30.純黒の悪夢
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「桜、魔法でヤツを捕らえられそうか?」
「っ⋯だ、駄目ですっ!!
対象の動きが早くて⋯それに距離が離れていて狙いが定められないっ⋯」
赤井さんが運転するの赤のマスタングの助手席に座り
前を爆走する黒の車へとアクションの魔法を使おうとしたけれど上手く狙いを定める事ができずにギュッと杖を握りしめる
その時私達の車の横を猛スピードで追い越した車があった
「あの車っ⋯」
それは見覚えのある白のRX-7で⋯
「降谷さんっ!!」
それに続くように赤井さんもグンッとスピードを上げて2台の車を追った
「うわっ!!」
「しっかり捕まってろ、桜」
窓に顔をぶつけそうになり慌ててシートベルトを掴み体勢を整える
「⋯降谷さん⋯」
何故今こんな事になっているのかというと⋯
それは今から約6時間程前に遡る⋯
「はい、昴さんコーヒーできましたよ」
「あぁ、ありがとうございます」
リビングでパソコンと向き合い作業をしている昴さんの近くに珈琲を置くと
昴さんは手を止めて息をついた
「⋯何か今日は朝から忙しそうですね⋯?」
例のごとく暇を持て余していた私は工藤邸に遊びにきていたのだが
今日は昴さんは朝からパソコンと時折スマホを使いながら何やら忙しそうにしていた
「⋯あぁ⋯少しな、」
赤井さんにしては珍しく『昴さん』の姿のまま赤井さんの口調に戻っている事から
その疲れが伺える
「⋯あの、昴さんっ」
「?どうした?」
「何か⋯何か私にできる事ってないですか?
少しでもいいから⋯赤井さんの力になりたいんです
だから⋯できる事なら何でも言って下さいっ」
「⋯桜⋯」
私がそう言うと昴さんはしばらく考える仕草をした後
ピッと変声機のスイッチを切った
「⋯じゃあこっちへ来てくれ」
「?は、はい⋯」
赤井さんに言われ近くに寄ると
「ひゃっ!?」
グッと手を引かれてバランスを崩し
目の前の赤井さんへと倒れ込む
ボスりと赤井さんの胸にダイブをすれば
そのまま背中に赤井さんの手が回されてしまった
「なっ!?あ、赤井さん!?何してるんですか!?」
「フッ⋯『なんでも』と言ったのは君だろう」
赤井さんを見上げると彼は余裕気に微笑み
私の顔へと自身の顔を近づけてきた
「へっ⋯?あ⋯あかいさ⋯ちょ⋯」
近くなる距離に思わず顔が赤くなるのを感じる
どうすればいいのか分からなくなりギュッと目を閉じれば
赤井さんの息が首にかかり
スウッ⋯と赤井さんが大きく息を吸うのが分かった
「赤井⋯さん?」
「⋯あぁ⋯落ち着くな⋯」
硬直している私とは裏腹に、赤井さんはしばらく私の頭を撫でながら深呼吸をした後
満足したのかゆっくりと顔を上げた
「フッ⋯顔が赤いな⋯」
「なっ!!!?だ、誰のせいだとっ⋯!!」
反論しようとしたら赤井さんはカップを持ち
優雅に珈琲を飲み出した
ぐっ⋯き、聞いてないっ⋯!!
その時
ブー⋯ブー⋯
赤井さんのスマホが鳴り
赤井さんは器用に私の背中に手を回したまま、珈琲を飲みながらスマホを扱いだした
どうする事も出来ずにその状態のまま固まっていると⋯
ふと、赤井さんの動きがピタリと止まった
「赤井さん?」
「⋯桜、俺は今からでかける」
赤井さんはそう言うと私を離して立ち上がり上着を羽織りながら歩き出した
「え?な、何かあったんですか!?」
赤井さんのその雰囲気にただ事じゃないと悟り、思わずそのジャケットを握ると
赤井さんは少し迷った素振りを見せた後、ベリっと変装を外した
「!?赤井さ⋯」
「⋯水無怜奈から連絡があった
今夜、組織の工作員が警察庁に
ノックリストのデータを盗みに入る可能性があるとな」
「っ!!それって⋯」
ノックリストって確か⋯
通称、ノンオフィシャルカバー⋯
秘密諜報員⋯つまり、スパイの事だよね
もしそれが本当なら、それが組織に渡れば降谷さんと水無怜奈さん⋯
ううん、世界中に潜入しているスパイが、危ないっ⋯
「っ⋯あのっ!!」
「桜、」
「⋯へ?」
赤井さんに何か手伝える事はないかと言おうとしたら
それよりも早く赤井さんから名前を呼ばれて顔を上げる
「俺に力を貸してくれないか」
「赤井⋯さん」
前を走るRX-7が黒の車に勢いよく後ろから追突する
それでも尚黒の車はスピードを落とす事はなかった
「降谷さんっ⋯」
無茶な事して怪我して欲しくないけど
今はそんな事言ってられないっ⋯
降谷さんの車が黒の車と並ぶ
カーブにさしかかり2台の車はスピードを上げたまま後輪を滑らせて曲がった
ギギギギッ!!とタイヤが悲鳴を上げる音がこっちまで聞こえてくる
せめぎ合う2台の車に赤井さんの車がピッタリとつけていき
横滑りするRX-7にぐんと近づき
互いの運転席が見えるぐらいに近くになった瞬間
降谷さんがこちらを見て目を見開いた
「降谷さんっ⋯」
カーブを抜けた黒の車はライトアップされた橋を猛スピードで走って行く
その車を追うRX-7の前に赤井さんが割り込むと
降谷さんはハンドルをきって赤井さんのマスタングに右車体を当てた
「下がれ、赤井!ヤツは公安のモノだ!!」
降谷さんの怒号に思わずビクリと身を縮めていると
「⋯⋯」
赤井さんは何も言わずに鋭い目で降谷さんを睨み返していた
その時
前方でクラクションが鳴り
黒の車が路肩を走りトラックと並んで走る軽自動車に体当たりしているのが見えた
トラック側にどんどん寄せられていく軽自動車はクラクションを鳴らし続けたけれど
黒の車は何度も軽自動車の左車体に当て続ける
そして軽自動車から1度離れると再び激しくぶつかった
「!!」
トラックと車に挟まれた軽自動車は後方に押し出され
回転しながら橋を逆走し、大きく跳ね上がった軽自動車が降谷さんと赤井さんの車に降ってくる
「桜!!」
2人がとっさにハンドルをきって左右に分かれた瞬間
「『逆転(リバーサル)!!
包囲(シージュ)!!』」
軽自動車が地面に落ちる前に向きを上に変えて
シージュをクッション代わりにして落下の衝撃を和らげる
何とか大破する事は免れたけれど、2台の間に入った軽自動車はさらに転がっていき
後方を走っていたタンクローリーに激突し
車体を滑らせたタンクローリーは壁を破壊しながら止まった
後ろを振り返ると軽自動車とタンクローリーの運転手が慌てて出てきて車から離れて行く
運転手が無事な事を確認しホッとひと息つくと
赤井さんはカーナビの画面をダブルタップし地図を確認していた
海の上を走る首都高は急な右カーブのループがあり
その先は工事中で渋滞を示すラインが明滅している
それを見た赤井さんは急ブレーキをかけ道路に真横にするように車を止めた
「赤井さん?」
降谷さんはそのままスピードを上げ車を追っていって
追いかけないのかと不思議に思っていると
車を降りた赤井さんは後部座席から黒のケースを取り出した
慌てて私も車を降りると赤井さんはケースから細長い黒いモノ⋯
「っ!!それ⋯」
ライフルを取り出した
私が息をのんでいる間に、赤井さんはライフルを組み立てて
二脚をつけたライフルをボンネットの上に乗せてセットしていく
「周りのサポートは任せたぞ⋯桜」
「えっ!?は、はいっ!!」
いきなり名前を呼ばれて背筋を伸ばした瞬間
「⋯来たか」
赤井さんのその一言で前を向くと
さっきの黒い車が逆走して私達の方へと向かってきていた
「!!」
そっか⋯赤井さんはさっきのカーナビの渋滞をみてあの車が逆走してくると読んだんだ⋯
スコープをのぞいた赤井さんはフーッと大きく息を吐き
人差し指をトリガーにかけた
初めて見る銃と赤井さんの姿にドクリドクリと心臓が早鐘を打つ
落ち着け、落ち着け自分
せっかく赤井さんが頼ってくれたんだ
何かあった時に私がサポートして赤井さんを守らないとっ⋯!!
グッと杖を握った瞬間
バンッ!!
と音がした瞬間
パァァァン!!と破裂音が響き
黒の車の右前輪が不自然に傾く
距離があるから分かりずらいけどきっと右前輪のタイヤを狙ったんだ⋯
黒の車がコントロールを失ったのか左右にゆれ
猛スピードで横滑りした車はすれすれで赤井さんのマスタングを避けた
「アク⋯!!」
魔法を使うなら今だと思いアクションを使おうとしたら
すれ違う瞬間
黒の車に乗っていた女の人と目が合った
銀色の髪に
黒い右目に青い左目
その目を見て頭がズキリと痛み魔法を発動する事に遅れてしまい
再び魔法を使おうとした時には遅く
側壁に激突した車はバウンドして反対の側壁にぶつかり
スピンをしながら逆走した
その先には車に体当たりされた軽自動車と
車体の後ろ半分が壁の外に投げ出されたタンクローリーが停まってある
車に激突された軽自動車がタンクローリーを押し出し
三台の車が次々と壁の外に追いやられて落下していく
慌てて車を追いかけようとしたら
「待て、桜」
「赤井さっ⋯!?」
赤井さんからグイッと手を引かれマスタングの後ろへと連れて行かれる
マスタングとの間に隠されるように赤井さんに包まれたと思ったら
ドオオォォォォン!!
と大きな爆発音がし、爆風が押し寄せた
「っ⋯ 」
ものすごい熱風に目を閉じると、赤井さんが更に私を引き寄せて私の顔をその胸に隠してくれた
熱風が幾らか収まり目を開けると赤井さんの腕が少し緩み
腕の中から空を見上げると尚も炎は上がり続けていて
黒煙が橋の上まで舞い上がっていた
「っ⋯」
私があの時⋯気を取られずに魔法を使っていたらこんな事にはならなかったのに⋯
目の前の光景に息を飲んでいると
赤井さんが立ち上がりそれに釣られて私も立ち上がる
すると後ろからRX-7が逆走してきて
私達の斜め前で急停車した
車から飛び出た降谷さんは崩れた側壁に走り寄り
下からもうもうと立ち上がる黒煙を呆然と見下ろし
そしてライフルを持った赤井さんを睨みつけた
「赤井⋯貴様っ⋯っ!!」
降谷さんが1歩前に踏み出した時
思わずその間に立つ
「ま、待って下さいっ!!」
「!!桜さ⋯」
「この事故は私がサポートできなかったせいで⋯だから赤井さんはっ⋯」
その時遠くからサイレンが響いてきてハッと言葉を止める
振り返ると橋の向こうから赤いパトカーのランプが近づいてくるのが見えた
降谷さんは拳をギュッと握りしめると
赤井さんを睨みつつ車に戻っていく
「降谷さっ⋯」
思わずその背中を追いかけると
「来たら駄目だ!!」
降谷さんの怒号にビクリと足が止まると
降谷さんはハッとした後苦虫を噛み潰したように顔を歪め
そして私の方へと手を伸ばした
「⋯暫く、僕へ近づいては駄目だ」
降谷さんはそう言って私の頬をサラリと撫でると
車に乗り込み
ギャギャギャッとタイヤを高速回転させて去っていった
「降谷⋯さん⋯」
RX-7があっという間に小さくなると
赤井さんはポケットから取り出したスマホを操作した
そして数回の呼び出し音の後
微かにジェイムさんの声がスマホから聞こえた
『⋯だ』
「取り逃しました
後始末を頼みます」
『分か⋯、すぐに⋯⋯ら⋯れる⋯だ』
「了解」
赤井さんは電話を切ると私の手を引いて助手席に座らせようとした
「ちょっと待って下さいっ」
車に乗り込む前にカードを取り出し
「『炎の上に振りそそげ!!
水源(アクア)!!』」
水が炎を確実に消火していってるのを確認して
マスタングに乗り込む
私を待ってくれていた赤井さんは、私が乗り込むとすぐにマスタングを発進させた
「⋯赤井さん⋯すみません⋯
私があの時魔法を使っていればあんな事には⋯」
「いや⋯桜のせいじゃないさ⋯
それに使えなかったのには何か理由があるんだろう?」
「はい⋯全てじゃないけど⋯
あの時、あの女の人と目が合った時に思い出したんです
彼女はラムの腹心で⋯
コードネームは⋯
キュラソー」
「やはりか⋯」
赤井さんも心当たりがあったんだろう
納得したようにそう呟いた
それにしても⋯降谷さんのあの必死な姿⋯
もしかしたらノックリストは本当に奪われたんだろうか
赤井さんはさっきキュラソーを『取り逃した』って言ってた
『始末した』じゃないなら
キュラソーは⋯まだ生きてる
だとしたらもし、キュラソーがノックリストを持っていたら⋯
降谷さんが、危ないっ⋯
膝の上で手をギュッと握ると
隣の赤井さんへ声をかけた
「あのっ⋯赤井さんっ」
「⋯どうした」
「このままだと⋯
降谷さんの命が危ないんですよねっ?」
「⋯⋯」
赤井さんは何も言わなかったけれど
それは肯定と一緒だった
「っ⋯お願いしますっ⋯
降谷さんを⋯助けて下さいっ⋯」
縋るように赤井さんを見ながらそう言うと
赤井さんはキキィッ!と港外れの倉庫街の一角に車を止めた
「⋯桜、俺は周辺にヤツが居ないか探す
君は⋯安室くんの傍にいるんだ」
「ぇ⋯?」
何で私を降谷さんの傍に⋯?
そう思った事が分かったのか
赤井さんは私の方を見て言った
「桜の言う通り、ノックリストが奪われた可能性は高い⋯
このままだと彼の命はないだろう」
「っ⋯」
「俺は表立って動けないが⋯
君の『力』ならそれが可能だ
安室くんにバレないよう身を潜めておいて⋯
もしヤツ等が彼に接触してきたら俺に連絡してくれ」
「!!はいっ⋯」
どんな手を使っても⋯
降谷さんは⋯
絶対に死なせない
車を降りると赤井さんはマスタングを走らせ
あっという間に姿が見えなくなった
とりあえず降谷さんが今どこにいるか分からないから⋯
降谷さんを探さないと⋯
降谷さんも近くでキュラソーを探しているかもしれないけど
1番現れる可能性が高いのは警視庁か自宅⋯
でも警視庁はあんな事があった後だから行く可能性は低いかもしれない⋯
だとしたら1度自宅に帰ってくるかも⋯
マンションの駐車場で待ち伏せしようと1歩踏み出した瞬間
ピロンッ
携帯からメッセージの受信を知らせる音が鳴り
立ち止まってメッセージを開けば
「⋯哀ちゃん⋯?」
それは哀ちゃんからだった