11.邂逅
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「桜さん、少し出かけてきますね」
少し早い昼食を食べ終わり、お皿を洗っていたら
昴さんからそう言われて手を止めた
「どこか行かれるんですか?」
「⋯ちょっと帝都銀行と米花百貨店までね」
「米花百貨店⋯あ!そういえばアクセサリー作りの材料足りないんだった⋯
私も着いて行ってもいいですか?」
軽い気持ちでそう聞いたら昴さんは少し考えこんでしまった
「⋯ありゃ⋯?」
もしかしてマズかったかな⋯?
そういえば帝都銀行ってここから遠いし、わざわざそこに行くって事は何か大事な用かもしれない⋯
「あ⋯やっぱり⋯」
「いや、いいでしょう
一緒に行きましょうか」
「え⋯でもいいんですか?私が一緒に居たらマズいんじゃ⋯」
「そんな事はありませんよ、では車を出してきますね」
「あっはいっ」
最後のお皿を洗って置くと
出掛ける準備をするため急いで2階へと上がった
米花百貨店に着き、
昴さんは帝都銀行に用事があるからと入口で一旦別れ
中の百円ショップで材料を買う
「これぐらいあれば充分かな⋯」
会計をした後昴さんに連絡を取れば
百貨店の上の階に居ると言われて
昴さんが居る階にエスカレーターを使って上がっていると
ふと後ろのカップルの会話が聞こえてきた
「そういえばこの間そこの銀行で銀行強盗あったじゃん?」
「あぁ⋯帝都銀行?」
「そうそう、その事件の裁判が始まったんだって」
「へぇ〜⋯その事件俺の友達が巻き込まれたって言ってたな⋯」
「え!?本当!?」
帝都銀行の銀行強盗事件⋯
そういえばコナン君から巻き込まれたって話聞いてたなぁ⋯
少年探偵団の皆に怪我がなくて良かったけど⋯
なんとなく、その事件知ってるような⋯
そこまで考えて、その事件の事を思い出そうと目を閉じた
そういえばあの事件には会ったことないけど⋯
ジョディ先生がいたんだよね
それでジョディ先生と協力して⋯犯人捕まえて⋯
あれ、そういえばコナン君が犯人に捕まった時
拳銃で⋯
犯人を撃った人が⋯
その時、目を閉じていた為
エスカレーターの終わりに気がつかなくて
足元がつんのめり、体制を崩した
「わっ!?」
慌てて何歩か足を出したけど
体制を立て直す事ができずに転びそうになると
「へっ⋯?」
不意に隣から伸びた腕に支えられて
何とか転けずにすんだ
「ぁ⋯すみません、ありがと⋯う⋯」
その支えてくれた人物を見ようと顔を上げて
固まった
「⋯⋯」
そこに居たのは
キャップを目深く被っていて⋯
頬に火傷の痕がついてる
赤井さんだった
ひゅっ⋯と何かを言おうとして息を吸ったけれど
それは言葉になる事無く、吐き出された
⋯今、
何か言ってはいけない気がする
何も言わずに赤井さんを見つめていると
赤井さんはこちらをジッと見た後
私から手を離して人混みの中に消えていった
「⋯あの⋯人⋯」
そうだ、思い出した
あの時コナン君を助けるため拳銃で犯人を撃ったのも⋯あの人だ
けれど『赤井さん』は『昴さん』として今⋯ここにいる
だとしたら⋯
あの人は⋯ダレ?
「⋯さん」
「⋯⋯」
「桜さん」
「ひゃい!?」
ボーッとしていると昴さんから頬を優しく摘まれ我に返る
「⋯合流した後から様子がおかしいですけど⋯
何かあったんですか?」
「え⋯いや⋯何でもないですよ?
それより昴さんは用事は終わったんですか?」
「あぁ⋯僕の方は⋯ん?」
何かに気づいた昴さんにつられて辺りを見渡すと
周りの人達がザワつきだしていた
「⋯?何かあったんでしょうか⋯?」
「⋯⋯」
ふとザワつきの中心を見ればそこにはコナン君と蘭ちゃん、小五郎さんがいて⋯
「あの人の体⋯爆弾が巻かれるって!」
「ま⋯まじかよ⋯」
「ドッキリとかじゃないよね⋯?」
周りのその声に何がおきているか⋯
だいたい把握できた
「うそ⋯」
「⋯桜さん、僕から離れないで下さい」
「す、昴さん⋯」
昴さんは私の左手を掴むと自分の方に引き寄せた
「おいおい、マジかよ!?
その鞄に入った赤いTシャツの送り主を突き止めねーと
爆弾を爆発させるだと!?」
「は、はい⋯
私の体に爆弾を巻き付けた覆面の男はそう言ってました⋯」
「しかも、その送り主は今このフロアにいるって言うのかよ?」
「え、えぇ⋯
その人が名乗り出て来たら、爆弾のスイッチは押さないって⋯」
「おい、今の聞こえただろ!?
何だか知らねーが、赤いTシャツを大量に送ってるふざけた奴!
いたら出て来てくれ!!」
小五郎さんの声掛けにも周りはザワつくだけで
誰一人名乗り出ようとはしなかった
「⋯大丈夫でしょうか⋯」
「⋯コナン君がいるのでおそらく大丈夫でしょう」
「そう⋯ですけど⋯」
確かに⋯コナン君がいるから事件は大丈夫だろうけど
けれど⋯
さっきから、『あの人』の事が⋯気になる
その後コナン君が床に赤いTシャツを並べ
そのTシャツを折り目に沿って折った後
どこかに行ってしまった
「ぅ⋯見えない⋯」
それを見ようとしたけれど周りを人が囲んでいて見えない
「⋯ちょっと失礼」
昴さんはそう言って私の手を引いてTシャツが見える所まで進んでいった
「⋯やはり⋯」
「?昴さん何か気づいたんですか?」
そう言って昴さんを見上げた瞬間
「!!」
「すば⋯んぐっ!!」
昴さんに口を塞がれ数歩後ろに下がった
「んっんんっ!?」
そのままの状態で近くのカフェに入るとやっと解放され
ホッと息をつく
「はぁ⋯び、びっくりした⋯
どうしたんですか?昴さん⋯」
昴さんは私の言葉に返事を返す事なく
カフェの窓に近寄ると、そこから外を眺めだした
「⋯⋯昴さん?」
それに近づいてみると窓からは向かいのホテルと道路が見えていて⋯
ふと路駐をしてある⋯黒い車に目がいった
「っ!!あれって⋯」
「あ、あの⋯お客様?」
「あ、すみません、すぐに出て行きます⋯
ちょっと外の様子が見たかっただけなので⋯」
昴さんは店員さんにそう言って窓から離れるとまた私の手を取った
「彼女も怖がってますし⋯
それに爆弾でフロアが占拠されてるというのに⋯
何かを口にする気にはなれませんよ⋯」
「は⋯はぁ⋯」
「もっとも⋯この暑い最中、
息を潜めてジリジリと獲物を待ってる連中には⋯
熱くて苦いコーヒーを御馳走したいところだがね⋯」
2人でカフェを出た後
グイッと昴さんの手を引くと少し驚いた様な顔をしてこちらを見た
「昴さん⋯あの⋯さっきの黒の車⋯」
「⋯心配するな」
「でも⋯」
外に停まっていたのは⋯
黒のポルシェ
間違いない⋯ジンの車だ
「⋯俺がついてる」
「⋯はい⋯」
私を安心させる為か、
昴さんは私の手を優しく握り返してきた
それからコナン君が小五郎さんを眠らせて今回の事件を解決し
解放された人達が一気に流れ出す
その流れに乗るように1階へと降りると
「⋯桜さんはここで待っていて下さい」
昴さんは私を物陰に隠すように手を引くと
そう言って出口の方へ歩き出してしまった
「昴さん⋯」
その背中を見つめながら、何があってもいいように夢の鍵を握りしめる
そんな私の横を通り過ぎたのは
「ぁ⋯⋯」
あの、黒のキャップを被った『火傷をした赤井さん』で⋯
その人に伸ばそうとした手を
慌てて引っ込める
⋯多分、だけど
昴さんもあの人の存在に気づいてるはず
けれど何もしないって事は今動いては駄目だと言うこと⋯
⋯ジンがすぐ側に居るんだ
慎重にならないと⋯
そんな事を考えていたら
今度は金髪の女性が隣を駆けて行った
「⋯ジョディ先生?」
会ったことはないけれど
金髪でメガネを掛けているショートカットの美人なあの女性は⋯おそらくそうだろう
ジョディ先生はキョロキョロと辺りを見渡していて
ふと前のキャップを被った赤井さんに気づき人を押しのけながら走っていった
するとそのジョディ先生を止めるように昴さんが自然と前に行き
身体がぶつかってジョディ先生は尻もちをつく
それを眺めていると
「皆ー!!爆弾騒ぎのお詫びに商品券くれるんだってー!!」
コナン君のそんな叫び声が聞こえてそっちを見ると
辺りを走り回りながらコナン君が周りの客に商品券が貰えると言い回っていた
「コナ⋯」
「あれ?桜さん?」
「わっ⋯ら、蘭ちゃん!!」
後ろから声をかけられて振り返ると
そこには蘭ちゃんと小五郎さんがいた
「こんな所で会うなんて偶然だね!」
「そ、そうだね⋯」
「桜さんもしかしてさっきの事件知ってる?」
「あ⋯うん⋯実はさっきまでそのフロアにいたんだ」
「え!?」
「桜さんお待たせしました⋯おや?」
「す⋯昴さん⋯」
「え!昴さん!?
桜さん昴さんと一緒に買い物に来てたの?」
「う、うん、」
苦笑いしながら頷くと蘭ちゃんは少し頬を染めながらニンマリと笑った
「⋯デート⋯」
「違うからね!?」
「⋯なるほど、商品券か⋯」
「ん?」
昴さんの方を見ればそこにはコナン君が居て⋯
「スマートな方法とは言えないが⋯
客を非難させる為には止む無しといった所かな?」
「す、昴さん!?」
「私もいるよっ」
「桜さん!!」
昴さんの後ろからひょっこりと顔を出すと
コナン君は驚いた顔をしてこっちを見ていた
「な、何でここに⋯!?」
「さっきの爆弾事件の時、私達と同じフロアにいたんだってさ!」
「この百貨店のそばにある帝都銀行に用があってね⋯
それを済ませて百貨店に用があった桜さんと合流したら事件に巻き込まれてしまったんだ⋯」
「でも、何なんですか?
さっきのコナン君が客を避難させたって話⋯」
「あぁ⋯聞くだけ無駄ですよ⋯
馬鹿な狼共がみすみす獲物を狩り損ねたっていう⋯
ちんけな話ですから⋯」
す⋯昴さん⋯何か口が悪いような⋯
「しかし、住んでる所からあの帝都銀行はかなり離れてるよな?
何でまたそんな所に預金を⋯」
「いや⋯あの銀行には別の用があって行きましたから⋯」
「別の用って?」
「ホラ、あの銀行で強盗事件があっただろ?
あの事件を振り返るニュース映像に知人が写っていたから
もしかしたらあの銀行を利用してるんじゃないかと来てみただけさ⋯」
昴さんはそこまで言うと私の手を取り歩きだした
それを見た瞬間蘭ちゃんが顔を輝かせていたけれど見なかったことにする
「利用してるならこの近辺に住んでいるはず⋯
会えたらラッキーだと思ってね⋯」
「じゃあ、その人と会えなかったの?」
「いや⋯偶然あのフロアで見かけたんだが⋯
残念ながら人違いだったようで
声はかけなかったよ⋯
昔からよーく知った顔だから⋯
見間違えるわけないからね⋯」
⋯それって⋯もしかして⋯
そのまま昴さんに手を引かれてお店を出て車に乗る
車を走らせて少しして⋯昴さんが口を開いた
「⋯桜さんはあのキャップの男に気づいてましたよね?」
その言葉に少しだけビクリとしてしまった
「は⋯はい⋯」
「⋯何か思い出した事は?」
「ごめんなさい⋯何も⋯」
「そうですか⋯」
「⋯⋯でも、私、
あの人の顔を見た瞬間⋯
『知ってる』って思ったんです
思い出せないけれど⋯
何か⋯大事な事を⋯忘れてるって」
なんだろう⋯
何で⋯こんなにも『あの人』が気になるんだろう
そもそも何であそこに『赤井さん』が⋯?
赤井さんは今死んでる事になっていて⋯
外にはジンの車があった
だとしたら黒ずくめの組織の罠⋯?
赤井さんの変装をしてFBIのジョディ先生を誘い出して襲うため⋯?
いや⋯違う気がする⋯
そういえば⋯黒ずくめの組織と言えば
水無怜奈から組織の新しいメンバーが動き出したって連絡があって⋯
コードネームは⋯
確か⋯
「っ!?ぁっ⋯ぅっ⋯」
「桜!?」
頭に激痛が走り、助手席で蹲る
昴さんは車を端に停めると私の背中に手をあてた
「どうした⋯?」
「はぁっ⋯っ⋯思い⋯出そうと⋯してる、けど⋯
頭⋯痛くて⋯」
「⋯桜、」
「っ⋯でも⋯あと、少しで⋯ぅっ⋯」
コードネームは
そう
たしか⋯
「桜!!」
「っ!!」
肩を掴まれグイッと身体を昴さんの方に向けられた
「やめろ」
「すばる⋯さ⋯でもっ⋯」
あと少しで⋯
「いいから⋯やめろ」
昴さんはポケットからハンカチを取り出すと
私の鼻にあてた
「⋯え?」
ふとそのハンカチを見ると一部分赤く染まっていて⋯
「え!?ん!?は、鼻血!?」
「そのままあててろ」
「いやでもハンカチ汚れちゃいますよ!!」
「気にするな」
離そうとしたハンカチを半ば無理矢理、昴さんは私の鼻に押し付けた
「す⋯すみません⋯」
「それよりも⋯無理に思い出そうとするな」
「昴さん⋯この鼻血って⋯
やっぱり無理して思い出そうとしたからでしょうか⋯」
「⋯おそらくな⋯」
「⋯⋯」
私は一体⋯
何を忘れているんだろう
ハンカチで鼻を抑えながら
流れだした景色をシートに寄りかかりながら見つめた