23.正対
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「おぉー桜満開じゃー!!」
阿笠博士のその声に顔を上げると
そこには一面の桜の花が広がっていて
その美しさに目を奪われる
「⋯綺麗⋯」
「神社で花見もいいもんじゃのォ!」
「天気もいいしね!」
「まさに花見日和です!」
今日は少年探偵団の皆と阿笠博士と一緒に
前とは違う神社に花見に来ていた
「俺の腹も弁当ビヨリだぞ!」
「もォー元太君!」
「まさに花より団子ですねぇ⋯」
「だって姉ちゃんが作ってくれたんだろ?早く食いてぇよ!!」
「何て言ったって喫茶店で働いてるお姉さんですからねっ」
「絶対美味しいよね〜」
「えへへ、そう言われるとちょっと恥ずかしいな⋯」
初詣から数日経ち、ポアロも新年初の営業を開始したけれど
安室さんは『探偵業』が忙しいらしく、ポアロにはあまり来ていない
来たとしてもタイミングが合わずに私とは会えてないままで⋯
って、あれ⋯?
「⋯私⋯避けられてる⋯?」
⋯いやでも、安室さんが私を避ける意味なんて⋯
なんて⋯
あれ⋯私安室さんを傷つけたのに⋯
助けてもらったり⋯
お粥作ってもらったり⋯
明らかに迷惑⋯かけすぎだよね
「⋯⋯」
⋯心当たりがありすぎるな⋯
「じゃあおみくじでも引いてるから、博士は席を確保してシート広げててくれる?」
「うむ!」
「あ、じゃあ私も⋯」
「ワシは1人で大丈夫じゃよ、それよりも桜君は皆に着いててくれんかの?」
「博士がそう言うなら⋯分かりましたっ」
博士に言われて少年探偵団の皆と一緒に先ずはおみくじを引きに行く
私はこの間大吉を引いたから、皆が引くのを見守る事にした
コナン君は前回凶だったらもう一度引く事にしたみたいで
その結果が気になりおみくじを引いて開いた後、固まっているコナン君を後ろから覗いてみた
「コナン君どうだっ⋯た⋯」
そこに書かれていたのは
凶の文字
「⋯⋯」
「⋯えっと⋯⋯ドンマイっ!!」
「グッ⋯」
ポンと肩に手を置いて哀れみの目でそう言えばコナン君から睨まれた
「俺『吉』だってよ!」
「歩美は『中吉』!」
「僕は『末吉』ですから微妙ですね⋯」
「じゃあみんなでおみくじ結んでこよ!」
歩美ちゃんがそう言っておみくじを結ぶ所へ行こうとしたら
「コレコレ!せっかくいいクジを引いたんじゃから持って帰りなさい!」
後ろからハンチング帽を被ったおじいさんから声を掛けられて、皆は歩みを止めた
「おみくじを結ぶのは悪い運を置いていき、運気を変える為じゃから⋯
近頃じゃあ何でもかんでも結んでいく悪しき習慣が付いてしまったようじゃがな⋯」
「へー⋯」
おじいさんはそう言うと杖をつきながらどこかへ行ってしまった
「じゃあ結ぶのは江戸川君だけかしら?」
ニヤリと笑った哀ちゃんにグッと悔しそうに口を結ぶコナン君
哀ちゃんもコナン君のおみくじ見たんだね⋯
「⋯オメーは何引いたんだよ?」
「あら、知りたい?」
哀ちゃんは自分の持っていたおみくじを堂々とコナン君に見せていて
それを見れば大吉と書かれていた
「だ⋯大吉⋯」
ってか哀ちゃんのドヤ顔可愛いいいいっ
哀ちゃんのドヤ顔の写真を撮りたいのをグッと我慢して
哀ちゃんの隣に屈みこんだ
「哀ちゃん私と一緒だねっ」
「あら、桜さんも大吉引いたの?」
「この間ね〜」
「すごーい哀ちゃん!」
「うらやましいです!」
「俺のと取っ替えねーか?」
「⋯⋯」
皆でわいわいと哀ちゃんのおみくじを見ていたその時、
「でも凶は滅多に出なくて⋯逆に縁起がいいとも聞いたから⋯
ガッカリしないで、クールキッド!」
コナン君の後ろから声をかけたのは⋯
金髪のショートカットで眼鏡をかけた綺麗な女性
「ぁ⋯」
「ジョディ先生!」
ジョディ先生だった
「先生も花見に来たの?」
「Oh,Yes!桜大好きだから!」
ジョディ先生とは米花百貨店での事件以来だ
しかもあの時は遠巻きに見るだけだったから、こんな風に間近で見るのは初めて⋯
スタイル抜群でサラサラの金髪に高い鼻⋯
うおおぉっ⋯すっごい美人⋯
急に現れたジョディ先生に驚いたのと
その美しさに言葉を失っていると
哀ちゃんがジトっとした目で2人を見ていた
「なるほど?2人でコソコソ密談する為に先生をここへ呼びつけたのね?」
「「え?」」
「公園や神社ってスパイとかがよく情報交換に使う場所だっていうし⋯
まぁ、それと同時に公安警察も目を光らせてる場所でもあるから
せいぜい気をつけるのね⋯」
「OK⋯」
「っ⋯」
公安、警察⋯
まさか安室さんも⋯
キョロキョロと辺りを見渡してみても
もちろん安室さんがいるわけなくて
ため息をつく
すると
「えぇ!?」
ジョディ先生の驚いた様な大きな声にビクリとして
コソコソと話している2人の方を振り返った
「本当に赤井さんが死んだかどうか確かめる為に⋯
あの姿で赤井さんの知り合いの周りをうろついてたんだ!
FBIが彼の死を偽装してるなら反応でわかるから⋯
まぁ、ベルツリー急行の時は彼を赤井さんに変装させてたベルモット本人が赤井さんに成り済ましていたみたいだけど⋯」
「ベルツリー急行って⋯
あの列車爆破も組織の仕業だったの!?」
「うん⋯そうみたいだよ⋯」
「ちょっと待って⋯あの火傷の彼が組織の仲間だったのなら⋯
やっぱりシュウは⋯本当に⋯」
ジョディ先生の目に涙が浮かび
それを見て胸が締め付けられる
大好きな⋯大切な人が死んでしまったなんて知ったら⋯どれほど辛いだろう
出来ることならジョディ先生に赤井さんの無事を教えてあげたいけれど
今はその時じゃない
「⋯あれ⋯」
⋯今はその時じゃないって事は⋯
そのうち⋯ジョディ先生が赤井さんの真相に気づくって事、だよね⋯
そういえばその話があった気がするけど⋯
どんな話だったっけ⋯?
「っ!!」
思い出そうとしたらズキリと頭が痛み、手で頭を抑える
⋯私、大事な事⋯忘れてる⋯?
「じゃあ今度、その火傷の彼がのこのこ現れたら⋯
捕まえて変装を引っペがしてその正体を⋯」
「それならわかってるよ!居場所もね!」
「え?」
コナン君はスマホを操作して安室さんの写真をジョディ先生に見せていた
「安室透って名前を名乗ってて⋯
毛利探偵事務所の下のポアロって喫茶店でバイトしてるから⋯」
「な、何で!?」
「それをFBIに探って欲しいんだよ!
彼の目的は達成されたはずなのになぜまだポアロに留まっているのかを⋯
このままじゃ桜さんが⋯」
「え?私?」
「桜って⋯あら、あなたは⋯」
私の名前がでてきた事に驚いていると
ジョディ先生と目が合い
慌てて頭を下げて挨拶をした
「あっ⋯初めまして、八月一日桜です!」
「Oh,私はジョディ・スターリングよ、初めまして
⋯ところでクールキッドが言ってた『桜さん』って⋯」
「この人の事だよ!
桜さんはこの安室って人と一緒にポアロで働いてるんだけど⋯
桜さんその人から目をつけられてるみたいで⋯」
「「え!?」」
ジョディ先生と一緒に驚いた声を上げると
コナン君からジトっとした目で見られた
「⋯何で桜さんも驚いてるの⋯」
「え!?いやだって目をつけられてるなんて初耳⋯」
「いや!!普通に考えたら分かるだろ!?
伊豆高原の時は安室さんが送り迎えして
その時も安室さんずっと桜さんを気にしてたみたいだし
宅配便の事件の時は目の前に阿笠博士の家があったのに
わざわざ桜さんを連れて帰って⋯
この間桜さんが風邪引いた時も、俺がポアロに行った時
あの人が桜さんの様子を見に家に行くって言ってたから心配してたんだからな!?」
「え!?そ、そうだったんだ⋯」
だからコナン君私に電話してくれたんだ⋯
「えっと⋯その男がなんでこの子に目をつける必要があるの?」
「あっ⋯えっと⋯それは⋯」
「それは⋯?」
それは私が魔法を使えて未来を知っているから⋯
とはもちろん言えない
⋯コナン君もしかして誤魔化す理由を考えてなかった?
コナン君にしては珍しいな⋯
とにかくここは私がフォローしなくちゃ
「えっと⋯私実は通り魔に襲われて記憶喪失なんです
倒れてた所をコナン君に見つけて貰って⋯それからコナン君達と仲良くしてるんですけど
私が現れたタイミングとその⋯赤井さんがいなくなったタイミングが一緒みたいで⋯」
「そ、そう!!それで桜さん目をつけられてるみたいなんだよ!
赤井さんの情報を何か知ってるんじゃないかって!」
「記憶喪失!?
そう⋯辛い思いをしたのね⋯」
ポンとジョディ先生に肩を叩かれ
その顔を見てにっこりと微笑む
「確かに⋯辛かったですけど⋯コナン君がいてくれましたから⋯
ねっ?」
「ぅ⋯」
コナン君を見れば照れたようにそっぽを向いてしまった
「⋯って、それじゃあ、あなたは組織の事知ってるのね!?」
「「あ⋯」」
「えっと⋯そうなりますね⋯」
「なぜあなたが組織の事を⋯」
「そ、それは桜さん僕の捜査に色々協力してくれるからその流れで知っちゃって⋯」
「そうなのね⋯でもあなたは一般人、何かあったら私達FBIが守るから
異変があったら直ぐに連絡を頂戴」
ジョディ先生はそう言って手帳に自分の連絡先を書くとビリッと破り
それを私に渡してくれた
「あ、ありがとう、ございます⋯」
よっしゃあああああああ!!
ジョディ先生の連絡先ゲットおおおおおおお!!
紙を持って歓喜でクルクルとその場を回っていると
コナン君から冷めた目で見られた
ツラい⋯
「ところで⋯目的は達成されたって言っていたけど⋯
その目的って?」
「ああ、それは⋯」
その時
「あれ?あなたもしかして⋯」
2人の会話を遮るようにして、後ろから聞こえたのは
ガラガラに枯れた声をした30代ぐらいの男の人だった
「銀行強盗の時に一緒に人質になった外国人の女性じゃないですか!?」
「え?」
ジョディ先生が不思議そうに振り返ると
その人は咳をしながらマスクを軽く下に下げた
「実は私、あの時あなたの斜め後ろにいて、あなたの目や口にガムテープを貼ったのは私の妻だったんですが⋯
覚えてませんか?」
「あ、はい⋯何となく⋯」
「じゃあもしかしてあなたの隣にいた火傷を負った男は彼氏とか⋯?」
火傷を負った男⋯
それって赤井さんの変装をした安室さんの事だよね⋯?
「違いますけど⋯何なんですか?」
怪しげにジョディ先生が詰め寄ると男の人はたじろいだ後
「あ、いえ、だったらいいんです⋯
2、3日前に見かけたもんでね⋯」
そう言って去ろうとした
「「「え?」」」
「どこ!?どこで見かけたの!?」
「答えなさい!!」
「え?ええ!?」
その男の人の手をジョディ先生が慌てて掴んだ瞬間
「スリよー!スリがいるわよ〜!!」
「え?」
「わっ!?」
背後からポッチャリとした中年の女の人が、叫びながらやってきて私とぶつかり
勢い余って前に倒れそうになった
咄嗟に体勢を立て直そうとしたけれど間に合わず
そのまま地面に倒れようとしたら
「⋯⋯ぇ⋯」
「大丈夫ですか?」
あの男の人が私を支えてくれて
何とか転けずにすんだ
「⋯⋯」
「⋯あの⋯?」
「あっ⋯す、すみませんっありがとうございますっ」
慌ててその人にお礼を言いながら体勢を整えて立ち上がった
「痛たた⋯」
「おばさん大丈夫?」
「ええ⋯さっき私のカバンに手を入れてる人がいて慌てちゃって⋯」
女の人も私とぶつかった時に尻もちをついたようで
ジョディ先生に助け起こされていた
「確かにこういう人込みはスリが多いから気をつけてくださいね!」
男の人にそう言われた女の人は
驚いた顔をした後
「え、ええ⋯そうですね⋯」
そう言って去って行った
「⋯⋯」
さっき男の人に支えて貰った時⋯
あの米花百貨店で、赤井さんの変装をした安室さんに助けて貰った時の事を思い出した
「⋯何で⋯」
さっきまで赤井さんと安室さんの話をしてたから⋯?
それとも⋯この男の人の手が⋯
あの時の⋯優しく受け止めてくれた安室さんの手に⋯
似ていたからかな⋯
ズキズキと痛む頭を無視して
手水舎へと歩き出した皆の後を追いかけた
「ダメだよ元太君!そのお水飲んじゃ⋯」
「そうなのか?」
「軽くゆすいで地面に吐き出すんですよ!」
手水舎で子供達が清めている間
コナン君とジョディ先生と私は、風邪の男の人が『火傷の赤井さん』とどこで会ったのか問いただしていた
「それで?
まだ思い出せない?彼とどこで会ったか⋯」
「昨日、風邪で1日ぶっ倒れていたので記憶が⋯」
「すごいガラガラ声だもんね⋯」
「じゃあこの水でうがいするか?」
元太君からそう言われて男の人は苦笑いしながら遠慮するように手を振った
「遠慮しとくよ、風邪がうつるといけないし⋯
手はさっき清めたから⋯」
それを見てふと、鞄の中にあるモノを思い出し中を探る
すると直ぐにそれは見つかり、袋の中から1つ取り出すと手のひらに乗せて男の人に差し出した
「あの⋯飴、いりますか?」
鞄から取り出したのは蜂蜜と生姜の、のど飴
これは私が熱を出した時に、扉にかけられていたビニール袋の中に入っていたのだ
安室さんから貰った飴ならきっとよく効くだろうと思って
男の人に差し出せば、少し驚いた顔をされてしまった
「?」
「あ⋯いえ、ありがとうございます⋯」
「もしかしてどこかの缶コーヒーの自販機の前とかで見かけたんじゃない?」
「ゴホッ、か、缶コーヒー好きなんですか?彼⋯」
「ええ⋯よく飲んでたわ⋯
そう⋯組織が今にも病院を襲撃して来ようかっていうあの時も⋯プルタブを開けようとして缶コーヒーを落として⋯⋯」
「つ、疲れてらっしゃったんですね⋯
缶コーヒーを落とすなんて⋯
ーーっていうか襲撃って⋯?」
「あー、違う違う!!
その彼と火傷の彼は別人で⋯」
「はぁ⋯」
「もぉいいわ!思い出したらここに連絡くれる?」
「え、ええ⋯」
「⋯⋯」
男の人はジョディさんに連絡先の書いた紙を貰うと私達と別れた
「⋯⋯」
「桜さん?どうしたの?」
「えっ⋯ううん、なんでもないよ」
なんとなくその背中を見ているとコナン君から声をかけられて我に返り
お参りに行こうと歩き出していた皆の後を追いかけた
歩美ちゃんと光彦君と元太君がお参りをしている間
列から少し離れた所で3人を待っていると
哀ちゃんがこそりと私とコナン君に声をかけてきた
「ねぇ⋯」
「ん?」
「今、話してた赤井って人⋯どういう人?」
「何で?」
「何か私の知ってる人とよく似てる気がするんだけど⋯
桜さんも知ってるの?」
「え!?えーっと⋯それは⋯」
「き、気のせいなんじゃねーか?
それに赤井さんはもう⋯」
哀ちゃんから目を逸らして何て言おうか考えていると
後ろから聞こえた会話に身体が硬直した
「え?死んでる?マジかよ?」
「ああ!トイレの裏が大騒ぎになってるってよ!!」
「「「え?」」」
⋯死んで⋯る⋯?
するとコナン君のスマホが鳴り、すぐさま電話に出るコナン君
「博士か?どした?」
⋯何か⋯嫌な予感がする⋯
またズキズキと痛みだした頭を抑えながらコナン君を見ていると
「何ィ!?殺人事件を目撃しただと!?」
っ⋯やっぱ、り⋯
『とにかく早く来てくれ!!
野次馬がかなり集まっておるから場所はすぐにわかるじゃろ!!』
阿笠博士の声がスマホから微かに聞こえて、周りを見れば
確かに人の集まりができている場所があった
それを見てコナン君とジョディ先生がすぐさま走り出す
「あ!!コナン君!!」
「待って下さい!!」
その2人を追いかけて子供達も走り出した
「皆っ⋯待って!」
私も行かなきゃ⋯
そう思っているのに、足がすくんで動かない
怖い⋯このまま進めば⋯
人の死を見てしまう
不意打ちで見てしまうならまだしも
そこに『ある』と分かって足を進めるのはとても勇気のいることだった
数歩足を進めたけれど頭痛が激しくなり
ふらついて側にあった桜の木に身体を預ける
この神社のどこかに⋯殺人犯がいるんだ
皆の所へ行って今度こそ守らなくちゃいけないのに
足が鉛のように重くて動かない
目を閉じて頭痛が落ち着くまで待とうとしていたら
「あの⋯大丈夫ですか?」
「⋯ぇ⋯」
ゆっくりと目を開けると、そこに居たのは
さっきの風邪をひいている男の人だった