13.飛翔
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黒のワンピースに袖を通し
首元にパールのネックレスをつける
鏡を見ておかしな所が無いか確認して
「⋯よし、⋯」
気合いを入れる為、頬を軽く両手でパチリと叩いた
するとノック音の後、扉越しに昴さんの声がして
『桜さん準備はできましたか?』
「あ、はいっ今行きます!」
夢の鍵を首にかけ、カードのバッグを掴み
部屋の扉を開けたーー⋯
赤井さんとお酒を飲みながら話をしてから数日後
どうしても欲しい花を売っている花屋がやっと見つかり
今日、2人で一緒に出掛ける事にしたのだ
「あ、昴さん、そこの花屋です!」
「分かりました」
近くの駐車場に車を停め、昴さんと一緒に
花屋の中へと入る
扉を開けたら柔らかい花の香りが鼻腔に広がり
思わず深呼吸をした
「⋯いい匂い⋯」
「⋯ですね、」
「じゃあ私店員さんに話してくるので
ちょっと待ってて下さい」
昴さんにそう声をかけて
花の手入れをしていた店員さんに声をかける
「あの⋯すみません⋯今日予約していた八月一日ですけど⋯」
「あ!お電話で予約された八月一日さんですか?
お花用意できてますので今持ってきますね」
「はいっありがとうございます」
店員さんは奥の部屋に入っていくと
直ぐに手にいくつかの花束を抱えて出てきた
「ご注文の品は全部で5つですが⋯
お間違いはないでしょうか?」
「⋯はい、大丈夫です」
代金を払い、5つの花束を抱えて昴さんの所に戻ろうと振り返ったら
「すみません、これを下さい」
「わっ⋯」
直ぐ後ろに昴さんが居て
昴さんは手に持っていたひと束の花を店員さんに渡した
「ぁ⋯」
昴さんが持っていたのは小さな紫の花がいくつかついている花で⋯
今日の為、色んな花の花言葉を調べたけれど
昴さんが持っているその紫の花の花言葉は⋯前から知ってる
「⋯⋯シオン⋯」
花言葉は⋯
『追憶』
『君を忘れない』
きゅっと胸が締め付けられ
花束を抱える腕の力を少し強めて、5つの花束を見つめた
5つの内1つの花束はスノーフレークでできている
一見すると鈴蘭に見えるけど
花の先にある緑の斑点が特徴の可愛らしい花
花言葉は
『純粋、純潔、汚れなき心、皆をひきつける魅力』
まるで⋯明美さんにぴったりの花だなって
そう思った
そして残りの4つの花束は全部同じ花
開いた5枚の花弁が星のような形になっている
青い花の名前は⋯
「あ⋯」
ふと、視界の端に色鮮やかな黄色が目に入り
顔を上げる
そこには小さいながらもしっかりと花を咲かせている⋯
ヒマワリがあった
それに近づいて、少しだけ花に触れてみる
「⋯綺麗⋯」
「桜さんお待たせしました⋯
おや、それはヒマワリですね」
「あ、昴さんっ⋯綺麗ですよね⋯
つい見とれちゃって⋯」
「そうですね⋯しかし今の時期にヒマワリは珍しいですね」
すると私達の話を聞いていたのか店員さんが苦笑いしながら傍にやってきた
「これはミニヒマワリで⋯温室栽培もしているから
今の時期でも注文があれば入荷はするんですよ
実はこのヒマワリもお客様から注文があって入荷したんですけど⋯
発注ミスで少し多めに入荷してしまって⋯
残った分を買って下さったお客様はいたんですけど
この残りの1本だけ余ってしまったんです」
「そう⋯なんですか⋯」
一輪だけ残ってしまったヒマワリをジッと見ていると
何故か思い出すのは『あの人』の事で⋯
「⋯あの、すみません
このヒマワリも下さい」
気づけばそのヒマワリを持って店員さんに
そう言っていた
沢山の花を持って車に乗り込めば
あっという間に車内は花の香りで充満される
「⋯随分と多く買ったんだな」
「あ⋯えっと⋯実は例のビルに行く前に寄ってほしい所がいくつかあって⋯
お願いしてもいいですか?」
「⋯桜さんの為なら喜んで、」
昴さんはニコリと笑うと車を発進させた
車を走らせて数分
「あ、そこのマンションです」
ある高層マンションの前で車を停めてもらい
花束を1つ抱えて車を降りる
「直ぐ戻ってくるのでちょっと待ってて下さいね」
そう言って扉を閉めようとしたら
ふと、その手を掴まれた
「昴さん⋯?」
「何かあったら直ぐに連絡して下さいね」
「⋯はい」
「あと携帯はマナーにしないように⋯分かりましたか?」
あのコナン君誘拐事件の時
ちょうど現場に居た昴さんの車に乗せてもらい
何とか安室さんに住んでる場所は知られずに済んだんだけど⋯
夜更けになるまで昴さんに説教をされたのは今でも忘れられない⋯
「は、はい⋯」
あの時散々つねられた頬の痛みを思い出し
そっと頬に手を添えて引き攣りながら返事をすると
昴さんはニコリと笑って私の手を離した
マンションの前に行き、エントランスに入り
エレベーターを使うため中に入ろうとしてピタリと足が止まる
「⋯しまった⋯」
扉の横にあるのは集合キー式のオートロック
鍵さえあれば扉は開くけど
私はここの住人では無いため鍵なんて持ってない
思わぬ所で足止めくらっちゃったな⋯
そりゃこんな高層マンションなんだから
オートロックぐらいついてるよね⋯
「う〜ん⋯」
私が行きたい場所は⋯屋上、
グラビテーションで屋上まで行ってもいいけど⋯
夜ならまだしも日中だから誰かに見られるかもしれないし⋯
他に屋上に行ける手段は⋯
サコッシュからカードを取り出し
どうにかして屋上に上がれないかと思案していたら
あるカードが目に入った
「⋯あ!これなら何とかできるかも⋯」
辺りを見渡し、誰もいない事を確認してから
胸元から夢の鍵を取り出し、杖に変える
「『封印解除(レリーズ)!
目先の扉を開けよ!
行動(アクション)!』」
するとカチリ、と音がしてオートロックの扉が開いた
「やった!」
扉がまた閉まらないうちに中に入り、エレベーターのボタンを押す
そして1番上の階に行くと今度は非常階段に出て
屋上へと続く階段を登る
屋上の扉が見えて、そのドアノブに手をかけてノブを回したけれど
扉は開く事無くガチャンと音がするだけだった
「⋯まぁ⋯ここも鍵かかってるよね⋯」
さっきのように行動(アクション)を使い
重い屋上の扉を開ける
「わっ⋯」
扉を開けた瞬間、強い風が顔に当たり思わずぎゅっと目を閉じた
少しして風が落ち着いてきてのでゆっくりと目を開ける
そこに広がっていたのは⋯
青い空と遠くまで見渡す事ができる街並みだった