17.転寝
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「ええ⋯事件は解決しましたよ⋯
毛利名探偵のお陰でね⋯」
耳に装着したワイヤレスイヤホンで電話越しの彼女にそう言いながら
深夜のため車通りの少なくなっている道路にRX-7を走らせる
『あら、そう⋯ところでいつまであの探偵とつるむ気なの?
キールの一件でシェリーと関わっている疑いのあるあの探偵に張り付きたいってあなたが言うから、色々サポートしてあげたけど⋯
もう用はないんじゃない?
幸運にも偶然シェリーの情報が舞い込んできて⋯
そのシェリーも葬ることができたんだから⋯』
「いや」
『⋯⋯』
「俄然、興味が湧いてきましたよ⋯
眠りの小五郎という探偵にね」
思い浮かぶのはあの小さな少年の顔
その顔と共に脳裏に浮かぶのはつい先程まで助手席に乗っていた彼女で⋯
「そういえば桜さんの今住んでいる所は⋯
確か米花町2丁目の⋯工藤さんの家でしたよね?」
「⋯え!!!?な、なんでそれを⋯」
「蘭さんから聞いたんですよ」
「ぁ⋯あぁ⋯蘭ちゃん⋯」
「⋯何故工藤さんの家に居候することになったんですか?」
「えっと⋯蘭ちゃんの知り合いの家で⋯今はほとんど誰も住んでないからって
私その時無一文でしたし⋯お言葉に甘えて居候させて貰ったです」
「へぇ⋯」
「あ!で、でも近々引越しする予定なんですよ!!」
「引越し?」
「お金も少しだけど貯まってきたし
いつまでも甘えてる訳にはいかないな〜って思って⋯
まぁまだ物件は見つかってないんですけど⋯あはは⋯」
「そうですか⋯」
⋯彼女は⋯『何か』を隠している
だが彼女からは『そういう雰囲気』を感じ取れない
それに⋯彼女はいつも自分にだけ、どこかぎこちない笑顔を作っていた
だがあの時⋯
『いや、私前にも似たような事しちゃって⋯
あ!その時はサッカーボールだったんですけどね!!
ちょっとそれ思い出しちゃって⋯ふふっ』
本当の笑顔を⋯自分に向けてくれた
彼女の照れくさそうな、はにかんだ笑顔を見て
その時にきっと⋯彼女の中で何か変化があったのだと感じたが⋯
感情豊かで、嘘があまり得意じゃない
周囲からの人望も厚く⋯
いつも笑顔でいることが多い
そんな彼女が⋯『敵』なのだろうか
⋯まぁ⋯それが全部演技なら大したものだが⋯
『眠りの小五郎ねぇ⋯
彼の安眠の秘訣も一緒に探ってもらいたいところだわ⋯』
「⋯眠れないんですか?」
自宅の駐車場に着き、車の扉を閉めながらそう問うと
ため息混じりの声が聞こえた
『そうなの⋯』
「へぇ⋯あなたにもそういうありふれた悩みがあるんですね⋯」
『ちょっと、人をなんだと思っているの?』
「ふふ、入浴後にすぐベッドに入るのはおすすめしません⋯
深部体温が高いままでは、深い眠りを得られないからです⋯
携帯、PCのブルーライトは覚醒を促し
就寝前にはもってのほか!
お酒は飲んでいませんよね?」
『⋯⋯そうね⋯』
返答までの間から察するに、おそらくお酒を飲んでるだろうな⋯
苦笑いしながら玄関の鍵を開け、部屋に入る
ヤカンに水を入れ火にかけて、茶葉の入った缶に手を伸ばした
「あなたの文化圏では『ナイトキャップ』ともよばれる寝酒は睡眠に入り易くはしてくれますが、眠りを浅くし質を下げます⋯
そこで僕がおすすめしたいのが、
カフェインが含まれていない梅昆布茶です!
クエン酸、ナトリウム、カリウムを含み
疲労回復、リラックス効果が期待できます!」
『気が向いたら試してみるわ⋯』
「えぇ、是非⋯」
『⋯ところであなたに頼んでいた『あの子』の調査だけど⋯』
その言葉に急須に茶葉を入れようとした手をピタリと止めた
「⋯八月一日桜さん⋯ですよね」
『そうよ⋯』
「僕の調査ではあなたに伝えた事以上は現状分かりませんよ」
『⋯いいのよ、それで』
「え?」
『彼女とは⋯あんまり関わらないようにしてちょうだい』
「それは⋯」
『それから⋯もし何かあった時⋯彼女を守ってあげて』
「⋯!!⋯⋯自分が矛盾した事を言っているのを分かっていますよね?」
『そんなの分かってるわ、その上でそう言ってるのよ』
「⋯ちなみにその理由は」
『残念だけれど話すつもりは無いわ』
そう言うとベルモットは通話を切ってしまった
「⋯⋯」
お湯が沸騰したのかヤカンの注ぎ口から蒸気が漏れ、甲高い音を響かせる
一度目を閉じて彼女の笑顔を思い浮かべた後
燃え続けている火を切った
「むぅ⋯」
「⋯⋯」
いつの間に調べていたのか安室さんに工藤邸の前まで送ってもらい
昴さんに出迎えられて
出かける前に言っていた『話し合い』をするためリビングのソファーに座った⋯のに
リビングで昴さんと話し合いと言う名の睨み合い(?)をして数十分⋯
「だから私はっ⋯」
「桜さん、そういえば駅前の限定シュークリームが手に入ったのですが⋯」
昴さんが取り出したのは有名スイーツ店の箱
私の視線はついその箱に向かってしまった
「えぇ!?あの1日20個の!?
一度でいいから食べてみたかっ⋯
⋯って⋯
そうじゃなぁぁぁぁい!!
このやり取りもう何回目ですか!?
てか昴さんどれだけスイーツ買ってきてるんですか!?」
目の前には数量限定や高級な色とりどりなスイーツの山
ぐっ⋯キラキラしてて眩しい⋯
だが私はこの誘惑に負けるわけにはいかないのだっ⋯
「ぐぅっ⋯」
ギッと目の前の彼を睨むと
昴さんは余裕ありげに笑った
「おや⋯?桜さん食べないんですか?」
「昴さんが私の引越しに同意してくれないと食べません!!」
「ならば食べる事は出来なさそうですね⋯
せっかく買ってきたのですが⋯」
昴さんはそう言うと目の前のケーキをフォークで一口分切り分け
自分の口の中へと入れた
「⋯ふむ⋯やはり数量限定とあって美味しいですね⋯
クリームの甘さが丁度いい」
目の前で美味しそうに食べられ、食レポされ⋯
無意識に喉がごくりと鳴る
「うぐぅっ⋯」
そんな私の様子を見て昴さんはフッと笑った
「こんなに美味しいのに⋯
桜さんは食べれないんですね⋯
残念です」
こ⋯このっ⋯
赤い悪魔めぇぇぇぇぇぇ!!!!
「「ふぁああ···」」
そんな言い合いが続いて結局寝るのが遅くなり⋯
耐えられなくなってあくびをすると安室さんとタイミングが一緒になってしまった
「⋯どうしたんです?安室さんに桜ちゃん⋯
寝不足ですか?」
「「え?」」
安室さんと顔を合わせた後梓ちゃんをみれば
ジトっとした目で私達を見ていて⋯
「どうせ遅くまでお布団に潜りながら、スマホいじってたんでしょう?
桜ちゃんは深夜アニメ見てたわね?」
「はぁ、まぁ⋯」
「いやその⋯うぅ⋯」
私の場合、実際それで夜更かしした事あるから否定できない⋯
でも安室さんが眠たそうにしてるなんて珍しいな⋯
やっぱり、トリプルフェイスは大変だよね⋯
ちゃんと⋯寝れてるのかな⋯?
そんな事を考えてチラリと安室さんを見れば
梓ちゃんからアドバイスという名のお説教を受けた
「スマホやテレビの光は目が覚めるから
眠る前は厳禁です!
お風呂も横になる30分前には済ませておくこと」
「は〜い⋯」
「そうだ!お茶なんてどうです?
しそ茶とかハーブティーとかカフェインレスならなんでも!
梅昆布茶は渋すぎですかね?うふふ」
「ハーブティーならカモミールティーが好きかなぁ⋯」
「カモミールティー美味しいよね!!
それにしても⋯しっかりしてくださいよ安室さん、桜ちゃんも!
2人はウチの看板なんですから!
ボーッとしてたらJKががっかりしちゃいますよ〜」
「え?安室さんはともかく私も?」
安室さんが苦笑いしているのを見て、梓ちゃんの言葉にキョトンとしていると
梓ちゃんはズイッと私に顔を近づけた
「桜、ちゃん、も!!ファンの男子高校生とか結構いるんだよ?」
「まっさか〜私のファンは田沼のおじいちゃんと梅子ちゃんだけだって」
「あぁ⋯田沼のおじいさん桜さんの事凄く気に入ってますもんね」
「そうなんですよ〜、昔一目惚れした女の子にそっくりだ〜って言って」
「まぁその2人はともかく⋯
とにかく!桜ちゃんはもっ⋯と⋯」
「梓ちゃん?」
急に言葉が途切れ、不思議に思って梓ちゃんの方を見れば
目を虚ろにさせていて⋯
「どうし⋯!!」
そのまま前のめりに倒れそうになり、慌ててその身体を抱きとめた
「梓ちゃん!?どうしたの!?」
「すぅ⋯⋯」
「って⋯寝てる⋯?」
呆気にとられて梓ちゃんの可愛い寝顔を見つめていると
後ろから苦しそうな声が聞こえた
「っ⋯桜、さん⋯」
「安室さん!?」
振り返って安室さんを見れば辛そうに目頭を抑えていて⋯
梓ちゃんを壁にもたれかせかけ、安室さんに近寄ると
安室さんの瞳は既に閉じてしまいそうだった
「どうしたんですか!?安室さん!!」
「分から、ない⋯急に⋯眠気が⋯」
その言葉にまさかと思い店内を見渡せば
お客さんは皆机に伏せたり、ソファーに倒れたりしていて眠っていた
「これ⋯」
やっぱり⋯
カードだっ⋯!!