9.引力
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「何故こんなことに⋯」
周りには青々とした葉の生い茂る雑木林
「桜ちゃん可愛い~!!」
目の前にはカメラを構える有紀子さん
「ほどほどにしろよな⋯」
それを呆れた顔で見ているコナン君
「なんでこの人も⋯」
「桜さんになにかあっては大変ですからね」
「なにかあった時に男手がわしだけじゃ心もとないからの~」
昴さんを警戒しながら博士の背に隠れる哀ちゃん
微笑む昴さん、笑う博士
「⋯帰りたい⋯」
私のその小さな呟きは小鳥のさえずりにかき消された
事の始まりは昨日⋯
釣りに行っていた少年探偵団の皆を博士の代わりに昴さんが迎えに行ったんだけど⋯
そこで殺人事件に巻き込まれて、コナン君達が解決した
という話を帰ってきた昴さんから聞いた
その後博士の家で少年探偵団が獲ってきた魚を昴さんがさばき、皆で料理を食べて
歩美ちゃん、光彦君、元太君が家に帰った後の事⋯
「桜さん、特訓しない?」
コナン君のその言葉に哀ちゃんに抱き着こうとしていた手を止めた
ちなみに手を止めた瞬間哀ちゃんに手をつねられた
「⋯特訓?」
「うん、この間桜さん魔法を使って丸一日寝てたでしょ?
今後何かあった時の為に特訓してた方がいいんじゃないかなって思って⋯」
「そう言えばそうだったね⋯」
「ほら、桜さん魔法を使うことに慣れたら寝ることも無くなるって言ってたから
実際最近寝る時間も短くなっていたし⋯
だから魔法を使って慣らせばいいんじゃないかと思ってさ」
「なるほど⋯今まで封印する時だけしか魔法を使わなかったけど⋯
その手があったか」
特訓すれば眠る事も無くなるかな⋯
そしたらコナン君や昴さん達に迷惑かけることもなくなるし⋯
「⋯うん!やる!!」
笑顔でそう返事をしたら
横に座っている哀ちゃんからペシっと太腿を叩かれた
「⋯やめておきなさい、特訓なんて危険だわ」
「哀ちゃん⋯でも特訓したら眠る事も無くなるかもしれないし⋯」
「ダメよ、怪我したらどうするの」
「⋯哀ちゃん⋯心配してくれてるの?」
哀ちゃんの顔を覗き込みながらそう言えば
「っ!!べ⋯別に心配なんてしてないわよ⋯」
そう言ってプイっと顔を背けられた
「⋯⋯っ⋯」
「⋯桜さん⋯?」
「ツンデレ最高ぉぉぉぉ!!」
「きゃあ!?ちょ、離れなさいって!!」
隣の可愛すぎる存在に頬ずりしていると
ふと前に座って珈琲を飲んでいた昴さんが口を開いた
「特訓ですか⋯僕も賛成ですね」
「昴さんもそう思うでしょ?」
コナン君のその言葉に昴さんはカップをソーサーにコトリと置いた
「ええ、桜さんの為にも特訓はしていた方がいいと思います
今後僕やコナン君、博士が必ず駆け付けられるという保証はありませんからね⋯」
「それはそうかもしれないけれど
それで桜さんが怪我したらどうするつもりなのよ」
「大丈夫ですよ、怪我なんてさせませんから」
「あら、その自信はどこからくるのかしらね」
あれ⋯なんか⋯哀ちゃん昴さんと普通に話してる⋯?
いや、まあ哀ちゃんの眼光は鋭いけど⋯
そんな二人が珍しくて呑気に珈琲を飲んでいると
「何かあった時は必ず守りますから」
「そんな言葉信じられないわ」
「そうですね⋯
ではもし桜さんに怪我をさせたら責任をとってお嫁にもらいましょうか」
「ブハッ!!!!」
思いっきり珈琲を吹きだした
「ゲホッ!!ゴホッ!!」
「桜さん⋯」
「ぎゃああ!!コナン君ごめん!!
てか昴さん何言ってんですかあんた!?」
吹きだした珈琲は目の前に座っていたコナン君に盛大にかかり
慌ててコナン君の顔をハンカチで拭きながら昴さんに抗議した
「おや⋯嫌ですか?」
「いやいやいや!!!!そういう意味じゃなくて!!
何で特訓の話からその流れになるんですか!?」
「否定しないということは本当にお嫁にもらってもいいととらえても?」
「ドラえもぉぉぉん!!ほんやくコンニャクもってきてぇぇぇぇ!!」
そう叫んでふと哀ちゃんを見れば
「⋯⋯」
「ひっ⋯」
それはそれは人を殺せそうな眼光で昴さんを睨んでいた⋯コワイ⋯
「あ⋯哀ちゃ~⋯ん」
「なに」
心なしか返事が冷たいとです⋯
「⋯哀ちゃん」
まだ昴さんを睨みつけている哀ちゃんに
ギュッと抱き着く
「っ⋯桜さん⋯?」
「哀ちゃん⋯心配してくれてありがとう
でもね、私強くなりたいんだ⋯
いざというときに大切な人を守れるように⋯
哀ちゃんが私の事心配してくれているみたいに
私も力をつけて哀ちゃんや皆を守りたいの
だから⋯お願い⋯ね?」
微笑みながらそう言えば
「·⋯⋯はぁ⋯分かったわよ⋯」
「哀ちゃん!!」
「ただし!!⋯無茶はしないこと⋯約束してちょうだい」
差し出された小さな小指に
「うん!!」
私の小指を絡ませた
「⋯では特訓も決まった事ですし
あの人に連絡をしないといけませんね」
哀ちゃんと二人で見つめあっていると
昴さんがそう言ってスマホを取り出した
「あの人⋯?」
「その人が⋯」
「桜ちゃんこっち向いて~!!」
「有紀子さんだったなんて⋯」
その有紀子さんが何故ビデオを構えているのかというと
今、私の格好は有紀子さんが持ってきたあのワンピースを着ているからで⋯
特訓をするために人気のない米花の森に来れば
そこで待っていたのは有紀子さんで
有紀子さんに捕まった私は車の中でクローゼットにしまっていたはずのあのワンピースに着替えさせられたのだった⋯
「恥ずかしすぎて死ねる⋯
そもそも何で有紀子さん呼んだんですか⋯昴さん⋯」
「有紀子さんに魔法を事前に使う事が分かっていたら
必ず連絡するように言われてましたからね⋯
それによく似合ってますよ」
「そんなこと言っても騙されませんからね」
「ったく⋯ふざけてないで特訓はじめるよ」
「私はふざけてないんだけど⋯まあいいや⋯」
コナン君のその言葉に首にかけていた夢の鍵を取り出し目の前に掲げる
「『夢の力を秘めし鍵よ
真の力を我の前に示せ!
契約の元桜が命じる!
封印解除(レリーズ)!!』」
小さな鍵は杖になり、それを掴んで構える
「わぁ⋯初めて見たけど凄いわね⋯」
有紀子さんはそう言いながらもビデオを構えていた
なんか知世ちゃんみたいだな⋯
私がさくらちゃんポジションなんておこがましいにも程があるけど⋯
「でも特訓っていっても何をすればいいのか⋯」
具体的に何をすればいいのか分からずに困っていると
昴さんが助け舟を出してくれた
「そういえば最近封印したカードはどんなことが出来るんですか?」
「え?そうですね⋯」
この間封印したのは『行動(アクション)』
実際に使って見せようとして、
ふと側にシロツメクサが生えている事に気づいた
「そうだ!!
ちょっと見ててくださいね」
昴さん達にそう言って、シロツメクサに向けて杖を構える
そしてバッグからカードを取り出した
「『行動(アクション)!!』」
すると生えていたシロツメクサが動き出し、輪を作る
数分もしないうちにシロツメクサの花冠ができていた
「できた!!」
出来上がった花冠を持って哀ちゃんの方へ向かい
「はい、哀ちゃんにプレゼント!!」
そっとその頭に花冠を乗せた
「⋯随分と安上がりなプレゼントなのね」
哀ちゃんはそう言って顔を背けたけれど
その頬はほんのりと赤い
それを確認して緩む頬を抑えきれずに立ち上がった
「よし⋯今度は⋯」
アクションを使い、今度は草を編み込み小さな的を何個か作る
そしてそれを木のあちこちに吊るし
「『全ての的を切れ!
疾風(ゲール)!』」
ゲールで全ての的を切り裂いた
「ほぉ~⋯すごいのう、全部見事に切れておるぞ」
「やった⋯成功した⋯」
その後、コナン君にボールを蹴ってもらってそれをリフレクトで跳ね返したり
アクアで水の球体を作ったりした
「桜さん眠くなったりは⋯?」
「うーん⋯結構魔法発動してるけどまだ眠くならないな⋯」
コナン君の隣にしゃがみながらそう答えた瞬間
グウぅぅぅぅぅ⋯
「⋯⋯」
「⋯⋯」
「⋯桜さん朝ごはん食べてきた⋯?」
「た、食べてきたよ!!」
盛大に私のお腹が鳴り
恥ずかしくなって両手でお腹を押さえる
おかしいな⋯ちゃんとご飯食べてきたのに⋯
しかもまだそんなに時間経ってないし⋯
そう思いながらもまたアクションで草の的を作り
ゲールでそれを切り裂いた瞬間
「え⋯」
急に僅かな眠気を感じ、ぐらりと身体が傾く
そのまま倒れるかと思ったけれど
「大丈夫ですか?」
昴さんが私の身体を支えてくれた
「あ⋯ありがとうございます」
「眠気がきたんですか?」
「はい⋯今は大丈夫ですけど⋯
多分次魔法を使ったら眠っちゃうかも⋯」
そう言って昴さんから距離をとろうとしたら
グウぅぅぅぅ
「っ!!」
またお腹が鳴った
「あああ、あの!!これは、その、ちがくて!」
恥ずかしくなって慌てて昴さんと距離をとれば
昴さんは何かを考えるように顎に手を当てていた
「昴さん⋯?」
「⋯桜さん、『水源(アクア)』を封印した時
雨が降っていたので僕が迎えに行きましたよね」
「?はい⋯」
「その日昼食は何時に摂りましたか?」
「えぇ⋯あんまり覚えてないですけど⋯
多分13時頃かなぁ⋯」
「それ以降食事は?」
「摂ってないないですけど⋯」
昴さんの質問の意図が分からずにいながらも
あの日の事を思い出しながらそう言えば
「!!桜さん!!
あのキッドの時最後に食事を摂ったのはいつ!?」
何かに気づいたのかコナン君がそう言った
「えーっと⋯あ!そういえばあの日は忙しくて昼食摂れなかったんだった
だから食べたのはお昼前につまんだサンドイッチ一切れぐらいかなぁ⋯
仕事終わった後も急いで錦座に行ったから⋯」
「もしかしたら⋯」
「コナン君?」
「⋯有紀子さん、お昼用にお弁当作りましたよね
今持ってきてますか?」
「ん?あるわよ~」
昴さんにそう言われ有紀子さんは後ろに置いてあった鞄からバスケットを取り出した
コナン君がそれを受け取り私の方に持ってくる
「桜さんこれ食べて」
「え?でもまだお昼には早いし⋯」
「いいから食べてみてよ
お腹すいてるんでしょ?」
「う⋯うん⋯」
哀ちゃんからお手拭きを貰いバスケットを開けると
そこには美味しそうなサンドイッチが並んでいた
「わぁ⋯美味しそう⋯」
「でしょ~?私としゅ⋯昴さんで作ったのよ~」
今秀ちゃんって言おうとしたな⋯有紀子さん
「へぇ~そうなんですか~⋯っていつの間に!?」
「桜さんが寝ている間に作ったんですよ」
だから有紀子さんがお弁当持ってた事知ってたんだ⋯
「ほぉ〜⋯美味しそうじゃな⋯
どれ、わしも一つ⋯」
「博士はダメよ」
サンドイッチに手を伸ばそうとした博士の手を哀ちゃんがバシッと叩く
「厳しいのぉ⋯」
その二人の様子に苦笑いした後
サンドイッチにかぶりついた
「ごちそうさまでした」
サンドイッチを食べれるだけ食べて両手を合わせると
「んじゃさっそく魔法使ってみてよ」
「へ?」
コナン君のその言葉に目を丸くする
「で⋯でもまた使ったら⋯」
「大丈夫だって」
「コナン君⋯」
「僕を信じてよ、ね?」
「⋯分かった」
杖を構え、さっき切り損ねたいくつかの的を見つめる
「『全ての的を切れ!
疾風(ゲール)!!』」
風は全ての的を切り裂いたけれど
私の意識ははっきりとしていた
「あ⋯れ⋯?」
眠くならない⋯?
「やっぱりそうですか」
「昴さん?」
「桜さんの魔力のエネルギー源は食や睡眠ではないのでしょうか」
「食⋯睡眠⋯?」
「桜さん今までカードを封印して眠ってた時
いつもお腹が空いてたんじゃない?」
「ん~⋯そう言われれば⋯
でも包囲を封印した時は夕ご飯食べた後だったような⋯」
「それは単純に魔法を使うことに慣れていなかったからでしょう」
「あのカードは2枚目だったからね」
「なるほど⋯」
確かに言われてみればそうかも
「じ、じゃあ魔法を使う前にちゃんと食事を摂ってエネルギーを補給してたら眠ったりしないってこと⋯?」
「多分だけどね」
「そっか⋯そっか!」
これで⋯これで皆に迷惑かけなくて済むんだっ⋯
「やったよ哀ちゃ~ん!!」
「きゃあ!!」
嬉しくなって哀ちゃんに抱き着き
その身体を抱きかかえてその場でくるくると回る
「ちょ!落ち着きなさいって!!」
「えへへ~」
「やーん!二人とも可愛い~!!」
「桜くん落ち着いて!!」
「つくづく思うけど⋯魔法が使えるのが桜さんみたいな人でよかったよ⋯
まだ謎が多いけれど⋯あの力は使い方を間違えれば⋯」
「⋯桜だから、じゃないか?」
「え⋯」
「桜だからあの力が使えるんだろうな」
「あか⋯昴さん⋯⋯そうだね」