20.逆転
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「お待たせいたしましたっ、クリスマス限定のプチブッシュドノエルです」
「ポアロブレンドのコーヒーが2つ
クリスマス限定のプチブッシュドノエルが2つですね」
「ありがとうございました〜
またのお越しをお待ちしております!!」
クリスマス当日、
ポアロではクリスマス限定ケーキのプチブッシュドノエルを販売し(勿論安室さんの手作り)
これが好評でお昼時はてんやわんやの忙しさだった
人が少なくなって来た頃にはもうすっかり夕方で⋯
日も沈んで外は暗くなり始めていた
「ふぅ⋯やっと落ち着いたね」
「お疲れ様桜ちゃんっ
今日はお客さん凄かったね〜
さすが安室さんの手作りケーキ!!」
「いえいえ、桜さんが商店街で宣伝してくれたからですよ」
「いやそんな⋯買い物ついでにその話題になっただけですから」
笑いながらそう言うと、最後のお客様⋯
鶴山のおばあちゃまが席を立った
「さて⋯そろそろおいとましようかね、」
「外は寒いので風邪に気をつけて下さいね」
コートを差し出しながらそう言うと
鶴山のおばあちゃまはにっこり笑って私の手をぎゅっと握った
「ありがとね、桜ちゃん
桜ちゃんも風邪ひくんじゃないよ」
「大丈夫ですっ私とっても頑丈なんでっ」
「ふふっ⋯今年はもうこれないだろうから
また来年だねぇ⋯」
「そうですか⋯もう少しで大晦日、忙しいですものね」
「桜ちゃん達に会えないのは寂しいけど
また新年になったら来るからね」
「はいっお待ちしてますねっ」
会計をした後、良いお年を、と言って
手を振ってその小さな背中を見送る
「さて⋯それじゃ少し早いけど店仕舞いしようかっ」
「え?ケーキは売り切れたけど食材はまだ残ってるからまだ早いんじゃ⋯」
「まぁまぁ!!マスターがケーキが全部売れたら
早めにお店閉めちゃっていいって言ってたから!
桜ちゃんはお店の前の掃除してくれる?」
「う⋯うん⋯」
梓ちゃんから背中を押されてポアロから出ると
一気に冷気が襲い、身震いをした
「寒っ⋯うぅ⋯早く済ませちゃお⋯」
箒とちりとりを持って掃除を始めようとしたら
ふと、道行く人達に目がいって、手を止める
楽しそうに手を繋いでいる親子
イルミネーションの写真を撮りながら、はしゃいでいる女の子達
腕を組んで幸せそうなカップル
「⋯⋯クリスマス、か⋯」
⋯私がサンタが居ない真実に気づいたのは小学校2年生の時
夜中にトイレに行きたくなって目が覚めた時
枕元にクリスマスプレゼントを置こうとしていたお父さんと目が合ったのだ
あの時お父さん必死に言い訳してたけど⋯
嘘下手だったよなぁ⋯
「⋯懐かしい、な⋯」
元の世界に帰れたら⋯先ず実家に帰ろう
それからお母さんとお父さんと一緒に⋯
温泉旅行に行くのなんていいかな⋯
「⋯元の⋯世界⋯」
私の『帰るべき』場所は⋯
両親のいるあの世界だ
⋯でも⋯
「⋯桜さん?」
「え?」
不意に声をかけられて顔を上げると
そこにはコナン君が立っていた
「⋯どうしたの?」
「コナン君⋯梓ちゃんが今日はお店を早仕舞いしようって言って
それで掃除を⋯」
「そうじゃなくてさ、」
コナン君に服の袖を引っ張られ屈み込むと
その小さな手で頬を優しく包まれた
ポケットに手を入れていたコナン君の手は暖かくて
じんわりと広がる熱に目を細めたけど
「⋯不安そうな顔してた」
その言葉で目を見開いた
「⋯え」
「何かあったのか?」
「そういう訳じゃ⋯ないけど⋯」
「⋯⋯」
「⋯ごめん、ちょっと今は、考えがまとまんなくて⋯」
真っ直ぐに向けられたコナン君の瞳から目を逸らしながらそう言うと
「⋯分かった、桜さんが話してくれるまで待つよ」
コナン君はそう言って私の頬から手を離した
「そういえば母さんと昴さんから聞いたけど
昨日引越ししたんだって?」
「あ⋯うん、」
「桜さん引越しの事灰原に言ってなかっただろ?」
「⋯あ、そういえば言ってなかったな⋯」
「灰原のやつ桜さんが黙って引越しした事にすげぇ怒ってたぜ」
「⋯ま⋯マジでか⋯」
「今度会ったら覚悟しておきなさいだってよ」
「⋯⋯」
地雷は有希子さんだけではなかったのか⋯
「⋯それより今日も『あの人』来てるのか?」
「あの人⋯あー⋯うん、居るよ」
私が苦笑いしながらそう言うと
コナン君は視線を鋭くしてこそりと耳打ちした
「気をつけろよ⋯
俺もだけど桜さんの力が黒ずくめの組織にバレたら命が危ねぇんだから!!」
「う⋯うん⋯」
それがバレかけてますー⋯なんて言えない
まぁ黒ずくめの組織じゃなくて降谷さんなんだけどさ
「ったく⋯本当に分かってんのかよ⋯」
「分かってるって!!
それよりコナン君はこれからどこかに行くの?」
「あぁ、これから博士の家に少年探偵団の奴らと集まるんだよ」
「そうなんだ」
「あいつ等がまた桜さんに会いたいって言ってたから
今度その新居に招待してくれよな!
んじゃ俺はそろそろ行くから、またな!!」
「気をつけてねー!!」
手を振ってその背中が見えなくなるまで見送る
⋯コナン君、その新居に招待するのは難しそうです⋯
「⋯なんせ隣人が安室さんだもんな⋯」
そうボヤいてある程度掃除を済ませた後
ポアロの扉に手をかけようとして
その扉にかけていたクリスマスリーフに目がいき
今朝の事を思い出した
それは開店準備をしている時ーー⋯
「⋯そういえばクリスマスになると、この花ってよく見かけますけど⋯
何の花なんでしょうか?」
梓ちゃんが手に持っているのは緑色のクリスマスリーフ
その上部には赤いリボンが飾られリボンの下には2つの金色のベル
周りは金や銀の装飾が飾られ
下部には真っ赤な花がついていた
「確かによく見かけるけど⋯えっと⋯なんだっけ⋯?」
あの人達に手向けるため花言葉は勉強したけれど
全部覚えている訳じゃない
けれど見たことはある花で、思い出せそうで悩んでいたら
「この花はポインセチアですよ」
高い所の飾り付けをしていた安室さんが
作業を終えて私たちの所へやってきた
「あっ⋯そうだ、ポインセチアだ」
「ポインセチアの花言葉は
『祝福する』『幸運を祈る』『聖夜』などですね
桜さん、梓さん、クリスマスといえば何色を思い浮かべます?」
「え?うーん⋯赤と緑⋯」
「あと白とか?」
「ですね、その三色はクリスマスカラーと言われていて
ポインセチアの赤は『キリストの流した血』
緑は『もみの木などの常緑樹で永遠の象徴』
白が『純潔』を表すことから
縁起のよい植物として原産地のメキシコでは
『ノーチェ・ブエナ』と呼ばれるようになったんですよ」
「ノーチェ⋯ブエナ?」
「聖夜、と言う意味ですよ」
「へぇ⋯」
聞きなれない言葉を復唱するとその意味を教えてくれて
なるほど、と手を叩く
すると梓ちゃんが首を傾げた
「でも赤と緑は分かりますけど、白はどこからきてるんでしょうか?」
「ポインセチアの樹液は白いんですよ」
「へぇ〜そうなんですね⋯
それにしても安室さんこんな事まで知ってるなんて凄いですねっ」
「確かに⋯もしかして他にも沢山花言葉とか分かるんですか?」
「いえ、最近気になる花を見かけて
その花言葉を調べていたら、他の花言葉も少しだけ覚えてしまっただけです
さすがに沢山は覚えてないですよ」
「⋯気になる花⋯?それってどんな花なんですか?」
なんとなく、聞いたはずだった
「⋯それは開いた5枚の花弁が星のような形になっている青い花で⋯
リンドウ、っていう花なんですけど⋯
桜さん知ってますか?」
ピタリと飾り付けをしていた手がとまる
「⋯いえ、知らない、です」
動揺した顔を見られたくなくて、安室さんの顔を見らずにそう言った
「そうですか⋯梓さんは?」
「私も知りませんね⋯どんな花言葉だったんですか?」
「花言葉は⋯
誠実、寂しい愛情⋯
正義、ですよ」
「⋯⋯」
きっと⋯安室さんはあの3人の所に供えてあった花だから⋯調べたんだ
それを私に聞いてきたっていうことは⋯
私がしたって疑ってると思う⋯多分、
⋯あの時、安室さんの顔を見れなかった
安室さんに向き合いたいと思ったけれど
私が嘘をついている限り⋯隠し事をしている限り
それは無理なのかもしれない
それがもどかしくて⋯申し訳なくて⋯
それからはまた⋯安室さんの目をあまり見れなくなってしまった
「⋯ダメだなぁ⋯私、」
思わずそう呟くと風が強く吹き、身震いをする
すっかり冷えてしまった手を扉にかけて中に入ると
パァン!!
「ひゃ!!⋯⋯へ?」
いきなり聞こえた破裂音に思わず目を閉じて身をすくませた後
恐る恐る目をあける
そこには笑顔の梓ちゃんと安室さんが立っていた
手にはパーティー用のクラッカーを持って
「え⋯⋯へ?これは、一体⋯」
状況が理解できずに2人の顔を交互に見ていると
梓ちゃんが私の手を握ってカウンター席まで誘導した
「実は安室さんと一緒に桜ちゃんの引越し祝いをしようと計画しててね」
「それで丁度クリスマスも近い事ですから
引越し祝いとクリスマスパーティーを一緒にしてはどうかと話していたんです」
座らされた椅子の前には白いホイップクリームと真っ赤な苺がたっぷり乗ったホールケーキ
チョコプレートには『MerryX'mas』と書かれていた
「わぁっ⋯美味しそうっ!!
って、いつの間にそんな計画を⋯
もしかして今日お店を早く閉めたのもこのため⋯?」
「うんっマスターに事情を話したら二つ返事でOKくれたよ」
「本当はマスターも一緒にお祝いしたかったそうなんですが
毎年クリスマスは家族でお祝いされるそうで⋯」
「そうだったんですか⋯
でも嬉しい⋯梓ちゃん、安室さん
ありがとうございますっ」
キラキラと輝いて見えるケーキを眺めた後2人にお礼を言えばニッコリ笑ってくれた
ここの人達は⋯とても優しい
だから私もその優しさに応えたい⋯
「ではコーヒーをいれますね」
安室さんがそう言ってカップに手を伸ばそうとしたら
「⋯あ!!あー!!」
いきなり梓ちゃんが大きな声を出して
ポケットからスマホを取り出した
「えっと⋯ちょっとお兄ちゃんから電話みたいで⋯
もしもしお兄ちゃん?うん、うん!!分かった!!直ぐに行くね!!」
「えっと⋯梓ちゃん?」
スマホが耳から離れたタイミングで声をかけると
梓ちゃんはぐるりと振り返って私の両手を握りしめた
「桜ちゃんごめんね!!
お兄ちゃんが友達連れて私の家に来てるみたいで⋯
私直ぐに行かないといけないの!!
お祝いできないのは悲しいけど⋯
その分安室さんとクリスマスを楽しんでねっ?」
パチリと可愛くウインクした梓ちゃん
あぁ⋯梓ちゃんは今日も可愛いなぁ⋯
いやまて、そうじゃない
「じゃあ安室さんも桜ちゃんと一緒に楽しんで下さいねっ」
「え?梓さ⋯」
「あ!ケーキは明日食べますから私の分残しておいて下さいね!!」
「梓ちゃ⋯」
「お疲れ様でしたー!!」
バタン、とポアロの扉が閉まり
お店の中に静寂が訪れる
伸ばした手は虚しく空を掴みそのまま固まってしまった
前に梓ちゃんから安室さんの事をどう思っているのか聞かれた事がある
その時はただの仕事仲間だと答えたけれど
伊豆高原の後ぐらいからなんとなく⋯
なんとなくだけど私と安室さんが話していると
梓ちゃんは少しだけニヤけた顔をしている事が多くなった
⋯まさか⋯梓ちゃん蘭ちゃんから伊豆高原での出来事を聞いて
私と安室さんの間に恋愛的な何かがあると勘違いしているんじゃ⋯
それに今、安室さんと二人きりにはなりたくない
そう思って椅子から立ち上がろうとしたら
コトリ、と目の前に珈琲の入ったカップが置かれた
「⋯2人だけになってしまいましたが⋯
せっかくですから食べましょうか?」
そう言って苦笑いした安室さんを見て
「⋯はい、」
上げかけた腰を下ろした