⋯?」
「⋯実は桜さんの事を詳しく調べようと
昨日桜さんが寝てる間にスマホのSDカードを抜いてパソコンで中身を確認させてもらったんだ」
⋯おい、
「⋯⋯えっ⋯と⋯その⋯」
ど、どうしよう⋯最悪夢の鍵の事だけ話せばいいかと思っていたけど
これは⋯まずい⋯このままじゃ名探偵コナンの漫画の事まで話さなくちゃいけない
でも⋯それは⋯
中々話そうとしない私に業を煮やしたのかコナン君がすっと腕を上げた
はっとして前を見れば
そこには腕時計型麻酔銃を構えるコナン君の姿⋯
その標準は、私に向けられている
「ちょ!ちょっと待った!!!
本当、話すんでそれはうたないでっ」
焦りながらそう言えばコナン君はその腕を下ろすことなく私を見つめながら言った
「⋯やっぱりこの腕時計の事も知ってるんだね」
「え?⋯⋯ぁ」
し、しまった⋯
「撃たれたくないなら⋯話してくれるよね?」
そのコナン君の鋭い目線に
「は⋯い⋯」
私は頷くしかなかった