29.残響
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「んん〜っ!!しゃばの空気は美味しいですな〜っ⋯
⋯ってなんかこれ最近も言ったような⋯」
病院の出口でグッと背伸びしながらそう呟けば
「桜さんは怪我をしすぎなんですよ」
ポン、と頭に手が置かれて振り返れば
呆れたように笑いながら安室さんがそこに立っていた
「安室さん、あ、荷物⋯」
「駄目です」
安室さんの手にある私の荷物を取ろうとしたら
それよりも早く安室さんが片手に荷物をまとめ
空いた手で私の手を掴んで歩き出した
あれから順調に体調は回復し
思ったより早く退院する事ができた
退院当日、安室さんが迎えに来てくれて
家まで送ってくれるという安室さんの言葉に甘えて2人でRX-7に乗り込む
「うぅ⋯すみません⋯ありがとうございます」
「桜さんは病み上がりなんですから⋯
もっと頼って下さい」
「いやいや、もう本当にすっかり元通りなんで
そんな心配しなくて大丈夫ですよ〜」
「⋯桜さん?」
「は、はい⋯分かりました⋯」
ニッコリと微笑んだ安室さんに危険を察知し
勢いよく頷けば
安室さんはフッと笑った後RX-7を動かした
「ポアロもしばらくお休みかぁ〜⋯」
「桜さんまだ本調子ではありませんし
鈴木相談役から止められればね⋯」
「うっ⋯はぁ⋯本当あれは失言だったな⋯」
あれは次郎吉おじ様がお見舞いに来てくれた時の事⋯
「あのっこの度はこんな豪華な病室を使わせて頂いてっ⋯」
「なぁに!お嬢さんは『ひまわり』を救ってくれた恩人じゃ!
このぐらい当たり前に決まっておろう!」
「で、でも申し訳なくて⋯
なるべく早く退院できるようにしますので⋯」
「いやいや、あんな事があった後じゃ
しばらくここで身体を休めるといい」
「いや⋯でもお仕事もあるので⋯あんまり休むと職を失うというか⋯」
「ふむ⋯それもそうじゃな⋯
お嬢さんは確かあの毛利小五郎の探偵事務所の下の⋯喫茶店で働いているんじゃったな⋯?」
「え?そうですけど⋯」
「⋯後藤!」
「はい」
「その喫茶店の店長にお嬢さんをしばらく休ませる事を伝えてくれ
無論小切手を忘れるでないぞ!」
「はい」
「⋯⋯はえっ!!!?」
「これでお嬢さんも気軽に休めるじゃろ?はっはっは!!」
「ままままっ!!待ってくださっ!!」
「あぁ、そうじゃった
お嬢さんの口座にも謝礼金を振り込んでおるから心置き無く⋯」
「ひぎゃぁぁっ!?」
「お金持ちの金銭感覚って本当に怖い⋯」
「はは⋯まぁあの鈴木財閥ですからね⋯」
ちなみに携帯で口座を確認したら本当にお金が振り込まれていて
0を数える途中で恐怖を覚えて電源を落とした
そんな事を話していたらマンションに着き
車を降りようとしたら「あ、」と安室さんが声を上げた
「そうだ、桜さんに紹介したい子がいるんです」
「紹介したい⋯『子』?」
ドアハンドルを握っていた手がピタリと止まる
え、誰だろう⋯
もしかして風見さん⋯?
でも『人』じゃなくて『子』っていうからには小さい子って事なのかな⋯
安室さんが紹介したい⋯小さい子⋯
「はっ!!
ま、まさか安室さん⋯
隠し子が⋯」
「いませんから」
1度私の部屋に荷物を置いた後
部屋に来て下さいと言われその後に着いていく
安室さんがガチャリと家の鍵を開けて扉を開いたら
「アンッ!!」
「⋯⋯え?」
今、犬の鳴き声が安室さんの部屋から⋯
「ただいま、ハロ」
「⋯へ?ハロ?」
「紹介したかったのは⋯この子ですよ」
安室さんがそう言って身体を少しずらした為部屋の中を見ることができ
つられるようにそこを見れば
「アフッ!」
真っ白いふわふわの毛を持った子犬がそこに居た
「かっ⋯
かわわわわわっ!!!?!!」
な、なななっ何この子っ!!
ちっさ!可愛い!ふわふわ!
可愛いいいいっ!!
安室さんに招き入れられて玄関に入り扉を閉める
すると子犬はブンブンとしっぽを振りながら安室さんの足元へやってきてぴょんぴょん跳ねていた
「かっ⋯かわっ⋯」
あまりの可愛さに口を押さえて悶絶していると
安室さんがひょいっと子犬を抱えて私の方へと向いた
「安室さん⋯その子どうしたんですか?」
「元は野良犬だったんですが⋯懐かれてしまって⋯
放っておくと怪我ばかりするものですから飼うことにしたんです
ほら、ハロ」
安室さんに促された子犬⋯もといハロちゃんは
ようやく私の存在に気づいた様で
見た事の無い人にピタリと尻尾を止めて不思議そうな顔をしていた
「ぐっ⋯かわっ⋯
えと⋯ハロちゃん、こんにちは〜っ」
そっと手をハロちゃんの前に差し出すと
クンクンと私の手の匂いを嗅ぐハロちゃん
その尻尾が軽くゆらゆらしてきた所で顎から頭を優しく撫でると
敵では無いと認識したのか
「アンッ」と可愛い声を上げて尻尾をブンブン振り出した
「きゃわ〜っ⋯」
「抱っこしてみますか?」
「え、いいんですか?」
「えぇ、ハロも桜さんが気になるようですし」
安室さんはそう言うとハロちゃんを私の方へ差し出した
その小さな身体を抱きとめると
「アンッ!!」
「わっ!ひゃっちょっあははっ!くすぐったいってっ」
ハロちゃんは尻尾を振りながら私の顔をペロペロと舐めだした
「うへへ⋯ハロちゃんきゃわ⋯」
「仲良くなれた様で良かったです⋯
桜さん犬も好きなんですか?
大尉を可愛がっていたので猫好きとは思ってましたが⋯」
「猫も好きですけど犬も大好きですよっ
大尉は梓ちゃんが飼ってくれて安心してましたけど⋯
やっぱり前みたいに触れる機会が少なくなって寂しかったんです
でもこんな形でワンちゃんも触れるなんて⋯」
「それは良かった」
ハロちゃんにデレデレしていると
フッと笑いながらそう言った安室さんにふとその手を止めた
「そういえば⋯何で私にハロちゃんを紹介したんですか?」
「それは⋯」
立ち話もなんですから、と奥の寝室の方へと案内されて
座ってハロちゃんをわしゃわしゃしていると
安室さんが話し出した
「⋯実はハロの世話をどうするか考えていて⋯」
「世話?」
「自分はどうしても家に帰れない日がありますから⋯
その間どうしようかと考えていたんですが⋯
桜さん、僕が家に帰れない時ハロのお世話をお願いしてもいいでしょうか?」
「へ?」
「もちろんタダでとは言いませんよ
できる限り食事をご馳走するので⋯どうでしょうか?」
「い、いや⋯私は全然大丈夫なんですけど⋯
むしろハロちゃんに会えるの嬉しいし⋯
でも、それって安室さんが留守の間私が部屋に入るって事になるんですけど⋯
大丈夫なんですか?
安室さん仕事上見られたくないものとかあるんじゃ⋯」
「それは⋯
桜さんを信頼しているので大丈夫ですよ」
「ぇ⋯」
驚いて安室さんを見れば
目尻を下げて、まるでとろけるような笑みを浮かべて私を見ていて⋯
心臓がドクンと跳ねた
「桜さんはそんな事をする人じゃないと⋯
信じてますから」
「安室⋯さん⋯」
その瞳を見ていれば心臓がドクドクと波打ち
咄嗟に目を逸らそうとして視線を下げれば
目に入ったのは安室さんの薄い唇
それを見て、入院中にお見舞いに来てくれていたコナン君との会話を思い出した
「こんにちは、桜さん」
「コナン君っ!あれ?今日は1人?」
「あぁ、おっちゃんとお昼ご飯を食べに行ったんだけど
おっちゃんはそのまま麻雀しに行っちまって⋯
近くだから寄ったんだ」
「そうだったんだ」
「それより身体はどう?」
「もうほとんど大丈夫だよ、流石に1週間寝てたから身体ガチガチだったけど⋯」
「だろうな⋯ま、元気そうで良かったよ
ったく⋯あの時1人で鍾乳洞に残った時は肝が冷えたぜ」
ベッドに腰掛けてジトーっと私を睨むコナン君に
苦笑いしながら謝罪をした
「あはは⋯ごめんね?『芦屋のひまわり』をどうしても助け出したかったから⋯」
「⋯謝らなくていいって、
桜さん多分だけど⋯俺の事助けてくれたんだろ?」
「ぇ⋯」
「考えたんだよ、もしあの場に桜さんが居なかったら⋯って
安室さんは桜さんが心配で着いてきたみたいだったから
桜さんが居なかったらきっとあの展示会には来ていない⋯
だとしたら本来あの場で残ってたのは俺と蘭と怪盗キッドって事になる
キッドのハンググライダーで俺と蘭を抱えて飛ぶ事はおそらく不可能
そこまで考えて分かったんだよ
桜さんは力を使えばあの時自分も脱出する事だってできた
でもそれをしなかったって事は⋯
『芦屋のひまわり』がまだ取り残されている事を『知っていた』
それは桜さんの『記憶』の中で『誰か』が『芦屋のひまわり』を助け出したからで⋯
⋯本来、鍾乳洞に残って『芦屋のひまわり』を助ける役は⋯
俺だったんじゃないか?」
真剣な顔でコナン君から見つめられ
視線を逸らせる事ができずに見つめ返す
しばらくの沈黙の後、私はフッと笑った
「⋯やっぱり、コナン君は凄いなぁ⋯」
「ま、探偵だからな」
「ふふっ、私の完敗ですっ」
「⋯ありがとな、桜さん」
申し訳なさそうに、けど柔らかく笑うコナン君の頭をそっと撫でた
「私の方こそ⋯ありがとう
あの時湖の底から助けてくれて⋯
詳しく聞いてなかったけど⋯多分、安室さんとコナン君が助けてくれたんだよね?」
「あぁ、安室さんが湖に潜った後中々上がって来ないから俺も潜ったんだけど
びっくりしたぜ、まさか桜さんの脚が岩に挟まってて身動きが取れなかったなんてよ」
「私もそれは予想外で⋯あの時どうやって助けてくれたの?」
「あの時は⋯安室さんが桜さんに人工呼吸している間に
俺が岩にボール射出ベルトを取り付け⋯」
「まって」
話し続けていたコナン君を遮る
「⋯今、なん、て?」
「え?」
「安室、さんが⋯私に、何した、って⋯?」
私がそこまで言うとコナン君はハッとした顔をした後
気まずそうに視線を逸らしながらポツリと話し出した
「あー⋯っと⋯
桜さん、意識を失って溺れていたから⋯
助けだそうにも足が外れない状況だったし⋯
だから、その⋯安室さんがその状態のまま
人工呼吸を⋯」
「じんこう⋯こきゅう⋯」
え、
人工呼吸って⋯
私が知ってるあの人工呼吸、だよね⋯
だとしたら、私⋯
微かに震える手でソッと唇を撫でる
「⋯桜さん」
するとコナン君が私を見て
「顔⋯
真っ赤だよ」
何故かコナン君が照れたようにそう言った
「占いも馬鹿にできないな⋯」
「?どうかしましたか?」
「い、いえっ!!それじゃあ安室さんが良ければハロちゃんのお世話をさせて下さいっ」
思い出して多分赤くなってるであろう頬を隠すようにハロちゃんを抱っこしながらそう言えば
安室さんはまた優しく微笑みながら私の頭にそっと手を添えて
まるで壊れ物を扱うように頭を優しく撫でた
「⋯ありがとうございます」
「〜っ!!」
その目に、手の暖かさに、優しさに
頬が更に熱くなるのを感じ、ハロちゃんのふわふわの毛に顔を埋める
「⋯ではさっそく今日の昼食をご馳走しますね」
安室さんはそう言って私の頭を数回撫でた後
立ち上がってキッチンの方へと消えた
「やっぱり、何か⋯オカシイ⋯」
私が病院で目覚めて
安室さんに抱きしめられたあの日から
何だか安室さんの私を見る目が、なんだか以前とは違う感じがする
ポアロで見る、お客さんに向ける笑顔とはどこか違う
あのとろけるような瞳で見られたら⋯
「⋯あつい⋯」
熱くなった頬に手を添えながらポツリと呟いた声は
「ワフッ?」
ハロちゃんしか聞いてなかった
「そういえば安室さん、何で『ハロ』って名付けたんですか?」
「実は名前を決める時にギターで『故郷』を演奏したんです
その時にこの子のお気に入りの音がドとシだったんで
そこからとろうと思ったんですけど⋯
ドシ、って名前はあんまりだと思ってね」
「た、確かに⋯」
「それで日本の音名から取り⋯ハロにしたんです」
「ハロ⋯」
⋯いつかガンダムとかでてきたりしないよね⋯?