15.決意
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「⋯痛い⋯」
「桜ちゃん大丈夫⋯?」
「⋯こ、このぐらい平気ですよっ」
「この列車に乗ってからずっと頭痛がしているみたいですけど⋯
辛くなったらすぐに言って下さい」
「昴さん⋯ありがとうございます⋯」
痛む頭を抑えながら私はちらりと窓から流れる景色を見つめた
ついに⋯きてしまった
ベルツリー急行のミステリートレイン
冬名山の件の後
私は昴さんに思い出した事を全て伝え
対策を立てるために有希子さんとコナン君も一緒に工藤邸で話し合った
「私が今分かっている事は
ミステリートレインのパスリングをつけた哀ちゃんの元の姿の写真が黒ずくめの組織にバレて⋯
組織は哀ちゃんを殺そうとベルツリー急行に2人、組織の人間を潜入させます
1人はベルモット⋯そしてもう1人の組織の人間が⋯
哀ちゃんに拳銃を向けている姿を⋯思い出したんです」
「くそっ⋯灰原の姿を撮られちまってたなんて⋯」
グッと拳を握りしめたコナン君を見て少し顔を俯かせて呟いた
「ごめんね⋯私がもっと早く駆けつけていたら⋯」
「いや、桜さんが謝る事じゃないよ
それに、灰原を列車に乗せないようにすれば⋯
いや⋯まてよ⋯」
「?コナン君?」
顎に手を当てて何かを考え出したコナン君
その様子を見ていると
ふとコナン君が顔を上げて思いもよらない事を言い出した
「⋯やっぱり灰原は連れて行こう」
「えっ!?」
てっきりコナン君の事なら哀ちゃんの身の安全の為に
ミステリートレインには連れて行かせないって言うと思っていたのに⋯
まさかの言葉に驚愕の声をあげたら
ずっと黙っていた昴さんが声をかけてきた
「ボウヤの言う通り⋯ここは連れて行った方がいいだろう」
「ちょ⋯昴さんまで何言ってるんですか!?
そんな危険な所に哀ちゃんを連れて行くなんてっ⋯」
「逆に考えるんだ、桜」
「え⋯逆⋯?」
「そうだよ
これは組織に本当に灰原が死んだと思い込ませるための⋯
チャンスなんだ」
「チャンス⋯でもそんな危険すぎる賭け⋯
第一どうやって組織に死んだと思い込ませるのか⋯」
「だからこそ私がいるんじゃないっ」
バッと有希子さんから後ろから抱きしめられぽんと頭を撫でられる
「有希子さん!?」
「私が哀ちゃんに変装して死んだふりをすればいいのよっ
私の変装術と演技力があれば相手を騙すなんてイチコロなんだから」
「え、まさか母さ⋯有希子おばさ⋯」
「⋯⋯」
「⋯有希子お姉さんまで計画に加わるき?」
「当たり前でしょ
相手はあの銀幕のスターなら
こっちは日本の伝説的女優である⋯
私をキャスティングするべきだわっ」
グッと親指を立ててウインクした有希子さんを見て
コナン君が呆れたようにため息をついた
「⋯ったく⋯言い出したら聞かねぇもんな⋯」
「そうですね⋯有希子さんの変装術と演技力があれば大きな力になるでしょう」
「そんなの駄目ですっ⋯
有希子さんに⋯皆に何かあったらと考えたら⋯私っ⋯」
「桜ちゃん⋯」
分かってる
私の言動が3人を困らせている事ぐらい
でも⋯それでも大切な人達が傷ついたらと考えたら⋯
怖い⋯
ギュッと拳を握りしめていたら
その拳が暖かい手に包まれ
そっと顔を上げると昴さんがそこにいた
「⋯桜、大丈夫だ」
「昴さん⋯」
「俺達を信じろ」
「信じる⋯」
昴さん⋯赤井さんに見つめられて
心臓がドクリと跳ねた
信じる⋯
確かに私は⋯皆が傷つく事を恐れているばかりで⋯
皆の事を信じていなかったのかもしれない
「⋯分かりました」
重い口を開いてそう言えば
コナン君がホッと息をついたのが分かった
「⋯私、皆を信じます、今回の作戦も協力します
けど1つだけ⋯お願いがあるんです」
「お願い?」
「身代わりは私がなります」
私がそう言うとコナン君と有希子さんの目が驚いたように見開かれた
「なっ⋯!?駄目に決まってんだろ!!
第一どうやって身代わりになるつもりだよ!?」
「変装は有希子さんがいるし
昨日元の姿になった哀ちゃんと会ったでしょ?
その時私と身長はあんまり変わりなかったし
声は昴さんも使ってるチョーカー型変声機を使えばどうにかなる⋯
だからお願いします!!」
3人に向けて頭を下げたけれど
「駄目だ」
「昴さんっ⋯」
ピシャリ、と昴さんにそう言われてしまい
思わず有希子さんの顔を見たけれど
有希子さんも眉根を寄せて緩く首を横に振った
「そうよ、桜ちゃんにそんな危ない真似させる訳には⋯」
「それは皆同じです!
それに私ならいざと言う時にこの力があるし⋯
私だって⋯哀ちゃんを守りたいんです!
組織に狙われて⋯いつも恐怖に怯えている哀ちゃんなんて見たくない
哀ちゃんが少しでも多く笑えるように⋯
そんな風になってほしい
その為なら⋯私はっ⋯」
「自分はどうなってもいいって?」
「え⋯」
コナン君のその声に
自然と俯いてしまっていた顔を上げると⋯
コナン君は目を鋭くさせて私の方へ一歩、足を踏み出した
「桜さん⋯前に蘭姉ちゃんと一緒に
米花タワーマンションに行った時の事覚えてるよね?」
「あ⋯あの紙飛行機の⋯」
「その時に気づいたんだけどさ⋯
桜さん⋯
大切な人を守る為なら
自分はどうなってもいいって考えてるよね?」
「それは⋯⋯」
言い当てられて何も言えずに口ごもっていると
コナン君はまた一歩私に近づいてきた
「本当はもっと早く言うべきだったんだけど⋯
それは間違ってる
桜さんはもっと自分を大切にするべきだよ」
「⋯駄目だよ」
「え⋯」
「だって⋯私は⋯この世界の人間じゃないから⋯」
「⋯桜さん、」
「え、」
コナン君にグイッと服の裾を引っ張られ
体勢を崩した私はその場で膝をつき
どうしたのかとコナン君を見た瞬間
パンッ!!
そんな乾いた音の後にじわりと広がる左頬の痛み
「コナ⋯ン⋯くん⋯」
「バーロー⋯それ⋯本気で思ってんのかよ」
呆然とコナン君を見れば
目の前の彼は切なそうな顔で私を見つめていた
「初めに会った時⋯
桜さんが自分の事を話してくれた時に言っただろ?
僕は生きてるし桜さんも生きてる
だから⋯桜さんも僕と一緒にこの世界で生きよう⋯って
忘れちまったのかよ⋯」
「っ!!忘れる訳ない!!
そのコナン君の言葉で⋯不安だらけだったけど
私もこの世界で頑張ろうって⋯生きようって⋯
そう思うことができた⋯」
「だったらもっと自分を大事にしろよっ」
「コナン君⋯」
「⋯もし灰原が桜さんを守る為に自分の命を落としたら⋯
桜さんは嬉しい?」
「!?そんな訳ないでしょ!?」
「それと同じだよ」
「あ⋯⋯」
そっか⋯私⋯
自分の事しか⋯考えてなかったんだ⋯
「ごめん⋯」
「⋯分かってくれたんだね」
「⋯うん⋯」
「よか⋯いだだだだだ!!」
不意にコナン君の後ろから伸びてきた手は
その小さな頭のこめかみをグリグリと力いっぱい押し付けていた
「新⋯コナンく〜ん?
可愛い女の子の頬にビンタとは何事じゃあああ!!」
「いだだだだだ!!わ、悪かったって!!」
「ゆ、有希子さん私は大丈夫ですから!!」
慌てて有希子さんを止めようとしたら
グイッっと手を引かれて歩みを止める
後ろを見ると昴さんが居て
昴さんは私を自分の方へ向かせると
手に持っていた何かを私の左頬に当てた
「ひゃっ⋯」
その頬に当てられたのは濡れた少し冷たいハンカチで
思わず小さく声をあげると昴さんは苦笑いして私の頬を両手で包んだ
「手加減はしていたようですが⋯
冷やさないと腫れてしまいますからね」
「昴さん⋯ありがとうございます⋯」
「⋯⋯」
ふと反対の頬を親指でするりと撫でられ
その擽ったさに少しだけ身をよじると
「⋯⋯」
その手が肌を滑り頬から耳
耳から項へと行くと
「⋯へ」
首へと回った手に力が入れられ
その力のままに前へと身体が傾く
ぽすりとその身体へダイブすると石鹸の香りと微かに香る煙草の匂いが肺に広がった
「すば、るさんっ!?」
慌てて距離をとろうとしたけれど
力が強くて離れられない
昴さんの腕の中でワタワタしていると
耳元で昴さんの息遣いを感じてピタリと動きを止めた
「⋯言っただろう
俺は君の味方だ⋯」
「昴さん⋯はい⋯」
少し恥ずかしかったけれど
昴さんの背中に手を回せば更に力を込められて煙草の香りが濃くなる
正直煙草はあまり好きではないけれど
何故かいつもと違うような感じがしてもう一度呼吸をしようとしたら
「⋯あのさぁ⋯そろそろ話進めたいんだけど⋯」
「こらっ!!今いい所なんだから!!」
「!!!?」
不意に聞こえた声にバッと身体を離すと
コナン君と有希子さんがニヤニヤしながらこちらを見ていた
「イチャイチャするならせめて僕らの居ない所でしてよね」
「ちが!!違う違う!!違うから!!」
「あぁ、そうするとしよう」
「昴さん!?」
「コホンっ⋯で、桜さんに改めて聞きたいんだけど⋯
ベルモットともう1人⋯組織の人間って誰か分かる?」
「それ⋯は⋯」
その質問に口篭ると不思議そうな顔をしたコナン君
安室さんの事を⋯言わないといけない
コナン君と安室さんが敵対するなんて嫌だけれど
けど⋯安室さんの⋯『降谷さん』の事は
私の口から⋯そんな軽々しく言ってはいけない事だ
「⋯もう1人の⋯
組織の人間は⋯バーボン⋯」
「バーボン!?桜さんバーボンがどんな人か分かるの!?」
「うん⋯思い出したよ
バーボンの正体は⋯」
「⋯ふぅ⋯」
少しだけ落ち着いた頭痛に深く息を吐き
首元を少しだけ緩めようとして、その手を止めた
⋯忘れてた今チョーカー型変声機してるから首周り緩められないんだった
結局哀ちゃんの変わりは私がすると説得して
園子ちゃんから貰ったパスリングで私は今ベルツリー急行の列車に乗っている
「それにしても桜ちゃん⋯
男装も似合ってるわ〜っ」
「えへへ⋯そうですか?」
有希子さんにそう言われて
思わず頭を搔くと普段より随分短い髪が手にサラリと触れた
今の私は黒髪のショートカットに白のカッターシャツ、紺のベスト
グレーのパンツにシークレットブーツ
それから赤いネクタイをして
胸は一応サラシをして潰している
⋯いわゆる男装をしているのだ
今回自由に行動できるように
蘭ちゃん達には私がミステリートレインに行くことは内緒にしている
そのため車内でばったり会った時にバレないように男装をする事になった
「桜ちゃん変装の素質あるんじゃない?」
「いやいや⋯これは前の世界でのちょっとした経験からで⋯
変装ではないですね⋯」
この変装も某刀の擬人化ゲームの土方さんの愛刀である彼をイメージしながらしたんだから⋯
しかも念の為声も変えれるように
このチョーカー型変声機にはそのキャラのボイスで喋れるようになってる
だからこれは変装と言うよりコスプレになるのかな⋯
まさかもうする事はないだろうと思っていたコスプレをこんな形でする事になって
思わず遠い目をしていると
ふと、冬名山での次の日の出勤時⋯
その時の安室さんとの会話を思い出した