31.希望
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目を覚ました私は
病院のベッドに寝ていた
腕を動かそうとしたけれど鉛のように重くて
直ぐに動かす事を諦め
横になったままとまらない涙を拭う事もせずにいたら
ガラッと病室の扉が開いた
横目で音のした入口の方をみると
「桜⋯さん⋯」
降谷さんがそこに立っていた
ドサッと降谷さんが持っていた紙袋が床に落ちる
「ふ⋯るや⋯さ⋯」
「っ!!」
枯れた声を絞り出して名前を呼ぶと
降谷さんはハッとした後私へ駆け寄ると
そのままその腕の中に閉じ込められてしまった
「良かった⋯目を覚ましてくれてっ⋯」
「わた⋯し⋯どのくらい、寝てたん⋯ですか⋯?」
「⋯君は2週間眠っていたんだ」
覚悟はしていたけど2週間も⋯
通りで身体が重いはずだ⋯
それにしても⋯
「ふ、ふるやさ⋯くるし、です⋯」
降谷さんにぎゅうぎゅうと抱きしめられ
息苦しくなり、そう声をかければ降谷さんはハッとして私から身体を離した
「す、すみません⋯」
「い、いえ⋯」
降谷さんは私の目をジッと見た後
頬をかきながら目を逸らして立ち上がった
「えっと⋯とりあえず医者を呼んできますね」
そう言って病室を出ていった降谷さん
なんか⋯様子がおかしかったような⋯
どうしたんだろう⋯
そんな事を考えていたら
直ぐに降谷さんがお医者さんをつれて病室に戻ってきた
「⋯という訳ですので最低でも1週間は入院して様子をみますが⋯
このまま順調に回復すれば直ぐに退院は出来るでしょう」
「はい⋯ありがとうございます⋯」
お医者さんの話では
私は栄養失調に脱水、貧血、凍傷とボロボロの状態で一時は命が危なかったそうだ
「何かあれば直ぐに呼んで下さいね
では失礼します」
ベッドの上でぺこりと頭を下げるとお医者さんと看護師さんは部屋を出ていった
それを見てつい深いため息をつく
あぁ⋯これは⋯
また説教コースだなぁ⋯
色んな人から説教される予感を感じ取り
思わず遠い目になっていると
「⋯桜さん、お水いりますか?」
「あ⋯ありがとうございます」
降谷さんからペットボトルの水を渡され
それを受け取りごくんと1口飲めば喉が潤うのが分かった
「⋯本当に⋯目が覚めて良かった⋯」
そう言って私の頬に手を伸ばしてスルリと撫でる降谷さん
その行動に、優しい瞳に
心臓が跳ねると同時に
あの時言っていた事を思い出した
『ただ一人の男として⋯君を守りたい』
『俺は⋯君が⋯』
あの時、降谷さんは何て言いかけたんだろう⋯
気になる⋯
「ふる⋯やさん⋯」
「ん?」
尚も私の頬を撫でながら小首を傾げる降谷さん
その仕草に心臓がドクンと跳ね
勝手に口が開いていた
「あの時⋯観覧車で、私が降谷さんに守ってもらわなくていいって言った時⋯
何て、言おうとしたんですか⋯?」
ピタリ
と降谷さんの手が止まった
しばらくお互いに沈黙し
降谷さんはジッと私の目を見つめてきた
その瞳を見つめ返していると
降谷さんはゆっくりと口を開いた
「⋯それは⋯」
その降谷さんの雰囲気はいつもと違っていて
ドクン、ドクンと心臓が波打つ
「⋯⋯」
私の頬をもう一度撫でる降谷さん
「君は⋯
俺の⋯」
その瞳に魅入られていると
降谷さんは一度目を閉じ⋯
「大切な⋯
友達だからね」
にっこりと微笑んでそう言った
「と、友達⋯」
思わぬ言葉にきょとんとすると同時に
心の中で『違う可能性』を考えていた自分に恥ずかしくなり
カアァッと頬が熱くなる
「そそそそうですよねっ!
友達だったら助けたいって思いますよねっ
あはは⋯」
な、何考えてたんだ私ィっ!!
恥ずかしさであーとかうーとか唸っていた私は
「⋯この気持ちは、口に出すべきではないからね⋯」
そう言って、寂しそうに微笑んだ降谷さんに気づかなかった
その後降谷さんと少し話していたら
コンコンと部屋の扉をノックする音が響いた
返事をすれば中に入ってきたのは
「!!風見さんっ!!」
風見さんだった
風見さんは私を見ると目を丸くした後ホッと息をついた
「降谷さんから聞きましたが⋯本当に目が覚めたんですね⋯」
「心配かけてすみません⋯風見さんは怪我はないですか?」
「自分は全然大丈夫ですよ」
顔を合わせてお互いに笑い合うと
降谷さんが「そういえば⋯」と間に入った
「桜さんいつの間に風見と知り合いに⋯?」
「あぁ⋯実は私が気分が悪くて倒れそうになった時、風見さんが助けてくれて⋯
それからちょこちょこピクニックをする仲になったんです」
「ピクニック?」
「2度目にたまたま会った時風見さん凄くお腹を空かせてて
その時ちょうどお弁当を持ってたんでそれをあげてから
時々風見さんとピクニックする仲になったんです」
「⋯⋯へぇ⋯」
降谷さんはそう声を漏らすとジッと風見さんを見上げ
その視線を受けて風見さんは少し照れたように目をそらした
「八月一日さんの手料理が美味しくてつい⋯」
「えへへ⋯そう言ってくれて嬉しいですっ」
「⋯⋯」
風見さんに褒められて嬉しくなって笑っていると
ギュッと降谷さんに手を握られた
「それは楽しそうだ⋯
是非次は僕も呼んで下さいね?」
「ぇ⋯」
「いいよな?風見?」
「!!は、はいっ⋯」
な、何か圧を感じるんですが⋯
その翌日
私が気にするだろうから、と最低限の人にしか私の入院を知らせていなかった降谷さんのおかげで
私の力を知らない人は病室に来る事はなかったけれど
お昼すぎにコナン君と哀ちゃんがお見舞いに来てくれた
けれど⋯
「⋯⋯」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
かれこれ沈黙が5分
そして私が土下座をしてから5分
私の『飴』の件を聞いた後、般若になった哀ちゃんに
私は土下座をしていた
「⋯私⋯言ったわよね⋯?」
やっと哀ちゃんが口を開いてくれたと思ったら
思った3番ドスのきいた声でそう言われ
身が縮んだ
「ひぇっ⋯」
「飴は1日⋯?」
「い⋯いっこまで⋯」
「噛み砕かないで⋯?」
「舐めるだけ⋯」
「そして身体に異変があったら⋯」
「は、吐き出す⋯」
「なんっっにも守ってないじゃないのっ!!」
いや、ごもっともで
「おい、灰原⋯そのぐらいにしといてやれよ⋯
桜さんのおかげで助かったのは事実だしよ⋯」
私を助けようとフォローに入ったコナン君は
「あなたは黙ってなさい!!」
「は⋯はい⋯」
哀ちゃんに一喝されて黙ってしまった
「あなたは本当に毎回毎回っ⋯
だいたいこれで入院何回目よ!?」
「えー⋯最初の外したら⋯3回目かな?
いやぁ私もこの短期間で入退院を繰り返すなんて思ってなくて⋯
このまま病院コンプしちゃったり〜」
「⋯⋯」
「あはは⋯」
「⋯⋯」
「す⋯すみませんでした⋯」
哀ちゃんコワイよ⋯
しゅん、と身を縮めていると
哀ちゃんが私に近づいてきて手を伸ばしたかと思うと
「?哀ちゃ⋯いららららっ!!」
頬っぺたをグリグリとつねってきた
「あいひゃん!!いらい!!いらいかりゃ!!」
「ほんとっ⋯あなたはっ⋯心配かけてっ⋯
なんでっ⋯」
すると手の力が段々と弱くなり
哀ちゃんは顔を俯かせてしまった
「哀、ちゃん⋯」
「お願いだから⋯もう⋯っ!!」
いつもより小さく見えた哀ちゃんの身体を抱き寄せ
ぎゅっと抱きしめる
「心配かけてごめんね⋯
それから約束も守らなくて⋯本当にごめんなさい
でもね、あの飴のおかげで私は頑張れた
そして『死の運命』を変えれた⋯
今までは後悔してばかりだったけど
その事実が、とっても嬉しいの
だから⋯私に希望をくれてありがとう⋯哀ちゃん」
その小さな頭を撫でると
哀ちゃんはぎゅっと抱き締め返してくれた
「⋯そんな風に言われたら、もう何も言えないじゃない⋯」
「えへへ⋯」
「⋯しばらくあの飴は禁止よ」
「えぇっ!?」
手を振る桜さんの病室から出て廊下を灰原と2人で歩く
「ま、思ったより元気そうで良かったぜ」
「⋯そうね」
「つかいつの間に『魔法を使いすぎても眠らない薬』なんて作ってたんだ?」
「彼女から頼まれてたのよ⋯
まさか出来て直ぐに全部使われるなんて思っていなかったけれど⋯
医者の話では桜さんは栄養失調に貧血、脱水、凍傷だったって言ってたわね⋯
栄養失調は魔法の使いすぎから⋯
凍傷はあなたから聞いた桜さんの魔法の影響なんだろうけど⋯
貧血と脱水は『飴』の副作用からくるものね⋯
また作り直さないと⋯」
「⋯あれだけ怒っておいて作るのはやめねーんだな」
「⋯あの人が倒れるリスクを減らしたいだけよ⋯」
「⋯ま、それは同感だな⋯」
あの時の真っ青になった桜さんを思い出して眉をよせた
「まったく⋯副作用の事を気にしないで全部食べちゃうなんて⋯」
「まぁ桜さんの事だから灰原の作った薬だから大丈夫って思ったんじゃねーか?」
「いくら私が作った薬っていっても信用しすぎよ⋯全く⋯
ほんと、あの人は私達を信頼しすぎだわ⋯」
ピタリと足を止めた灰原を見て
俺も足を止める
「さっきの桜さんの話から推測して⋯『彼女』は生きてるのよね?」
「⋯⋯」
安室さんから口止めされている為何も言えずに灰原を見ると
灰原は「はぁ⋯」とため息をついた
「いいわ、何も言わなくて⋯今ので分かったから⋯」
「悪ィな⋯灰原、」
「⋯『彼女』はあの時、私の手を離さないでくれた
そして子供達を助けようとしてくれた
きっと桜さんはそれを知っていて
『彼女』はこの先変わっていけると『信じた』から
リスクを負ってでも
『彼女』を助けたのね⋯
前に彼女は
『やってしまった事は⋯過去は変わらない⋯
けどね、未来は変えていける』
そう、言ってたから⋯」
「灰原⋯」
「⋯ねぇ、江戸川君」
「何だ?」
「貴方はあそこにいる看護師を信頼できる?」
灰原にそう言われて視線の先を見れば患者と話している看護師が目に入った
「え?ま、まぁ⋯」
「じゃあ自分の全てをさらけ出せれる?」
「それは⋯」
そう言われて言い淀んでいると灰原はフッと笑った
「そうね、それが普通よ⋯
あの人は『看護師』という信頼しやすい資格を持っている
でもその人自身を知っている訳ではないから
自分の全てをさらけ出せる程信頼はできない
人は通常、他人から始まり
そこから人間関係を築き上げる⋯
いくら親しい人だとしても完全に信頼、信用するにはかなりの時間がかかるものよ⋯
けれど彼女は『私達を知っているから』って
そんなものを吹っ飛ばして
私達に絶対的な信頼と⋯
無償の愛をくれる⋯
人が通常苦労して築き上げて得られるものを
彼女は出会った時からさも当たり前かのように
私達に与えてくれる⋯
それはくすぐったくて⋯暖かくて優しくて心地よい⋯
ずっと、その愛に溺れていたいと思わせてしまう⋯
昔の私ならきっと、彼女に依存していたでしょうね⋯」
⋯確かに桜さんの俺達⋯
特に俺への信頼は絶対的だと言えるものだ
それは出会った時から変わらない
灰原が依存してしまうと言うのも頷ける
だが⋯
遠い目をしながらそう言う灰原に
俺はジトッとした視線をおくった
「⋯オメー今でも結構依存してねーか?」
図星だったのか灰原はギロリと俺を睨んできた
「うるさいわね⋯
まぁ、普段の生活が殺伐としてる人ほど⋯
桜さんに依存してしまうでしょうね」
そう言われて思い浮かべるのは
俺の家で変装して過ごしている赤井さん
それに公安警察として黒ずくめの組織に潜入している降谷さん
そういえば⋯
あの波土禄道が死んだ事件の時
やけにあの2人、桜さんを挟んで言い合ってたような⋯
「江戸川君、早く行くわよ」
「あ、あぁ⋯」
灰原に促されひとまず考えるのをやめて後を追った