22.兄妹
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「今日も患者多くて疲れたね〜桜」
「そだね〜
あ!萌、そういえばこの間できたカフェ知ってる?」
「あぁ〜駅前の?」
「そうそう!!明日休みでしょ?一緒に行かない?」
「あー⋯ダメだよ、桜は行けないよ?」
「え?なんで?」
「だって桜⋯
死んじゃってるもん」
「ぇ⋯」
ドスリ、と腹部に衝撃が走り
恐る恐る下を向く
そこには深く突き刺さっている包丁があって
「な⋯」
その時、その包丁が何かで遮られ見えなくなった
その何かは人の顔で⋯
私の顔を覗き込んできたのは
「お前はもう
死んでるんだよ」
「っ!!」
バッとベッドから上半身を起こし乱れた呼吸を整える
「はぁ⋯はぁ⋯」
凄く⋯
恐い夢を、見ていた気がする
乱れた呼吸と流れる汗がそれを証明していて
袖で汗を拭った
「⋯今⋯何時⋯」
スマホの画面を見ればいつも起きる時間より随分早い時間だった
けれどもう一度寝る気にはなれず
汗でびっしょり濡れてしまったパジャマを脱ぐためボタンに手をかけた
私⋯何の夢⋯
見てたんだろう⋯
朝食を食べる気になれず、軽く身支度を整えて玄関の扉をあける
すると隣からも同じく扉の開く音がして、つられて隣を見れば
「ぁ⋯」
安室さんと目が合った
「安室さん⋯おはよう、ございます⋯」
「⋯おはようございます、桜さん
今日は随分と早いです⋯ね⋯」
「えっと⋯なんだか、早く目がさめちゃって⋯
たまには早くポアロに行くのもいいかな〜って⋯
それより安室さんいつもこんな時間、に⋯
安室さん⋯?」
苦笑いすると安室さんは私の方に近寄り
スっと右手を私の方に伸ばした
その手をボーッと見ていると
額に安室さんの少しだけ冷たい手があたり
目を細める
「わ⋯つめたい⋯」
「やっぱり⋯熱があるじゃないですか!」
「え?」
⋯そういえばいつもより熱っぽくて身体がだるいような⋯
「まさかそんな状態で仕事に行こうとしていたんですか!?」
「このぐらいの熱どうって事ないですよ〜⋯」
「⋯⋯はぁ⋯今日は休んで下さい
マスターと梓さんには僕から言っておくので」
「そんなっダメですよ!今日は年末の在庫整理とかするって言ってたからっ⋯」
「ですが飲食店の店員が風邪をひいていてお客様にうつしてしまったらどうするつもりですか?」
「うっ⋯それは⋯その⋯」
「とにかく今日は大人しくしていて下さい」
閉めかけていた扉をグッと開かれ安室さんに背中を押された
「風邪薬はありますか?」
「⋯いや⋯ないです⋯」
「なら先ずは病院に行くのが先か⋯
丁度いい、このまま病院に行きましょう」
「嫌です」
その言葉に即答すると
玄関の扉を開けてまた外に出ようとした安室さんがキョトンとして私の方を振り返った
「え?」
「だって⋯
病院代って高いんだもん⋯」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
「そんな事言ってる場合じゃ⋯」
「そんな事じゃないですよ!!私にとっては死活問題なんれす!
それに今の時間じゃ病院まだ開いてなくて、だからといって急患で見てもらうほどじゃないし
救急だとしょ、初診料高いはずだからっ
おかね沢山かかるし、それにほら!病は気合いって言うじゃないれすか!」
「⋯それを言うなら病は気から⋯ですよ
呂律もあまり回ってないしふらふらじゃないですか⋯
ほら、早く行きますよ」
グイッと私の手を引いて外へと出ようとしたけれど
無い力を踏ん張ってその場に留まる
「い、や、ですっ⋯」
安室さんに言った事は嘘ではないけれど
本当の所⋯病院に居ると⋯
どうしても元の世界の事や
あの事件の事を思い出してしまうから
だからあんまり、病院には行きたくない
私の頑なな態度を見て安室さんは小さくため息をついた
「⋯⋯分かりました、とにかく今は休んで下さい」
引いていた手を私の背に添えて
優しく部屋の中に戻す安室さん
その手につられて中に入ると何故か安室さんも部屋に入ってきた
「⋯安室さん?」
「その様子だと朝食も食べていませんよね?」
「?⋯はい⋯」
「少しキッチン借りますね」
「え!?まさか安室さん⋯」
「キツいでしょうが弱っている時こそ何か口にしないと元気にはなれませんよ
お粥でいいですか?」
「そ、そんな事安室さんにさせられませんよっ」
キッチンに立とうとした安室さんを止めようと近寄れば
急に立ち止まりその背中に顔をぶつける
「あぶっ」
鼻頭を手で軽く擦っていると、安室さんはその私の顔に自身の顔を近づけた
「いいから桜さんはベッドで休んでいて下さい
でないと今すぐにでも病院に連れて行きますよ?」
「うっ⋯わ、分かりました⋯」
その気迫に押されて渋々頷いて寝室へと歩を進める
部屋に入る前にチラリと安室さんを見れば私を監視するようにジッと見ていて
慌てて部屋に入って扉を閉めた
「⋯ふぅ⋯」
小さくため息をついて、よろよろとベッドに近づき
力が抜けたようにダイブする
「⋯なんで⋯」
なんで、安室さんは私に優しくしてくれるんだろう
昨日は私を家まで送ってくれて
今はわざわざお粥を作ってくれている
私は⋯安室さんを傷つけたのに
本当なら責めてもいいはずだ
なのにあの人は多分気まずさを感じながらもいつも通りに接してくれてる
でもそれがきっと⋯安室さん⋯いや、
降谷さんの優しさ、なんだろうな⋯
「私に⋯やさしくされる⋯かちなんて、ないのに⋯」
じわりと滲んできた視界を誤魔化すように
枕に顔を埋めた
「桜さん、入りますよ」
それから数分後、軽いノックの後
安室さんが部屋に入ってきた
「食べれそうですか?」
その手にはトレーを持っていて
トレーには一人用の小さなお鍋
「あむろさん⋯」
ベッドの隣にあるテーブルにそのお鍋を置いたのを見て起き上がり
ペタリと畳の上に座った
「無理はしないで食べて下さいね」
そう言って蓋を開ければ
卵とほうれん草、ネギの入ったお粥が湯気を立てて現れて
その美味しそうな見た目と匂いについ、息をはく
「あむろさん⋯ありがとう、ございます⋯
いただきます⋯」
手を合わせて一口食べれば優しい味が口に広がり、またほぅっとため息をついた
「⋯おいし⋯」
「それは良かったです」
ちびちびと食べ進めていると
ふと壁にかけている時計に目が行き
あ、と小さく声を漏らすと
それに気づいた安室さんが首をかしげた
「どうかしましたか?」
「あむろさん⋯そろそろポアロ行かないと⋯」
「え?あぁ⋯もうそんな時間でしたか」
安室さんはちらりと時計を見た後
数秒黙ったかと思ったら
傍にあった私の鞄を手渡してきた
「?」
「食べ終わった食器はそのままここに置いていて下さい
僕はポアロに行きますけど⋯また様子を見にきますので」
「そんな⋯もう大丈夫ですよ
それにこのカバンは⋯」
「風邪薬を飲んでないのに大丈夫とはいえませんよ
桜さんが動かなくていいように出て行った後外から鍵を閉めておくので⋯
鍵を貸して貰えませんか?」
「あ⋯なるほど⋯」
鞄からストラップのついた鍵を取り出し、安室さんに手渡す
渡す瞬間、安室さんの手に触れてしまい
ついその顔をみれば安室さんは顔をしかめていて⋯
「あむろさん⋯?」
「ぁ⋯いえ、食べたらちゃんと休んで下さいね」
「⋯はい⋯」
触れちゃった事⋯嫌だったのかな⋯
そりゃ⋯そうだよ、ね⋯
安室さんが出ていった後
ゆっくりと時間をかけてお粥を食べ終え、パジャマに着替えた後のそりとベッドに這い上がる
「ダル⋯」
熱を自覚した後から身体の怠さは増すばかりで
段々思考も回らなくなってくる
梓ちゃんとマスターに、迷惑かけちゃうな⋯
安室さんにだって迷惑かけて⋯
3人だけじゃない⋯
赤井さんやコナン君にもいつも迷惑かけて
昨日だって少年探偵団の皆を守れなかった
「私、なにやってんだか⋯」
あぁ、ダメだ⋯悪い事ばっか考えちゃう
「ねな⋯きゃ⋯」
そういえば⋯
そういえば⋯今朝、どんな夢みたんだっけ?
恐い夢だったような気がするけど⋯
思い出せない
でも⋯気になる
目を閉じて、真っ暗な視界の中
今朝の夢を思い出そうと思考を巡らす
『今日も患者多くて疲れたね〜桜、』
そうだ⋯そういえば、仕事をしていて
それで仕事が終わったら萌がいて⋯
『そだね〜
あ!萌、そういえばこの間できたカフェ知ってる?』
『あぁ〜駅前の?』
『そうそう!!明日休みでしょ?一緒に行かない?』
カフェに行こうって
それで⋯
『あー⋯ダメだよ、桜は行けないよ?』
『え?なんで?』
それ⋯で⋯
『だって桜···
死んじゃってるもん』
えっ⋯
『お前はもう⋯死んでるんだよ』
「ひっ⋯」
ドクンドクンと全身が脈打ち、目を見開く
あぁ、そうだ、それであの、男⋯が、
「や⋯やだ⋯」
重い身体を起こし、ゆっくりと周りを見渡す
しんと静まり返った暗い、部屋
誰も居ない、
ここには誰もいない
私も⋯イナイ?
だって、
私は、死ん⋯で⋯
「ひっ⋯や⋯やだっ⋯誰かっ⋯」
慌ててベッドから降りようとして足がもつれて畳に倒れ込む
痛い、恐い、辛い
やだ⋯私は死んでない⋯1人じゃない
お願い⋯
1人に、しないで⋯
その時ふと目にはいったのは夢の鍵
「『れ···封印解除(レリーズ)!!』」
そこで
私の意識は途切れた