18.孔明
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ガタガタと整備されていない山道を車が走る
窓の外を見ていた私は、車が跳ねた反動でゴツンと額を窓ガラスにぶつけた
「ったた⋯」
「おいおい、もっとまともな道はねーのかよ?
せっかくこの名探偵毛利小五郎が⋯
聞いたその足で長野で起こったその殺人事件の捜査に協力しに来てやったっていうのによ⋯」
実はあれから、何故か私も一緒にその事件現場に行く事になり⋯
皆と一緒に車に乗っていた
正確にはコナン君が私の手を引いて
『桜お姉さんも一緒に行こうよ!!
この間の事件で凄く閃いてたみたいだし⋯ねっ?』
⋯と、ぶりっ子コナン君に私が逆らえる訳もなく⋯
周りも何故か同意をしてここにいる
そりゃあ、事件の事思い出したら早く解決するだろうけど⋯
なんだろう⋯今回の事件⋯
なんか胸騒ぎがするんだよな⋯
「ごめんなさいね⋯この道が近道で⋯」
「それで?そろそろ教えてくれない?
その血塗られた赤い壁の謎って何なの?」
「まさか人の血で真っ赤に染まった壁が森のどこかにあるとか?」
蘭ちゃんが恐怖からか膝の上に乗っているコナン君を抱きしめる
それを見てニヤリと笑えば、赤い顔をしたコナン君からギラリと睨まれた
「違うわよ!血塗られたって敢ちゃんが言ってるだけで実際は⋯」
「おっとそこまでだ⋯先入観は推理を乱す⋯
直に現場を見てもらうためにわざわざ東京まで迎えに行ったんだからな!」
「ホー⋯」
「それと、俺はお前の上司だ⋯
敢ちゃんは止めろ⋯」
「はいはい、大和敢助警部!」
その光景を見て、つい口元がにやけてしまう
はぁ⋯絶っっっ対!!両想いなのに⋯
なんとも言えないこの関係⋯
新蘭と平和もだけど、やっぱりこのカップリング⋯
最高ですわ⋯
「⋯桜お姉さん顔、」
「え?」
「でも、一応どこに向かってるかぐらい教えてくれても⋯」
「この森の中に建てられた古い家で⋯
名前は『希望の館』⋯」
「希望の館なんて素敵な名前ですね!」
「フン⋯その名前で呼ばれてたのは3年前までだ⋯
そう⋯3年前に女が1人、館の倉庫で哀れな遺体で見つかってからは⋯
この土地の奴らにこう呼ばれてるらしいぜ⋯
希望ならぬ⋯
死亡の館だとな⋯」
「死亡の⋯館⋯」
大和警部の言葉を復唱し、外を見つめる
先の見えない暗い山道は
私の心に言い知れぬ不安を抱えさせた
それから数分車を走らせ、由衣刑事は車をとめた
蘭ちゃんと話していたためその目を外に向けると
そこには古びてはいるけれど豪壮な洋館がたっていた
皆で車を降りて門の中に入り、その洋館を見上げる
「ホー⋯かなり古くなってるが、立派な家じゃねーか⋯」
「元々は大金持ちの別荘だったらしいからな⋯」
「ねぇ⋯」
その時、コナン君が由衣刑事の服の袖を引っ張って声をかけているのが見え
そっと近づき、その会話に耳を傾ける
「大和警部が小五郎おじさんに助けを求めるなんて、柄じゃなくない?」
「ああ、それは⋯
ぜーったい負けたくない人がこの事件の捜査に加わってるからよ!」
「ーーって事は、その人も警察の人?」
「ええ!でも私達長野県警本部の刑事と違って、
その人はこのあたりを管轄にしてる新野署の刑事だけどね!」
⋯あれ?
長野県警で出てくる人って⋯他にまだいたっけ?
私が覚えているのは由衣刑事と大和警部だけだけど⋯
「でも、所轄の刑事さんなら
本部の刑事さんが張り合う事もないんじゃない?」
「実はその人敢ちゃんと小学校からの同級生で
何かにつけて敢ちゃんと競ってたらしいのよ!
東都大学法学部をトップで卒業したにもかかわらず、
キャリア試験を受けずにノンキャリアとして県警本部に入ったんだけど
ある事件が元で新野署に異動になった変わり者で⋯」
⋯って事は幼馴染み⋯だとしたら知ってるはずなんだけど⋯
その人の事も、忘れてるのかな⋯
「じゃあ、元は同じ長野県警本部の同僚だったの?」
「そう!これがまた敢ちゃんみたいな軍師っぽい名前でね⋯」
「おい、上原!中に入るぞ!」
「あ、はい!
⋯とにかく、敢ちゃんその人が相手だとカーッとなってほとんど勝った事ないらしいから
力を貸してあげてね!」
「へ?」
「敢ちゃんが頼りにしてるのは
毛利探偵じゃなく君の方みたいだからさ!」
「⋯⋯」
皆が中に入って行くのを見届けて、コナン君に声をかける
「⋯コナン君ってさ」
「⋯何?」
「何か⋯違う意味でバレバレだよね⋯」
「⋯うっせ、しゃーねぇだろ」
ジロリとこちらを睨んできたコナン君に苦笑いし
その小さな手を掴んで私達も中へ入った
「ホー⋯中もなかなか⋯」
中に入れば、広い玄関ホールがあり
それを囲むようにいくつかの扉があった
入って両端には階段が設置されていて
大和警部が杖を使いながらその階段をゆっくりと上がって行く
「何でここが希望の館って呼ばれていたか知ってるか?
この館を建てた大金持ちが、古くなって使わなくなったここを⋯
自分が見込んだ、才能はあるが金のない若者達にタダ同然の家賃で住まわせていたからだ
そいつらの夢が叶うまでな」
「だから希望の館なんですね⋯」
「ああ、今はなくなっちまったがこの館のそばにはバス停もあって⋯
交通の便もそこそこ良かったらしいしな⋯」
「まぁ、たまにここを訪れていた、人のいいその大金持ちさんも⋯
この館をその人達に受け渡す手続きを済ませた矢先に病死されて⋯
その人達も2〜3年後にほとんど独り立ちして館を出て行き⋯
5〜6年前からは、ここで結ばれて結婚した夫婦だけしか住んでなかったらしいけどね⋯」
「へー⋯」
「おい、上原!
ここに住んでた連中の写真、見せてやれ!」
「はい!」
大和警部に言われて由衣刑事は手に持っていた袋から写真を取り出すと
私達に見せてくれた
「これがその6人!」
渡されたのは6枚の写真
写真には全てその人の名前が貼ってあった
「1番上の写真がイラストレーターの⋯
明石周作さん⋯」
1枚目は長い髪を後ろで束ねていて眼鏡をかけた男の人
「次が俳優の⋯翠川尚樹さん」
2枚目は髭を生やした体格の良さそうな男の人
「次が小説家の⋯小橋葵さん⋯」
3枚目はボブカットの綺麗な女の人
「次がファッションデザイナーの山吹紹二さん⋯」
4枚目は髭と鷲鼻が特徴的な男の人
「次がCGクリエーターの百瀬卓人さん⋯」
5枚目はキャップを被った小太りの男の人
「最後がミュージシャンの⋯直木司郎さん⋯」
6枚目は金髪の男の人だった
⋯それにしても、この人達⋯
全員名前に色が入ってるんだな⋯
さっき赤い壁が⋯って言ってたし⋯
色、か⋯何か関係あるのかな⋯?
「うーん⋯みんなどっかで聞いたような聞かないような名前だな⋯」
「あのー⋯さっきから気になっているんですけど⋯
何なんですか?部屋の扉に貼った色紙をはがしたような跡がありますけど⋯」
蘭ちゃんの言葉にチラリと部屋の扉を見ると
確かに何かの紙を剥がしたような形跡があった
「そーいやぁ、こっちの部屋の扉にもそんな跡が⋯」
「ああ、それは多分⋯」
「色で分けてたんじゃない?
きっと色紙を貼って自分の部屋の目印にしてたんだと思うよ!」
「そっか!6人とも名前に色が入ってるから⋯
その色で区別してたんだ!」
ぽん、と手を叩きながらそう言うと
小五郎さんが不思議そうな顔をして私を見てきた
「しかしよぉ⋯写真に名前が貼ってあるが、
色の字が入ってる奴なんて⋯」
「字じゃなく音だよ!」
「そっか!
明石周作さんは赤!
翠川尚樹さんは緑!
小橋葵さんは青!」
「うん!それで、山吹紹二さんは山吹色、
百瀬卓人さんは桃色
直木司郎さんは白⋯」
「本当だ!6人とも色が入ってるね!」
「その通りよ、コナン君!さすがね!
八月一日さんもよく気づいたわね」
「えへへ〜たまたまですけど⋯」
由衣刑事に褒められて、だらしなく頬を緩めるとコナン君から肘でつつかれた
「部屋だけじゃなく、その6人は自分らを何かと色で区別してたみてーだぜ⋯」
大和警部は懐から1枚の紙を取り出し、私達に見せるように広げた
「見ろ!この家の倉庫から出て来た、古い食事の当番表だ
書いてあるのは6人とも名前じゃなく色になってる⋯」
そこに書いてあったのは
『6月の食事当番表』と上に大きく書かれていて
各日付の下には赤や白、青など⋯色の名前が書かれてあった
「ひょっとしたら実際に自分らの事を色で呼んでたのかもしれねぇな⋯」
「⋯キセキの世代か、」
「桜お姉さん何か言った?」
「あ、いや何でもないです」
大和警部に続き、皆で階段を登っていく
上に上がると突き当たりの曲がり角に、台車に山積みに乗せられた段ボールが置いてあった
「ん?あの台車に山積みにされた段ボール箱は何なんだ?」
「中身は本だが、びっしり詰まってて相当重い⋯
外開きのこの部屋の扉がこの台車で塞がれていたんだよ⋯
部屋の中の人間が死ぬまで外に出られないように⋯」
そう言いながら大和警部がドアノブに手を伸ばしたのは
段ボールが置かれているすぐ隣の部屋
「じゃあ、その部屋が問題の⋯」
「ああ⋯俺達が来た時には⋯
すっかり痩せ細って餓死してたぜ⋯
このおぞましい⋯」
扉を開けると
「赤い壁の部屋でな!!」
入って左側の壁は⋯
真っ赤に染まっていた
「お、おい⋯これってまさか⋯」
「ひ、人の血?」
「いや、これは⋯」
「ラッカーだよ!」
「え?」
蘭ちゃんを安心させようと思い、声をかけようとしたらコナン君の声に遮られて
声のした方を見れば、赤い壁の前に倒れていたスプレーの前に
コナン君はかがみ込んでいた
「ホラ、床に落ちてるこのラッカースプレーの口のトコ⋯
壁と同じ赤い色が付いてるよ!」
「あ⋯そっかぁ⋯びっくりしちゃった⋯
それにしても桜さん落ち着いてるけど⋯びっくりしなかったの?」
「え?えっと⋯人の血っていうのは初めは赤く見えるけど
時間が経てば赤黒くなるから⋯
この赤は血じゃないなって思っただけだよ」
「あ⋯そっか⋯」
その時視線を感じてそちらを見れば
大和警部と、目が合った
けどそれは一瞬で直ぐに逸らされる
「?」
「しかし何だ?この白と黒の椅子は···」
小五郎さんのその言葉に部屋の中央を見れば
そこには白と黒の椅子が背中合わせに置かれていて
その脚は釘で床に固定されていた
「遺体はその白い椅子の方に座ってたわ⋯」
「ま、まさか犯人が誰かに向けてのメッセージとか?」
「いや、それはねぇぜ⋯
この部屋には⋯盗聴器が仕掛けられたままになっていたからな⋯」
「な、なるほど⋯この部屋を盗聴し、音で生死を確認していた犯人が⋯
音が途絶え、本当に死んだかどうか確かめにこの部屋に来たとしたら⋯
その盗聴器は回収しているはず⋯
そいつがまだここにあるって事は⋯」
「ああ、害者をここに閉じ込めたきり
ここには来てねぇって事⋯
つまり、赤い壁も白と黒のイスも正真正銘⋯
害者が遺した⋯ダイイングメッセージってわけだ!」
「ダイイングメッセージか⋯」
普通に考えたら⋯明石さんって人が怪しいけど⋯
そんな単純じゃないよね
「赤⋯白、黒⋯」
⋯まるで、
「どうだ?この赤い壁の意味⋯わかったか?」
「わかるも何も⋯メッセージは赤!
つまり、名前に赤が入ってる⋯明石って男が犯人なんじゃ?」
「残念だが、この部屋で干からびていたのが⋯
その明石周作なんだよ!!」
「えぇ!?」
「ちなみに、その明石周作と結婚した小橋葵も
名字が明石になっていたが⋯」
「ここで結ばれた人って⋯その2人だったんですね」
「ええ、でも彼女は3年前にここの倉庫で亡くなってるわ⋯」
「こ、殺されたんですか!?」
「いや、元々心臓が悪くてね⋯
倉庫で探し物をしている最中に発作が起きてそのまま⋯
夫の周作さんはその時、この部屋にこもって作品を仕上げていて⋯
奥さんが倒れているのに気づいたのは、半日も経った後だったらしいわ⋯」
「そ、そんな⋯」
「⋯となると、この赤は名前じゃなくて⋯
赤⋯赤の⋯
そうか!犯人は赤の他人とか?」
こ⋯小五郎さん⋯それはちょっと⋯
小五郎さんのその言葉に大和警部はカッと目を見開いて詰め寄っていて
それを見て苦笑いする
「おいおい!そんな答えを聞くために俺はあんたを東京まで迎えに行ったんじゃ⋯」
その時
「賢に見えんと欲してその道を以てせざるは⋯」
いきなり聞こえた第3者の声に入口の方を振り返る
「猶ほ入らん事を欲して
之が門を閉づるが如し⋯」
そこに居たのは整えられた髭を生やしたスーツを着た男の人⋯
その人の顔を見た瞬間
ドクリと心臓が音を立て、頭が酷く痛みだした
「へ?」
「なるほど⋯天下の名探偵を電話で呼びつけず
自ら迎えに行った所までは良しとしましょう⋯
だが、今の毛利探偵に対する君の言動は無礼極まりない⋯
古い友人として恥ずかしく思いますよ
敢助君⋯」
なに⋯⋯なんで⋯
「何しに来やがった!?所轄は引っ込んでろ!!」
「いやいや、ここは我が新野署の管轄⋯
引くわけには行きませんね⋯」
なんで⋯この人を見てたら⋯
「な、何なんだ?今の『賢に見えんと何とか』って⋯」
「三国志に出てくる劉備玄徳が、有名な賢人をーーー⋯」
胸、が⋯
「桜お姉さんっどうしたの!?」
「⋯え⋯?」
コナン君の驚いたその声に、皆の視線が私に集まる
キョトンとしてコナン君達を見れば
私を見た皆は目を見開いていて⋯
「ど、どうしたの!?桜さん!!」
「⋯え?え?どうしたのって⋯何が?」
蘭ちゃんに肩をグッと掴まれて問いただされ
その意味が分からずに聞きかえすと
蘭ちゃんの隣にやってきたあの男の人から
スっと白いハンカチを渡された
「⋯これで涙を拭かれて下さい」
「⋯⋯え、」
その男の人に言われてようやく
自分が、泣いてる事に気づいた
「⋯え、な、なんでっ⋯私⋯」
頬伝う涙に気づき、慌てて服の袖で拭っても
涙は止まる事はない
すると男の人が私の手を掴み、私の頬にそっとハンカチを当てた
「あまり強く擦ると赤くなります
どうぞこのハンカチをお使い下さい」
「あ⋯ありがとう、ございます⋯」
ぽろぽろと涙を零しながらそのハンカチを受け取り
軽く目元に当てる
「桜さん大丈夫⋯?何かあったの?」
「う、ううん!大丈夫だよ!!
大丈夫⋯なん⋯だけど⋯」
そっと、あの男の人を見上げると
その人は私の視線に気づいたのか小首をかしげた
やっぱり⋯この人を見てたら⋯
「あの⋯私と⋯会った事ありませんか?」
気づいたら口からそんな言葉が出ていた
「「「「「え」」」」」
一瞬の静寂の後
「桜ちゃんそれって⋯
逆ナンってやつ⋯」
「⋯⋯え!?ち、違います!!」
しまった!!完全に言い間違えた⋯
それによくよく考えたら私と会ったことなんてあるはずないのに⋯
でも⋯なんでこんなに⋯
この人を見ていたら胸が締め付けられるんだろう⋯
「私は貴方に会うのは初めてですが⋯」
「で、ですよねー⋯アハハ⋯」
「⋯あ!もしかしたら桜さんが覚えてないだけで⋯
記憶が無くなる前にどこかであってるのかも!!」
「記憶が無くなる、たぁ⋯どういう事だ?」
蘭ちゃんの言葉を聞いた大和警部が怪訝そうにこちらを見ていて⋯
そうなるよなぁ⋯と苦笑いした
「えっと⋯実は私、通り魔に襲われて⋯
そのショックからか、それから記憶喪失になっちゃったみたいなんです」
「通り魔⋯」
「それで⋯」
なんとも言えない空気が流れ
慌ててその空気をどうにかしようと取り繕う
「あ!でも少しづつですけど記憶は戻ってきてるんですよっ」
「そうなの⋯それは良かったわ」
「はいっ、」
由衣刑事がホッと息をついたのを確認して
あの男の人が口を開いた
「とにかく⋯
この部屋に残された謎は、この赤い壁と白と黒の椅子だけじゃありません⋯
あのはめ殺しの窓が内側から割られ⋯
その空いた穴から絵の具やラッカーなど、色が付けられる画材が全て放り出され⋯
部屋に残っていたのは⋯この赤い色のスプレーのみだった点と⋯
被害者が自分の指を食い破り⋯
その血で、赤く染められた壁の端に自分のサインを書いてある点⋯
この事を踏まえて、もう一度名探偵に見解を伺うのが筋⋯
何しろ遺体発見のきっかけは、館の外に散乱した大量の絵の具を
たまたま通りがかった私が不審に思ったから⋯
いくら県警本部といえどその私を蔑ろにする事は⋯」
つらつらと言葉を並べる男の人にズイっと詰め寄られて
大和警部は鬱陶しそうに顔を背けた
「あー、わかったわかった!!
お前の気の済むまでそばにいやがれ!
高明!!」
「こ⋯」
「孔明!?」
「ああ⋯申し遅れました⋯
姓は諸伏
名は高明⋯
あだ名は音読みでコウメイ⋯
以後⋯お見知り置きを⋯」
諸伏⋯高明警部⋯
やっぱり知らない⋯思い出せない
けれど⋯
この人を見ていたら痛いくらいに胸が締め付けられる
この胸の痛みは⋯なんの痛みなんだろう⋯
それから私⋯いや、私とコナン君と蘭ちゃんは
大和警部に言われて、諸伏警部の車に乗って容疑者の4人に会って話を聞く事になった
あの後部屋を塞いでいた段ボールに入っていたのは小説家の葵さんの物だと分かり
葵さんの部屋に本が沢山あった事と
部屋の扉が外開きだということを知っていないと
本を段ボールに詰めて台車に載せ、扉を塞ぐ事はできないとコナン君に言われて
容疑者は例の4人に絞られた
しかも部屋のノブには被害者の指紋はついてなかったらしく⋯
大和警部も言ってたけど、普通閉じ込められたなら
外に出ようと扉のノブに手をかけるはず⋯
それとも犯人に拭き取られたか⋯
でも盗聴器は仕掛けられたままになっていたから
犯人はこの部屋に来ていないはずって言ってたし⋯
だとしたら⋯別の第3者が拭き取った⋯?
でも何でその指紋を拭き取る必要があったんだろう⋯
それに警察も呼ばなかったなんて⋯
いや⋯呼べなかった⋯?
「うーん⋯分からない⋯」
思わずそうポツリと呟くとコナン君がこそりと聞いてきた
「⋯桜さん、何か思い出せない?」
「え、うーん⋯さっきから考えてはいるんだけど⋯全く⋯」
「そっか⋯」
「コナン君は何か分かった?」
「いや⋯今の所は⋯とにかく4人の容疑者に話を聞いてみるしかねぇな⋯」
「だよね〜⋯」
「2人で何話してるの?」
「えっ!?いや、事件の話を⋯ちょっと、」
「そっかぁ⋯桜さんって意外と閃いたりするから
コナン君といいコンビかもねっ」
「意外とって⋯地味に傷つきますぜ⋯蘭ちゃん⋯」
ははは、と笑いながら運転席に座っている諸伏警部をチラリと見る
今回亡くなった⋯明石周作さんの奥さん⋯
葵さんは諸伏警部と大和警部の幼馴染みだったらしい
それで葵さんの命日に花を添えて帰る途中に⋯
諸伏警部が窓の下に散乱している絵の具を見つけて
今回の事件が発覚したんだけど⋯
「⋯幼馴染み⋯か⋯」
頭痛と胸の痛みは
まだ、止まらない