朝起きたらなんか背がたけえ。
──某有名映画、you're nameの時はどうやって入れ替わっていたっけ。
そんなことを考えながら見上げる天井は近すぎて手を伸ばしたら届いてしまった。幼き頃にベッドの上で飛び跳ねて天井を触ろうとしていた記憶が蘇る。
だって、触りたくならない? え? ならないって? そっか……。
手のひらを見ればいつも手袋をしているからか、ただでさえ白い肌が日焼けをしていない分、さらに白くなっている。ゴツゴツと骨ばっている男らしい手につい感心してしまう。
これは本当に一大事なのである。こんなことに感心している暇では決していないのだけど、どうしても性別が変わると身体の節々に違いが出て感心してしまうのだ。
ただ一つ言うならば、目線が高すぎて怖い。
「ああ、ここにいましたか」
音も立てずに入ってきた目の前の人物に目線を向ければ、ニコニコと笑顔のまま少し眉をひそめていた。さも困った、という様子のように見えるがこれは楽しんでいる時の顔である。ワタシシッテル。
自分の声って、そんなふうに聞こえるのか。聞きなれない自分の声を聞くとなんだかソワソワしてしまう。それに──。
「ジェイド先輩、その姿でデフォルト笑顔貼り付けるのやめてください」
どちらかと言えば表情筋の固い顔なのにニコニコと笑顔な先輩……否、自分がどこか不気味で、ここまでどうやって来たのか不思議だ。何かを企んでいるのか、もしくはオクタの連中に何かされたのかと周りで噂になっていないといいが。なんせ、中身はともかく身体に魔力が一切ないため、魔法は使えない。要するに姿を消したりなどが出来ないのだ。
「ふふ、監督生さんはいつも、僕がこんな風に見えているのだと思うと楽しいです」
「いいえ全く楽しくありません。いつ殺されるのやらと怯えてしまいますよ」
「ああ、この姿だと不便だ。余計なことを言う監督生さんを黙らせることも出来ませんね」
「ゴメンナサイ」
こういう時は素直に謝るのが一番だってじっちゃんが言ってた! きっと元に戻った途端締められる。フロイド先輩ほどじゃなくとも、彼だって立派なうつぼの人魚だ。それにスカラビアの一件以来、双子のやばくない方から、双子の実はやばい方というのを知ってしまった。もう逆らえまい。
おや、黙るなんて案外素直ですね。なんて小馬鹿にしたように言うジェイド先輩は率直に言って怖い。馬鹿にしないでくれません?? なんて言ってみろ、首と胴体がおさらばする。まだ仲良く繋がっていたいだろう、大人しくしておけ。
状況説明が遅くなってしまったが、要するにジェイド先輩と中身が入れ替わってしまったのだ。
「とりあえず、先生に中身が入れ替わったのだと伝え──」
「いえ、今日一日僕は監督生さんになります」
「ナンテ??」
「一日くらいいいじゃありませんか。こんな体験、そうそうできませんよ」
なんでこうも先っちょだけ! 先っちょだけでいいから! のノリなのだろう。理解することを脳みそが拒否している。
本当に理解ができない。理解ができないあまりに敬語さえも外れたうえ、カタコトにまでなってしまった。アイアムニホンジン。アイキャントスピークイングリッシュ。いやででにーに日本人とかいう概念ってあるの?
まずい、このまま進んでしまえば時を戻して貰わなければ監督生は既に死んで、その死んだ人と中身が入れ替わるとんだホラーリアル劇場の幕開けになってしまう。何よりもホラーなのが自分自身が死んでいるということである。怖。
異世界から飛んできている辺り何も言えないしありえないと一概に否定できないのが現状なのだ。
「you'renameのドッキリ劇でもやりたいんです?」
「なんで劇をやらなくてはならないんですか?」
「じゃあなんで周りに話さないんです?」
「監督生さんの見る世界や、魔法の使えない気持ちを理解しておきたくて」
「本音は?」
「面白そうじゃないですか」
「モウヤダ……」
そろそろツッコミが追いついてこない。入れ替わってる!? のあの有名な場面を周りを驚かせるべく内緒にして、いきなり劇をやりたい訳でもないのに黙っている意味が無いのではないか。
まって、彼はyou'renameを知っている……?
「えっ、ジェイド先輩you'rename知ってるんですか!?」
「知っていると思いましたか?」
「デスヨネ」
この世界にも映画というものはあるだろうが、あれはこの世界にないらしい。あったらビックリするけれど。weathering with youのほうも素晴らしかった。あれはででにー界では信じられない話なのかもしれない。今度時間があれば話してみようと思う。
女の子が祈ると空が本当に晴れるなんて信じられないだろう。魔法も使えない女の子なのに、と。
ああ、またどうでもいい話ばかりしてしまう。現実逃避をサラリとこなす自分を褒めたたえたいところだが、残念ながら学校が始まるまでもう時間があまりない。この状況をどうにかしたいのにどうにも出来ないのだ。
意見が対立している上に相手は先輩(しかも逆らうと怖い)と、ただのへなちょこな私とだと、どちらの方の意見が採用されるかなんてもう分かりきっている。そう、私は先輩の言った通り大人しく二つ返事で頷くという手段しか残っていないのだ。
「面白そうという理由で私の寿命が縮むんですよ!」
「僕、ですよ。あなたは今ジェイド・リーチなのですから」
「は〜〜〜もう聞いてねえ〜〜〜〜」
「タメ口は基本使っていませんのでお気を付けて」
では。とにっこりと笑ってもう部屋の外に出ていってしまった。何が「では」なのだろうか。理解がさっきから一拍遅れてしまうために、戸惑っているうちにもうどこかへ行っていた。
棒立ちになっていたところに、再び扉が勢いよく開く。考え直してくれたのだろうかという期待も綺麗に打ち砕かれた。
「ねぇねぇジェイ、ジェ……!! 聞いて!!」
「名前も呼べていませんよ」
「聞いてジェイド!! 小エビちゃんがね!」
フロイドの言葉と様子にもうなにかしたのかと頭が痛い。キラキラと輝く瞳、少し紅潮した頬。
そして何より同じ身長なのが不思議だ。顔がいい。近い。
「オレのこと、好きだって!!」
「ゲフッ」
「うわ、なに急に」
「は?? すみません、少し監督生さんとお話してきます」
「うんうん、いいよぉ〜! 嘘じゃないから! オレ、小エビちゃんが行きそうな場所わかるから、案内したげるね!」
目をキラキラと輝かせるその顔は正しく好奇心旺盛な男子高校生。いつもは大きくて怖いと思ってしまう彼も、こうして同じ視点になれば可愛いものだと、自然と笑みが零れた。キレつつも微笑む。これ、ジェイド先輩になれてるんと違うん?? 今日一日乗り切れる気がしてきた。
が、先程の言葉を理解した途端に私の表情筋はまた凍りついた。小エビちゃんがいきそうな場所俺わかるから?? 行動の把握? 神出鬼没だと思っていたが場所を片っ端から辿って行けば会うよな、そうだよな……こんなに広いのに遭遇率が高いのはもう既にほぼ居場所までバレているということらしい。
しばらく黙り込んだ私を疑問に思ったのか、続けて「オレの野生の勘に外れはないって言ってたのはジェイドでしょ?」とオーバーキルされた。
野生の勘はGPSがなくても当たるとか怖……。しかもその様子だと余程外れないらしい。純粋に恐怖を抱いた。ウツボ怖。
そして始まる地獄の入れ替わりライフ。
そんなことを考えながら見上げる天井は近すぎて手を伸ばしたら届いてしまった。幼き頃にベッドの上で飛び跳ねて天井を触ろうとしていた記憶が蘇る。
だって、触りたくならない? え? ならないって? そっか……。
手のひらを見ればいつも手袋をしているからか、ただでさえ白い肌が日焼けをしていない分、さらに白くなっている。ゴツゴツと骨ばっている男らしい手につい感心してしまう。
これは本当に一大事なのである。こんなことに感心している暇では決していないのだけど、どうしても性別が変わると身体の節々に違いが出て感心してしまうのだ。
ただ一つ言うならば、目線が高すぎて怖い。
「ああ、ここにいましたか」
音も立てずに入ってきた目の前の人物に目線を向ければ、ニコニコと笑顔のまま少し眉をひそめていた。さも困った、という様子のように見えるがこれは楽しんでいる時の顔である。ワタシシッテル。
自分の声って、そんなふうに聞こえるのか。聞きなれない自分の声を聞くとなんだかソワソワしてしまう。それに──。
「ジェイド先輩、その姿でデフォルト笑顔貼り付けるのやめてください」
どちらかと言えば表情筋の固い顔なのにニコニコと笑顔な先輩……否、自分がどこか不気味で、ここまでどうやって来たのか不思議だ。何かを企んでいるのか、もしくはオクタの連中に何かされたのかと周りで噂になっていないといいが。なんせ、中身はともかく身体に魔力が一切ないため、魔法は使えない。要するに姿を消したりなどが出来ないのだ。
「ふふ、監督生さんはいつも、僕がこんな風に見えているのだと思うと楽しいです」
「いいえ全く楽しくありません。いつ殺されるのやらと怯えてしまいますよ」
「ああ、この姿だと不便だ。余計なことを言う監督生さんを黙らせることも出来ませんね」
「ゴメンナサイ」
こういう時は素直に謝るのが一番だってじっちゃんが言ってた! きっと元に戻った途端締められる。フロイド先輩ほどじゃなくとも、彼だって立派なうつぼの人魚だ。それにスカラビアの一件以来、双子のやばくない方から、双子の実はやばい方というのを知ってしまった。もう逆らえまい。
おや、黙るなんて案外素直ですね。なんて小馬鹿にしたように言うジェイド先輩は率直に言って怖い。馬鹿にしないでくれません?? なんて言ってみろ、首と胴体がおさらばする。まだ仲良く繋がっていたいだろう、大人しくしておけ。
状況説明が遅くなってしまったが、要するにジェイド先輩と中身が入れ替わってしまったのだ。
「とりあえず、先生に中身が入れ替わったのだと伝え──」
「いえ、今日一日僕は監督生さんになります」
「ナンテ??」
「一日くらいいいじゃありませんか。こんな体験、そうそうできませんよ」
なんでこうも先っちょだけ! 先っちょだけでいいから! のノリなのだろう。理解することを脳みそが拒否している。
本当に理解ができない。理解ができないあまりに敬語さえも外れたうえ、カタコトにまでなってしまった。アイアムニホンジン。アイキャントスピークイングリッシュ。いやででにーに日本人とかいう概念ってあるの?
まずい、このまま進んでしまえば時を戻して貰わなければ監督生は既に死んで、その死んだ人と中身が入れ替わるとんだホラーリアル劇場の幕開けになってしまう。何よりもホラーなのが自分自身が死んでいるということである。怖。
異世界から飛んできている辺り何も言えないしありえないと一概に否定できないのが現状なのだ。
「you'renameのドッキリ劇でもやりたいんです?」
「なんで劇をやらなくてはならないんですか?」
「じゃあなんで周りに話さないんです?」
「監督生さんの見る世界や、魔法の使えない気持ちを理解しておきたくて」
「本音は?」
「面白そうじゃないですか」
「モウヤダ……」
そろそろツッコミが追いついてこない。入れ替わってる!? のあの有名な場面を周りを驚かせるべく内緒にして、いきなり劇をやりたい訳でもないのに黙っている意味が無いのではないか。
まって、彼はyou'renameを知っている……?
「えっ、ジェイド先輩you'rename知ってるんですか!?」
「知っていると思いましたか?」
「デスヨネ」
この世界にも映画というものはあるだろうが、あれはこの世界にないらしい。あったらビックリするけれど。weathering with youのほうも素晴らしかった。あれはででにー界では信じられない話なのかもしれない。今度時間があれば話してみようと思う。
女の子が祈ると空が本当に晴れるなんて信じられないだろう。魔法も使えない女の子なのに、と。
ああ、またどうでもいい話ばかりしてしまう。現実逃避をサラリとこなす自分を褒めたたえたいところだが、残念ながら学校が始まるまでもう時間があまりない。この状況をどうにかしたいのにどうにも出来ないのだ。
意見が対立している上に相手は先輩(しかも逆らうと怖い)と、ただのへなちょこな私とだと、どちらの方の意見が採用されるかなんてもう分かりきっている。そう、私は先輩の言った通り大人しく二つ返事で頷くという手段しか残っていないのだ。
「面白そうという理由で私の寿命が縮むんですよ!」
「僕、ですよ。あなたは今ジェイド・リーチなのですから」
「は〜〜〜もう聞いてねえ〜〜〜〜」
「タメ口は基本使っていませんのでお気を付けて」
では。とにっこりと笑ってもう部屋の外に出ていってしまった。何が「では」なのだろうか。理解がさっきから一拍遅れてしまうために、戸惑っているうちにもうどこかへ行っていた。
棒立ちになっていたところに、再び扉が勢いよく開く。考え直してくれたのだろうかという期待も綺麗に打ち砕かれた。
「ねぇねぇジェイ、ジェ……!! 聞いて!!」
「名前も呼べていませんよ」
「聞いてジェイド!! 小エビちゃんがね!」
フロイドの言葉と様子にもうなにかしたのかと頭が痛い。キラキラと輝く瞳、少し紅潮した頬。
そして何より同じ身長なのが不思議だ。顔がいい。近い。
「オレのこと、好きだって!!」
「ゲフッ」
「うわ、なに急に」
「は?? すみません、少し監督生さんとお話してきます」
「うんうん、いいよぉ〜! 嘘じゃないから! オレ、小エビちゃんが行きそうな場所わかるから、案内したげるね!」
目をキラキラと輝かせるその顔は正しく好奇心旺盛な男子高校生。いつもは大きくて怖いと思ってしまう彼も、こうして同じ視点になれば可愛いものだと、自然と笑みが零れた。キレつつも微笑む。これ、ジェイド先輩になれてるんと違うん?? 今日一日乗り切れる気がしてきた。
が、先程の言葉を理解した途端に私の表情筋はまた凍りついた。小エビちゃんがいきそうな場所俺わかるから?? 行動の把握? 神出鬼没だと思っていたが場所を片っ端から辿って行けば会うよな、そうだよな……こんなに広いのに遭遇率が高いのはもう既にほぼ居場所までバレているということらしい。
しばらく黙り込んだ私を疑問に思ったのか、続けて「オレの野生の勘に外れはないって言ってたのはジェイドでしょ?」とオーバーキルされた。
野生の勘はGPSがなくても当たるとか怖……。しかもその様子だと余程外れないらしい。純粋に恐怖を抱いた。ウツボ怖。
そして始まる地獄の入れ替わりライフ。
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