1.開幕
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「八月一日さん今から整復するからレントゲン室に来て!」
「はい!分かりました!」
「八月一日さんその後入院の搬送手伝ってくれる!?」
「は、はい!」
「八月一日さんさっきの患者さんの処置で先生が話したい事があるって!」
「えっ!?すぐ行きます!」
「急患です!誰か手の空いてる人いませんか!?」
「八月一日さん行ける!!?」
「はっ⋯
はいいいいい!!」
桜の季節も終わりを告げ
5月に入りゴールデンウィーク前の勤務は目が回るような忙しさだった
「はぁ⋯疲れた⋯」
「おつかれ〜今日は患者凄かったね〜」
「萌、おつかれ〜」
勤務時間から大分過ぎた時間にやっと解放され、ロッカーで着替えていると
同期の萌も仕事が終わったのか隣に来て私服に着替えだした
「ゴールデンウィーク前だから忙しいとは思ってたけど⋯」
「まさかここまでとはね〜⋯桜途中で顔死んでたよ」
「えっ!?本当に!?」
「まぁ私も人の事言えない顔だったと思うけど」
「ふふっ、確かにね〜」
萌と雑談しながら更衣室を出ると外は暗くなり始めていた
今の時期日中は次第に暑くなっているけれどまだまだ夕方や朝は寒い
肌に冷たい空気が触れて思わず身震いをした
「うわっもう7時になるじゃん」
「え、もうそんな時間なんだ」
「桜ごめんっ私急いで帰らなくちゃ」
「あ、確か親戚の人が家に泊まりに来てるんだっけ?」
「う、うん。ごめんね?」
「私は大丈夫だって、早く帰らないと心配させるかもよ?」
「本当はいっぱい話したい事あったんだけど···また連休明けたら話そうね!」
そう言って萌は手を振りながら駆け出して行った
⋯親戚の人って男の人なのかな⋯?
元々可愛い顔してるけど何だかその人の話になった時萌が凄く可愛く見えた
「⋯恋、か」
私には無縁な話だな⋯
何せ産まれて此方彼氏なんてできた事はない
いや、彼氏は欲しいんだけど⋯
今までピンとくる人がいなかったと言うか⋯出会いが無いと言うか⋯
まぁ、私が引きこもりオタなせいもあるんだろうけど
「⋯帰ろ」
ため息をついた後、暗くなり始めた道を歩き出した所で
ふと足を止めた
⋯そう言えば家に食材あったっけ⋯?
家の冷蔵庫の中を思い出しまともな食材が入っていないことに気づき、またため息を漏らした
本当は今すぐに帰ってベッドにダイブしたい所だけど、ゴールデンウィークは奇跡的に全部休みになったし
引きこもって録り溜めしてたアニメ見たりゲームがしたい
「⋯うーん⋯⋯」
2~3分悩んだ後
「やっぱ買い物して帰るか⋯」
重い体を引きずって私は再度歩き出した
「買い忘れ⋯ないよね、多分」
近所のスーパーを出て、両手にある今買ったずっしりと重い荷物を流し見る
「重っ⋯ちょっと買いすぎたかな⋯」
まぁこれだけあれば連休中は家から出なくていいでしょ
健康には悪いと思っていても引きこもりオタな為、休日にわざわざ外に出ようとは思わない
それどころかなるべく外出する回数を減らす為買い物する時はこうやって買いだめしてしまう
まぁアニメ関係のイベントとかは積極的に外にでるけどね
その時ふと袋の中に入っている缶チューハイが見えて少し口元がにやけた
久しぶりにお酒飲みながらまったりしようかな⋯
帰ってからの事を考えると疲れた身体も軽くなったみたいで
鼻歌を歌いながら家に帰ろうとした所でふとお店の横にガチャガチャが置いてある事に気づいた
何となくそれを横目で見るとその中に私の大好きな作品がある事に気づき思わず近寄る
「あっさくらちゃんのガチャガチャだ」
カードキャプターさくらは私の大好きな漫画でオタの道へ進んだ元凶でもある
最近ではクリアカード編がアニメで放送されているし
未だに人気の作品だ
「へぇ〜⋯色んな鍵のキーホルダーか⋯
あっ、夢の鍵もあるんだ」
ファンとしてはこれは欲しい⋯
迷わず財布を取り出し百円玉を3枚取り出すとガチャガチャに入れた
先月グッズ買いすぎて今月は自重しようと思ってたけど⋯
しょうがないよね!うん!可愛いんだもん!
自分を納得させてガチャガチャを回せば取り出し口にカプセルが落ちてきた
ドキドキしながらそれを取り出しカプセルを開ければ
「あっ!夢の鍵だ!」
正直他の鍵でも全然嬉しいけど
やっぱり最新の夢の鍵が出てきたのは嬉しい
「ふふっちょっとついてるかも」
早くつけたくてその場でスマホを取り出し夢の鍵をつけた
「うん、やっぱ可愛いな〜⋯
にしてもこれクオリティ高いなぁ⋯」
夢の鍵をまじまじと見ると中の星の形をした部分がキラリと光に反射して光った
「⋯なんか、本物みたい」
思わずそう呟いた瞬間
スマホが振動した
「⋯?誰だろ」
画面を確認すれば萌からのメッセージで
《何か今ニュースでこの近くで通り魔事件があったんだって
桜もう家についてるよね?》
「え、通り魔?」
スマホのニュースで確認すれば確かにこの辺りで若い女性が刺されたと記事が出ていた
しかも犯人は未だ見つかってないらしい
「⋯まじか⋯」
時計を確認すれば買い物をしていた為、時刻は8時を過ぎようとしていた
「早く帰ろ⋯」
萌に買い物をしていた為今から帰る事を伝え早歩きで家に帰る事にした
違和感に気づいたのは住宅街に入ってすぐだった
「⋯⋯」
誰かが⋯着いて来てる
大通りでは分からなかったけれど
さっきから私の足音に被せるようにして後ろから誰かがついて来ている
最初は気のせいかとも思ったけれど
私が止まると後ろの足音もピタリと止まり
それにぞわりと鳥肌が立った
ど⋯どうしよう⋯もしかして通り魔⋯?
だとしたらこのまま家に帰るのも危ないよね⋯
私のアパートオートロックとかついてないし⋯
とりあえずもう1度大通りに戻って交番に行かないと⋯
そこまで考えた所で後ろの足音が近くなっている事に気づく
「え⋯」
嫌な汗が背中を伝い
後ろを振り返ると
「フフッ⋯」
そこには黒いパーカーを目深に被り不敵に笑う男が居て
その男の手元を見て身体が凍りついた
その手元には⋯赤く、鈍く光る包丁が握られていたのだ
「ぁ⋯」
ドサリと買い物袋が地面に落ち足が震える
逃げなくちゃ行けないのに身体が思うように動かない
そうこうしていると男がゆっくりと近づき
あと1mという所でスマホが鳴った
「っ!!!」
その音で我に返り震える足を必死に動かし男に背を向けて走り出す
「だ⋯だれっか⋯!!!」
人間は本当に恐怖を感じた時言葉が出なくなると言うのは本当らしい
喉が震えて声も出せず必死に走る
その途中手の中に握りしめていたスマホに気づき警察に電話をしようとダイヤル画面を開いた所で
「!!!あっ⋯」
右肩を掴まれ、身体を男の方に向かされた瞬間
「がっ⋯!!!」
腹部にズンッとした痛みを感じ
男に身体を押されてその場に仰向けに倒れた
「ぁ⋯ぅ⋯」
正面を見ればそこにはさっきの男がいて
その包丁からは真新しい血が垂れている
あ、私刺されたんだ
そう理解したと同時に男が私に馬乗りになって包丁を振りかざしてきた
「ひっ⋯⋯」
嫌、死にたくない
まだやりたいこといっぱいあるし
今度お母さんとお父さんと一緒に旅行に行こうねって言ってたのに
「やっ⋯」
私の抵抗も虚しく男は不敵に笑うと包丁を私の胸目掛けて振り下ろした
やだ、やだ
死にたくない
何かに縋るように私は持っていたスマホをぎゅっと握りしめた
その時⋯何故かふと
私の大好きな作品の言葉が頭を過ぎった
『この世に偶然はない
あるのは必然だけ』
だとしたら⋯
これも、必然なの⋯?
「あれ?蘭姉ちゃん?」
カラオケ店の殺人事件の後
本屋の前で本堂瑛祐と分かれた
最初は俺を探偵事務所まで送り届けるって言ってたけど
途中で携帯が鳴り何か用事ができたらしく申し訳なさそうに帰って行った
⋯まぁ、あいつがいた所で力にはならなさそうだからな
思わず苦笑いをすると前方に見慣れた制服を来た女の人⋯
蘭が立っていた
「あっ!コナンくん」
「こんな所でどうしたの?先に帰ってたんじゃ⋯それに園子姉ちゃんは?」
「なんだかやっぱり心配になっちゃって⋯ここで待ってたの
園子は真さんと電話するから〜って先に帰っちゃった」
「そ、そうなんだ」
「ところで瑛祐君は?」
「あ、何か急用ができたみたいで、さっき別れたんだ」
「そう⋯」
俺の言葉に蘭は考えるようにすこし俯いた
「?どうしたの?蘭姉ちゃん」
「⋯いや、何でもないの⋯その⋯何となくだけど
何か瑛祐君ともう会えなくなるような気がして⋯」
「蘭姉ちゃん⋯
大丈夫だよ!すぐ会えるって!」
「そう⋯だよね」
「それより早く帰ろうよ、僕お腹空いちゃった」
「そうね、早く帰ろっか」
笑顔になった蘭を見て内心安堵のため息を吐いた瞬間
俺達の前に何かがふわりと落ちてきた
「これ⋯」
「これって桜の花びらかしら?」
地面に落ちたそれを拾い上げ手のひらに乗せると、蘭が横から覗き込んできた
確かにそれは桃色の綺麗な桜の花びらで⋯
でも今は夏だ、何でこんな所に桜の花びらが⋯?
見たところ造花でもねーみたいだし⋯
近くに花屋なんかあったか?
周りを確認しようと顔を上げた瞬間
ドスンッ!!
と路地裏の方から何かが落ちたような物音が聞こえた
「え⋯今の音って⋯」
「!!蘭姉ちゃんはここで待ってて!」
「ちょっと!コナンくん!」
俺はすぐさま音の聞こえた路地裏の方へ走り出したが
路地裏に入った瞬間、妙な光景がそこに広がっていて思わず目を見開いた
「何だ⋯これ⋯」
そこには何かを辿るように桜の花びらが落ちていて
不思議に思いながらもそのあとを辿っていく
そして角を曲がった瞬間
その足を止める事になった
なぜなら⋯
「え⋯」
女の人が血塗れで倒れていたから
「ぅ⋯」
「!!!お姉さん大丈夫!?しっかりして!!」
女の人の呻き声に我に返り、近くに駆け寄りその身体を見れば
腹部から大量に出血をしていた
この傷は⋯刃物で刺されたのかっ⋯
「コナンくん?もう、いきなり走り出さないで⋯って⋯そ、その人っ!」
振り返れば蘭が俺の後を追ってきたのかそこにいて
倒れている女の人を見て目を見開いていた
「蘭姉ちゃん!!早く救急車と警察に連絡して!!この人まだ生きてるから!!」
「わ、分かった!」
蘭が電話をかけている間に
自分のジャケットを脱ぎ患部に当て圧迫止血をし
止血をしながら状況を把握しようと周りを観察した
辺りに血痕が落ちてないって事は誰かにここで刺されたのか⋯
周辺にこの女の人らしき持ち物がないな⋯
持ってるのは手に握りしめているひび割れたスマホだけ⋯
例え家が近所で少し出てきたとしても家の鍵は持っているだろうし財布もなさそうだ
だとしたら家の鍵や財布が入った鞄ごと盗まれた可能性が高い⋯
今の時点ではひったくり犯に刃物で刺されたとしか考えられねぇな⋯
そこまで考えた所で、また違和感に気づいた
「⋯桜の花⋯」
女の人の胸元を見ればまるで何かを覆うように桜の花びらが積もっていた
それを手ですこし払い除けると
「!?何だ⋯これ⋯」
女の人の胸元の服はまるで刃物で切り裂かれたように服が裂けていて、血もついていた
⋯だがそこに傷は無く白い肌を覗かせているだけだった
状況から見て胸元も刺されているはずなのに⋯
何で⋯傷がねぇんだ⋯?
思わずその女の人の顔を見れば
その人は苦しそうに目を伏せ荒い息を繰り返していた
化粧をしているから見た感じ大学生ぐらいに見えるが
よく見ればその顔は少し幼く、高校生にも見えなくはない
それにしてもこの状況はいったい⋯
「コナンくん!救急車がきたわよ!」
「あ、うんっ」
それから救急隊が女の人を救急車に運び
同伴者として俺達も乗ることになった
その時、女の人を救急車に乗せる時に身体が少し揺れ首もとから何かが出てきた
それは鍵のようなネックレスで
中心についている星のような形が印象的だった
「あれ⋯?」
「どうしたの?コナンくん」
「い、いや、何でもないよ」
あんなネックレス⋯さっき付けてたか⋯?
疑問に思いながらも救急車は病院にたどり着き
女の人は緊急手術を行うことになった
看護師さんに女の人の事を説明していると
「あら、蘭ちゃんにコナンくんじゃない」
「佐藤刑事!」
「どうもこんばんは」
「高木刑事もどうしたの?」
入り口からやってきた佐藤刑事と高木刑事は俺達の前で足を止めた
「実はさっきここに刃物で腹部を刺されていた女の人が運ばれたって聞いてね」
「それで同伴者がいたって聞いたから話を聞こうとここまで来たんだよ」
「それって⋯」
「多分僕達の事だよ!」
「「え?」」
その後2人に事情を説明した後
俺達は簡単な事情聴取をされる事になった
しかし、あの奇妙な現場⋯気になるな⋯
それに胸元の服が裂けていたのに傷がなかった事も気になる⋯
あの女の人の身に⋯
いったい、何があったんだ⋯?